【今日コレ受けvol.028】“ふつう”の日記
朝7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。
「大丈夫。そんなにお腹空いてないよ」
「直接会えなくても、ちゃんとLINEで連絡とってるから」
万一戦争が起きてしまったら、息子が言いそうな言葉を想像した。
それだけで、お腹に鉛みたいなものが入った感じがして、重く息苦しい。
食べ物と友達。
彼から、そのふたつを取り上げなければならない日がきたら。
そして、それ以上に命が脅かされる日がきたら。
自分は何を言ってあげられるだろう。
きっと毎日、あやまってばかりな気がする。
ごめんね。
こんな世の中にしてしまって、本当にごめん。
日本という国の大人の一人として、責任がないとは言えない。
中学生のとき、アムステルダムに暮らしていた少女、アンネ・フランクさんの日記を読んで驚いた。
その大半が、“ふつう”の話だったからだ。
ナチスから逃れるために家族と隠れ家に住み、強制収容所に送られ、過酷な環境でチフスを発症して命を落とした少女の日記。
さぞや、苦しいことが書かれているに違いない。
そう覚悟してページをめくったら、自分となにも変わらない少女がそこにいた。優秀な姉に劣等感を感じ、あれこれ言ってくるお母さんに反抗し、おばあちゃん子で、先輩との恋に悩む女の子。
そこにときどき、暗いニュースや平和への祈り、戦禍の我慢が見え隠れする。
だからこそ、リアルに想像してしまった。
もし今自分が戦争に巻き込まれたら、こんな日々が待っているのかも、と。
そして、母になった現在はどうしても、息子の姿に重なる。
「僕は大丈夫だよ」
心配してどんな言葉をかけても、彼はきっとそう言うのではないか。それが、なによりつらい。
日記はゲシュタポに連行される3日前で終わっているが、アンネさんのお母さんは当初、同じ強制収容所で娘二人といたという。
少ない自分の食べものを、娘二人に分け与えていた、と。
私でもきっとそうするだろう。
子どもを飢えさせるなんて、発狂してもおかしくない状況だから。
なんとか、息子にだけは生きて欲しいから。
でも。
その願いは虚しく、お母さんはアウシュビッツで、二人の姉妹はベルゲン・ベルゼン強制収容所で亡くなってしまった。
終戦後、隠れ家に住んでいた8人のうちお父さんだけが生き残り、この日記は出版されたという。
そして、世界中に広まった。
なぜ、“ふつう”の少女が書いた日記がこんなにも読まれているのか。
もう一度、考えないといけない時なのだと思う。
ごめんね、と息子にあやまり続ける日常はすぐそこかもしれない。
それを回避するために、なにができるのか。
思考を止めるな、と自分に。
こちらの2つの記事にも、考える機会をいただいたのでぜひ。
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