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【今日コレ受けvol.003】100mの家出

毎朝7時に更新、24時間限定のショートエッセイCORECOLOR編集長「さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書く「遊び」を集めたマガジン【今日コレ受け】に参加しています。

小学生のとき、きょうだい3人で家出したことがある。私が2年、姉が4年、兄が5年生のときだ。

いや正確には、あまりにも激しいきょうだい喧嘩をして、「出ていきなさい!」と母に放り出されたのだ。

2月の夜、爪先が凍えて痛くなるような寒さで、外は真っ暗だった。私たちはとりあえず近所の公園に行き、無言でブランコをギコギコとこいだ。
3人とも最初は半泣きだったが、誰が言い出したのか、気づけば作戦会議がはじまっていた。

議題は、「これから、子どもだけでどうやって生きていくのか」だ。

「俺は中学になったら新聞配達する」と兄。
「私は内職と料理をする」と姉。
「じゃあ洗濯と掃除をするね」と私。

細かく分担を割り振り、学校と両立する時間のやりくりなども相談した。鼻水をすすりながら。
あまりに綿密な作戦を練っていたため数時間が経ち、「反省してすぐに帰ってくる」と踏んでいた母は随分焦ったらしい。

大人になってから、「あの日、あなた達を探して公園で見つけたとき、3人で真剣に議論していて驚いた」と教えてくれた。公園は家から100mの距離だったため、「まあ大丈夫だろう」と判断し、声をかけることなく立ち去ったそうだ。

結局、私たちが家に帰ったのは、夜10時をまわってからだった。作戦会議を進める途中で、「未成年ばかりで住んでいたら施設に送られる」というしごく最もな意見が兄から出て、3人での生活をあきらめたのだ。

家を追い出されてから、たった3時間。
でもそのわずかな時間で私たちは、自立心の種のようなものを手に入れた気がする。


思えばきょうだい3人、それぞれが自立して今も生活できているのは、あのプチ家出があったからかもしれない…と言ったら大袈裟だろうか。

そして、そう考えたら、息子も同じような体験をしたほうがいいのかも…という気がしてきた。

いつかは親は先立つもの。しかも、その時期は全く分からないのだ。私たち夫婦はただでさえ、息子の同級生のご両親に比べて高齢だ。


しかし、一体なにが家出の代わりになるのだろう。親が同伴しないキャンプ? 旅行? 

実は最近教育媒体の仕事で、「自立心を養う」がテーマの取材記事を依頼されることが増えた。「うんうん、自立心って必要だよね」と分かっていたつもりだったが、改めてその必要性が身に染みた気がする。

とりあえず明日息子に、私たちきょうだいの「近すぎる家出」について、話すことからはじめてみよう。

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