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ありがたき人々

春休みである。三歳になったチビを連れて遊びに出かけた。自然豊かな公園で、川が流れていた。夏には水遊びができそうだと思った。


昨日の深夜に『ロリータ』を読み終えて、ほんといい作品だったとしみじみとした余韻に浸っていた。

そんなわたしの心をよそに、日常は流れていく。息子にジュースを買い、自分にお茶を買う。いちごミルクを手に持ち、これを川辺で飲みたいとチビが言うので、土手から降りる場所を探していたところ、散歩中のおじいさんと出会った。川面に近い場所を尋ねたら、答えと同時になんと身の上話が始まった。おじいさんの息子さんとお孫さんは、東大出身なんだそう。孫娘は奈良にいて、どこどこに進学して、どこどこに勤めていて、と思わずわたしは、見ず知らずの人間についての情報を得るに至る。

おじいさんの情報を引き出しながら、三人プラス新たな村人と共に土手を歩き続けていると、遊具が現れた。色とりどりのそれらを一目見、息子は駆け出した。

「川は?」
「川はもういい」

わたしはおじさんに別れを告げた。息子は公園内の遊具でひとりしき遊んだあと、周囲の子どもたちに片っ端から声をかけはじめた。

「一緒にあそぼ?」
「一緒にあそぼー!」
「一緒にあそぼおおおおおおお?」
「おおおおおおおお」

痛ましい努力の甲斐あって、ようやく一緒に遊んでくれるお姉ちゃんを一人ゲット。(誤解を生む表現かもしれない)わたしは彼女の保護者と、身の上話第二ラウンドがスタート。育児の話になって、「遊び場所に困っている」とわたしが漏らすと、その人は雨でも遊べる幼児向け施設をいくつか教えて下さった。たいへん有り難かった。あまりにも天啓めいていて、わたしは思わず、おじいさんに扮した帝釈天の話を思い出していた。わたしもなにか供養を施すべきかもしれないが、あいにく鞄の中には必要最低限の品物しか入っていない。お礼を告げてその場を去り、その足で教えて頂いた施設へと直行した。息子はたいへんご満悦であった。

豊かな一日だった。今日、言葉を交わした全ての人々へ、愛するあなたがたに幸いがありますように。

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育児日記

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