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弔うように。

日比谷野音まで、bonobosの解散ライブを観に行った。ボーカルの蔡くんの声の延び。複雑なリズムから起こるグルーヴ。自然と手拍子をし、揺れる体。好きな曲では涙も出た。

大学生の頃、アルバイトから帰宅した深夜に、ソファーに寝っ転がって、1人でスペースシャワーTVを眺めるのが習慣だった。番組のパワープッシュで不意に流れたTHANK YOU FOR THE MUSIC。MVのロケ地は見慣れた駒沢公園。リズムに合わせて動く敷石。ギター、ベース、ドラム、パーカッション。各楽器の無駄の無さと、何よりも歌声に一発で虜になった。翌日にタワーレコードでCDを買った。

ライブには何度も参加した。ライブ終了後、当時のドラム、辻くんが投げたスティックが放物線を描く。思い出はスローモーション。人が群がり視界の悪い中、タイミングを合わせてジャンプをし、手をぎゅっと握る。右手にスティックが握られていた。帰り道、剥き出しで持ち歩くことに、誇らしさと恥ずかしさがあった。

メンバーの脱退や加入、音楽性の変化など、聴かない時期もあったけれど、フェスでタイミングが合う時には観るようにしていた。その度に、唯一無二の声と演奏力には心を動かされた。僕が惹かれるのは、聴いたことのない曲を演奏した時でも、がっちりと心を鷲掴みにしてくるバンドなのだな。

最後だし観に行っておこう、と軽い気持ちで取った解散ライブのチケットだったけれど、ライブ後からの喪失感が凄まじい。ずっと聴いておけば、もっと観に行っておけば、と後悔は募る。そういう気持ちが、弔いにも似ているけれど、音楽はずっと残り続けるのであって、あの頃や、これからに寄り添い続けてくれることだろう。

野音は観る側にとっても、特別な会場だ。ライブを観ている時に、2006年7月17日の野音にフラッシュバックした。16年前に行われたbonobosのワンマンライブ。雨と音楽を一緒に浴びた友だちは、今も元気にしているだろうか。

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