文酔人卍

ここに表現するものは随筆、短編小説に分類されると思う。しかし、生来お調子者の小生は、活…

文酔人卍

ここに表現するものは随筆、短編小説に分類されると思う。しかし、生来お調子者の小生は、活字離れ(読書離れ)が加速する時代に小さな波紋を起こすことを熱望する。古来、和歌全盛の折に俳句が登場したように短を是とする文学に挑戦するのである。まるでドン・キホーテのように・・・。

最近の記事

井坂勝之助 その22

虎千代 3 その後 勝之助は常に虎千代と行動を共にした。 青竹を持っての打ち合いを見学し、川に魚を突きに行き、また山へ狩猟に出かける。 時には畑仕事にも精を出した。 勝之助にとっては全てが修行であり、またそのように考え行動し、無駄に時を過ごしているという感覚はまるでなかった。 そのような考えで行動していると、瞬く間に時は過ぎ、三月の時が流れた。 そんなある日、 「虎師匠、今度は私に魚を突かせてくれないか」 「もちろんいいよ、でもまだ無理だろうな・・・」 勝之

    • うな重

      沙代子には二人の娘がいる。 三人暮らしの母子家庭であった。 沙代子は女手ひとつで、二人の娘を立派に育て上げた。 現在では、二人とも結婚し幸せな家庭を築いている。 必然的に沙代子は現在一人暮らしである。 幸い、二人の娘は車で10分程度のところに居を構えているので、会おうと思えばいつでも会える。 次女は何事もマイペースなタイプで滅多に連絡してくることはない。 その点、長女は定期的に連絡してきては近況を知らせてくれ、2〜3ヶ月に一度は食事に誘ってくれる。 ある

      • 井坂勝之助 その21

        虎千代 2 武者修行に出る前の一年間、どのような相手であっても一度も遅れをとるようなことはなかった。 それがどうだ、子供の遊びのようなものとは言え、剣術の立ち合いの体をなしている。 負けるはずがない‥と思っていた。 しかも相手は年端も行かぬ少年である。 勝之助は悔しさよりも、世の中というものの広さを感じた。 剣の道に慢心は禁物・・・ 勝之助は心に刻んだ。 虎千代の魚を突く技といい、この申し合いといい勝之助は思わずニヤリと笑い、 「これはしばらく此処に逗

        • 随 筆

          人生というもの 人生80年として、現役生活は個々人によってそれぞれであろうが、ここでは60年としよう。 個人差はあるだろうが、20年は子供、学生の時期として、現役年数は40年となる。 そして、 これまた長短あるだろうが、一生を通して概ね8時間睡眠としよう。 つまり1日の三分の一である。 つまり40年のうち約13年は寝ていることになる。 起きて活動しているのは残り27年。 さらに、生きていく為の衣食住を確保する労働を同じく8時間として13年。 残りは14年。

        井坂勝之助 その22

          井坂勝之助 その20

          虎千代 何やら庭で子供達が剣術の稽古らしきことをしているようである。 手に握り締めているものは木刀ではない。 子供が振ってもしなるような若竹である。 剣術と呼べるようなものではないが、勝之助思わず見入ってしまう。 むやみに振り回しているわけではなさそうだ。 切り込めばかわし、反撃に出る。 鍔迫り合いのようなものは一切無い。 脚を払うような切り込みには時には飛んで、大上段から振り下ろす。 「いかがですかな。なかなかのものでしょう」 いつの間にか、隣に長時が

          井坂勝之助 その20

          井坂勝之助 その19

          少年に後に従い山中をしばらく歩くと、突然視界が開ける。 緩やかな山腹に田畑が開墾され、数十件の民家が点在し、それぞれから夕餉の炊煙が立ち上っている。 その一番高い位置に城郭のような建物が威容を誇っている。 少年は、その建物に向かって驚くような速さで駆け上っていく。勝之助はついて行くのが精一杯であった。 「じじ様、虎千代ただ今戻りましてござります」 「そうか、この少年は虎千代という名なのか、 ただの地元の子供ではないと思ってはいたが・・・」 勝之助、心の中で名前を反芻

          井坂勝之助 その19

          井坂勝之助 その18

          子供ながらなかなかの集中力・・・などと思っていると子供の右手から細竹が投げられた。 少しの間、川面を見詰めていたが、すぐに真反対側に向き直り再び川面を見詰める。 「ははぁ、可哀そうに魚は獲れないようだな・・・」 少年は同じ作業を何回か繰り返し、持っていた細竹は無くなった。 「今日は不漁のようだな。ははは・・・」 勝之助、笑いながら少年に近づこうとした瞬間、少年が何かを手繰り寄せる仕草をする。 「ん?・・・」 驚いたことに先程来、投げていた細竹には紐が付けられており

          井坂勝之助 その18

          井坂勝之助 その17

          勝之助は十六歳の折、童髪を落とし月代にするのみで成人の儀式とした。 大身の旗本の家とはいえ、次男坊部屋住み身であったせいか、烏帽子を着ける儀式などは簡略化された。 この時代、次男坊以下は一般的に部屋住みと呼ばれ、無職居候の身分であった。 大名であれば分家独立ということもあったようだが、家格の下がる養子への話がなければ、 あくまでも長男の万一に備えて家名存続のための待機の身分である。 勝之助、間もなく十八歳になろうかと言うある日、 「父上、勝之助、剣術修行も兼ね旅へ出たく存

