見出し画像

いつかの未来が過去になった日

2023/03/31の生放送を最後に、VTuberの舞台を去った者がいる。
名前をミライアカリという。

その門出と軌跡

アニメ娘エイレーンというプロジェクトから派生したVTuber、ミライアカリのチャンネル初投稿は2017/10/25
これはVTuberの歴史の中でも最古の部類に入るもので、かつてはキズナアイ電脳少女シロ輝夜月バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさんらと合わせて『バーチャルYouTuber四天王』などと呼ばれたりもしていた。
まあ、彼女らに威厳や権威があったわけではなく、「偉大な先達」としての敬称の意味が強かったように思う。
そもそもバーチャルYouTuberなんて呼称が使われ始めた2017年末辺りでは、バーチャルYouTuberの数そのものが少なかった(上記5人以外だとときのそら富士葵、若干ベクトルが異なるがウェザーロイドTypeA……残りは有識者に任せよう)。

ミライアカリはVTuberという文化の開花と共に注目を浴びた一人で、実際に勢いもあった。
活動開始から半年足らずでチャンネル登録者も50万人を突破しており、バーチャルYouTuberの界隈を定義する存在の一人だった。
今でこそホロライブが界隈の一角を占めているが、同時期に活動開始したときのそらや、人気の高いメンバーである1期生の白上フブキ、2期生の湊あくあらも、当時は活動期間1年強で20万人登録といった状況だった。

手軽に楽しめる動画、非常に整ったモデル、とっつきやすい明朗な性格、高度なトラッキング技術、それら全てを武器にしたミライアカリは……言ってしまえば滅茶苦茶に『強い』コンテンツだった。
「バーチャルYouTuberっていっぱいいるけど誰見たらいいの?」という問いに、俺は迷いなくミライアカリを挙げただろう。――今までなら。

泥だらけの功労者

華々しい経歴とは裏腹というべきか当然というべきか、世間はミライアカリに対し様々な苦労を強いてきた(その辺りの話はこの動画が詳しい)。
幸か不幸か、彼女は様々な逆境を乗り越える、あるいは耐えてしまえるだけの能力もメンタルもあった。
自分では「アカリ馬鹿だからさぁ~」などと言うが、ミライアカリは(素人目では)間違いなく才媛だった。
この人がいたからVTuberをイベントに呼ぶ切っ掛けになった、この人が続けてくれたからVTuberを取り巻く環境が改善されてきた――本人が口にすることはないだろうが、こうした側面があるのは想像に難くない。

VTuberのレジェンドたちを集めたアイシロアカリ雑談では「流行るのが5年早かった」といった趣旨の言葉を残しているが、これはある意味正しくない見解だと思っている。
君たちが10年分の時間を進めてくれたんだ
アバターも、3Dモデルも、トラッキングも、VRも、今ほど浸透していなかったかもしれない。技術的成長も遅れていたかもしれない。
本来もっと遠くにあるはずだった未来を手繰り寄せてきたのは、恐らく、いや確実に、時代の最先端を走ってきたVTuberの先駆けたちの功績だ。

今VTuberを取り巻くシーンは、2017年末と比べれば格段に進歩し、改善している
地上波へ進出し、ラジオパーソナリティとなり、企業製品の広告塔を演じ、メジャーデビューを果たし、リアイベを発起する――
そういう、最近のサブカルとして受け入れられつつある。
もちろん、世間一般の慣れもあるだろう。そしてソレと同じかソレ以上に、道を切り拓き、地固めをしてきた先達の苦労もあるだろう。
ミライアカリは……未だ見ぬ多くの後輩の手を取り、輝ける未来へ導いた灯だった。
まぁ、本人にそんな自覚は欠片もなかっただろうけど。

動画内で理不尽に晒されているミライアカリは実に輝いている。
それはそれとして、その功績を蔑ろにしていいような人物でもない。いいはずがないんだ、VTuberという文化の醸成を少しでも知っているのなら。

不本意な幕引き

チャンネルへの投稿は2022/11/21のMIRAI VOYAGEを、リアルタイムの活動としては2023/01/29のSANRIO Virtual Festival 2023を最後に、ミライアカリのコンテンツ更新は止まってしまった。
それまでは週1ペースでの投稿が続いていたのに、だ。
とはいえ界隈の事情もある、何か表には言えない事情で露出が減ってるのだろう。そんな風に楽観視をしてしまっていたんだ。
そして、唯一動いていたTwitterも2023/02/28の投稿を最後に、しばらく動かなくなった。

「最近ミライアカリ見ないな」とは思っていた。
「何かやってんだから、そのうち戻ってくるだろ」と思ってしまっていた。
多分、もう手遅れだったんだ

止まったね
絶対にないと思っていたことが起きてしまった。
絶対なんてないっていう、そんな当たり前のことを改めて思い知らされたんだ。

いやまぁ、この時はまだドライだったかもしれない。
これまでの休止状態が符合したからか、納得感のようなものを感じてしまったんだろう。
たった数か月で、ミライアカリのいない日常に慣れてしまったのかもしれない。恩知らずなことに

そして、その時はきた。

LAST STREAM

生放送のアーカイブは2023/04/04時点で非公開となっているが、俺は見届けた。

やめたくないと言った!
続けたかったと言った!!
なんで続けてくれなかった!!!

いや、わかるよ。
コレは単なる俺のエゴだ
そんなもので演者を潰していい道理なんてない、ないんだ。
ただ、何かどこかが、もう少しだけどうにかなっていれば、違う結末もあったんじゃないか。
――俺にできることがあったとは、到底思えないが。

ミライの終わりに

放送中に泣きはしたが、号泣するってことはなかった。ホラ、彼女こんな時でも明るいからさ。
だってのに、何のことはない終了画面には耐えられなかった
俺たちの愛したミライアカリは、もうどこにもいない。
これからの未来で会うことは、一切なくなってしまったんだ。
誰よりも未来に生き、誰しもに未来を見せてきた存在が、この日、この瞬間を境に、過去の人間になってしまった

オタク、覚えておけ。
推しが引退だの卒業するというのはだな。
「推しがいなかった頃の日常に戻る」じゃないんだ。
推しを失った傷を抱えて生きていく」ことなんだ。
消えない傷はないが、消したくない傷はある。
故人の電話番号を消せない感傷のように、俺はチャンネル登録欄を見るたびに思い出すだろう。
ミライアカリっていう、明るくてお調子者で気配りができて下ネタ好きで――何より、途轍もなく偉大なVTuberの先駆者がいたことを

結局俺はどうしたいんだろう

何だかんだで推し活はできる範囲でやっていた身だ、俺自身にもっと何かできただとか、そういった後悔は不思議とない。ありがたいことに。
あるのは単なる純粋な悲しみと、ミライアカリに主体性を認めなかった事務所(なんならバックの企業)に対する憤慨だけだ。
これはまあ、自分の感情だ。自分で処理していくしかない。時間はかかるかもしれないが、頑張って付き合っていこう。

いつかの自分の言葉を借りるなら、「別れの痛みは、出会ってからの喜びと等価だ」。
きっと今、これだけ辛いのは、それだけ貰ってきたからなんだ。
この痛みにも「ありがとう」って言えるくらい、強くなれればいいのにな。
オタクという生き物はこんなにも弱い。


君が実に酔狂な、その辺の一般人をつかまえて月一で飯を奢るような人間なら、そこの『サポート』というボタンを押してみてもいいだろう。