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火付盗賊改方 その1


 乱暴狼藉をはたらく盗賊が跋扈する世相を憂慮した幕府は、特別警察
火付盗賊改め方、略して「火盗改め」を設置した。
長谷川平蔵は、その長官である。
その、峻烈な取り調べは、盗賊共を震え上がらせ、「鬼の平蔵」の異名をとる。
 
神田明神下、甚兵衛長屋に住む留吉、さる旗本の台所方の通い料理人である。
とは言ってもまだ下働きで、これから料理人として一人前になりたいと願っていると言った方が正確であろう。
 
留吉、今日も勤め先の賄いで夕食を済ませ、唯一の楽しみである晩酌をちびりちびりとやっている。
とそこへ、「ドンドン!」激しく表戸板を叩く音、「為吉開けい!そこに居ることは、わかっている!」
『へっへへーい、今、開けます』
 
『神妙にしろ!火盗改め 長谷川平蔵である。』
「えっ!カトウアラタメ……ハセガワ・・・
あっ、なるほど、加藤改め長谷川さん。
なるほど、加藤さんが長谷川さんに御養子にいかれなすったんですな。
この度はおめでとうございます。」
『お、おめでとう?・・・
お、おまえ、もしかしてふざけてるのか?』
「め、めっそうもございません。加藤様、あいや長谷川様」
『そちは、盗賊 花草一家の仲間、為吉であろう!神妙にしろ!』
「はなくそ一家?」
『おまえ、ふざけてるよな?』
「と、とんでもごさいません!」
『名は、為吉で相違無いな』
「いえ、だからトメキチです!」
『何!タメキチではないのか?』
「へい、留吉です。為吉は、となりのとなりのとなり……」
『ええーい、となりは誰なんだ!』
「へぇ、てめ吉です」
『じゃ、そのとなりは?』
「へぇ、つめ吉でござんす」
『んー?するてぇとあれか?、その隣は、ちめ吉だな?』
「いえ、田吾作です」
 
『お、おまえ、ふざけてるよな・・・』


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