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【今日コレ受けvol.087】胸の中のペンを握る

7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。


人は、目標さえあれば努力し続けられるのだ、と思った。

一昨日劇団四季のミュージカル『バケモノの子』を息子と見に行った。
親子で大好きなアニメ作品の舞台化だ。

公演パンフレットによると、この作品の企画が決まったのは2018年の末。
海外作品のリメイクではなく、オリジナルミュージカルの創作、しかも人気アニメが原作、ということで、舞台化の難易度は非常に高かったそうだ。

「たのぐるしい」
脚本・歌詞を手掛けられている高橋知伽江さんは、このオリジナルミュージカルの創作について、こう表現している。

楽しいけど、苦しい。
苦しいけど、楽しい。
その言葉を読んで、喉がグッとつかえた。

けれどこの「たのぐるしさ」は、劇団四季の目標であり希望となる。

なぜなら、作品がキックオフした2020年の夏は、コロナ禍の夏。1,000以上の公演が中止となっていた時期だったからだ。

重苦しい空気が漂うなか、社長の吉田智誉樹さんはスタートに際して、
「創作の成功を通して、皆が前を向いて歩む力を取り戻したい。どうか力を貸してください」
と語ったそうだ。

この言葉をきっかけに、『バケモノの子』公演は団員の大きな目標となり、スタッフはそれぞれの分野でクリエイティブに力を注いだ。
明日をもしれない不安に飲み込まれずに。


舞台には、その「たのぐるしさ」が、試行錯誤の爪痕が、あちこちに感じられた。
セリフを歌にする場所。衣装。俳優の殺陣……。

『オペラ座の怪人』や『キャッツ』のように、海外に原型がある作品とは明らかに違う。 
すべてに「こうしたらどうだろう?」「ああすればいいのでは?」と提案した、誰かの意志が生々しく宿っていた。

コロナ禍、ソーシャルディスタンスをとりながら、あるいはオンラインで集まり、さまざまなアイデアを検証していく姿が脳裏に浮かぶ。
「明日をもしれない」毎日だったからこその、粗削りなエネルギーのようなものがひしひしと伝わってきた。


舞台『バケモノの子』を象徴するテーマソングに、「胸の中の剣を握れ」という歌詞がある。主人公の九太(蓮)の胸にぽっかり空いた闇に、師匠の熊徹が剣となり住む、というストーリーを受けたものだ。
そこには、「自分の意志を強く持って進め。迷いや惑いを振り切って……」というメッセージが込められていた。


舞台後にその歌を俳優のみなさんが歌ってくれて、涙が出た。
その歌詞で自分を鼓舞し、いつも心で歌っていたのは、劇団四季のみなさん自身だったのではないだろうか。


胸の中の剣を握って進む。迷いや惑いを振り切って。

慌ただしい毎日のなかで、
漫然としていても、努力をしなくても、時間は過ぎていく。

もっとしっかり握ろう。握りなおそう。
胸の中の、ペンを。

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