          井坂勝之助 その17

          井坂勝之助 総集編(未完)

          井坂勝之助 その1見切り 浮きはぴくりとも動かない。 空気は澄み渡り、心地よい。 海は満潮時か川面は少し膨らんでいる。 「殿様・・・」 梅が徳利を掲げる。 「うむ」 梅は江戸では名の知れた料亭の娘である。 船梁に浅く腰を据えた井坂勝之助、梅の酌を受ける。 梅の頬は少し紅い。 化粧をしていないのである。 船頭のはからいで、徳利、お重を置く渡し板、梅の座る莚。 この船頭、なかなか気が利く。 名は竹蔵 数年来の付き合いである。 「旦那、そろそろ引き揚げますか」 「そうだな」勝

          井坂勝之助 総集編(未完)

          火付盗賊改方 その3

          火付盗賊改方 その3 長谷川平蔵役宅 「この頃は、悪党どもがやけにおとなしくしておるようだな。 何か情報は入らぬか」 「そうですね、密偵からも何も連絡がありません。まぁ、平和で良いと言えば良いのですが何とも皆暇を持て余しておるようで‥」 「うむ、密偵を数名呼んでくれぬか。 世間話でもしながら様子を聞いてみよう」 数日後、密偵数名が平蔵宅の庭先に控える。 「おうおう、今日はわざわざすまねぇな。 あっ、そこじゃ落ち着かぬ。まぁこちらへ上がんな。 おーい、皆に茶菓子でも

          火付盗賊改方 その3

          音楽の天使

          筆舌に尽くしがたい‥‥ という、ありきたりな言葉しか思い浮かばない。 この少女、当時8歳だという。 詳しくは分からないが、ヨーロッパでのヴァイオリンのコンテストでの映像らしい。 演奏後、審査員の3人が普通の拍手からアンコールをせがむような拍手に変わる。 コンテストというより、まるでソロコンサートの一場面のようである。 曲はサラサーテのツィゴイネルワイゼン。 ヨシムラヒマリ 吉村妃鞠さん 少女の名前だ。 世界中の名だたるコンテストで全て一

          音楽の天使

          天才ムンムン大統領 【おまとめ集】

          天才ムンムン大統領 その1影武者 1 K国 赤瓦台 新任大統領補佐官 「大統領、かの国がまたまた我が国の好意を拒絶したようです」 大統領、泰然と構えニコニコしながら・・・ 「将軍様も困ったものだな、そろそろ私がまた直にお会いして、話した方がよさそうだな」 新任大統領補佐官 「無駄だと思います」 大統領いささかムッとした顔で、 「何故だね!」 新任大統領補佐官 「影武者と何度会っても意味は無いのではないかと」 大統領、鬼の形相で、 「か、影武者!?」

          天才ムンムン大統領 【おまとめ集】

          パラレルワールド

          パラレルワールド R国 ピスカフ大統領報道官 「大統領、おはようございます」 「ああ、おはよう。 何か変わったことはないかね」 「それが‥」 「どうした?何かあったのか」 「極めて奇妙なことが‥」 C国 主席秘書官 「おはようございます。総書記」 「おはよう。今日の予定はどうなってたかな」 「はい、その前に奇妙なことが‥」 R国、C国をはじめ独裁国家と呼ばれる全ての国の独裁者官邸で同じような会話が繰り広げられる。 「なに!国民がいない?!」 「

          パラレルワールド

          先輩【おまとめ集】

          先輩 1小生、都内の一流と呼ばれる商社に1年前に入社し、現在にいたる。 同じ課に5年先輩の同僚がいる。 同僚だ。 上司ではない。 しかし、小生はこの先輩が何となく好きである。 理由は‥‥分からない。 先輩の名前は牧上さんだ。 週末の仕事終わりの夕方、行きつけの居酒屋で先輩と飲む。 まるで恋人同士のように3日とあけずに飲むのである。 2人とも全く女にモテないんだから、当然といえば当然の成り行きである。 「おい、加津上、女ってのはなぁ」 「はい、先輩」 「決してへらへら下手に

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          光明【総集編】

          第一章突然変異 突然変異?、新しい人類?の可能性がある・・・らしい。 カチンスキのもとへ届いた情報である。 国立人類学研究所、カチンスキが研究に没頭する場所である。 科学の驚異的進歩、特にAIに関しては、いずれ人類を凌駕するのではないか、 既にコントロールする側のはずの人間とAIの立場は主客転倒しているかのようである。 それに対してあたかも警鐘を鳴らすかのように、ハリウッド映画などでは一つのジャンルになって久しい。 今こそ、人類は原点回帰すべきではないか・・・カチンス

          光明【総集編】

          江戸っ子

          江戸時代中期、日本橋近くの茶店、 「何だとぉ!京の都に行ったことがあるかって?」 「てやんでぇ!あたぼーよ!おいらはチャキチャキの江戸っ子なんでぇ」 「なぁ、熊公」 「もう五年くれぇ前になるか、京の都で、芸妓をあげて飲んだものよ」 「泊まった旅籠でよぉ、どこか芸妓をあげて、どんちゃん騒ぎが出来るとこは、無ぇかい?て聞いたらよぉ、いちげんさんは、お断りっつーじゃねぇか」 「バカ野郎、こちとら江戸っ子でぇ」 「おい、熊公!てめぇ今晩は源七だぁ。おいらが源八、これで二