バーンランド

つらりつらりと文章を書いてます。 朗読台本としても使用可です。

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最近の記事

遺された者の手記

私と大切な家族が会えなくなったのは数年前。 あなたが奪っていきました。 ねぇ、どうしてですか。 どうして、あなたは私から奪ったのですか。 あの夜、血溜まりの中から私を見つめていた 父の目が、まだ夢の中に出てきます。 生気が消え失せ 淀んだ真っ黒の瞳。 喉を刺されて、か細く息をしていた母が 私にゆっくりと手を伸ばしてきます。 血濡れの真っ赤な手のひら。 助けて、と声にならない声をあげているようで。 ギラリと光る刃が、まだ変色していない 赤い色を滴らせて

    • 深夜の熱

      熱の中に夢を見た。 廻る視界、ドロリと崩れ落ちる世界。 高熱が出るといつもこうだ。 気持ちの悪い世界に、僕は一人。 当たり前だが、眠りは浅い。 何度も何度も目覚めて、まだ深夜。 痛みの強い体を引き摺りながら 階下へと降りた。 水を汲んだコップに口をつける。 どうにもならない喉の痛みが襲ってきた。 それでもなんとか飲み下した水に味は無い。 もとより美味しいと思って 飲むこともないだろう。 どうして、大人になった後の熱というのは たちが悪いのだろうか。

      • 桜樹埋死

        「桜の樹の下には死体が埋まっている。」 梶井基次郎の短編、その書き出しだね。 その小説に登場する主人公はね 桜の美しさには秘密がある。 そう考えたんだ。 鮮やかな花を咲かせる桜。 もしも その下に土に溶けていく死体があったとして あなたは、その花を愛でられるかい。 私はね、その死体が愛する人であるならば 愛でられる。 愛する人の血肉を吸い上げ見事な花を咲かせる。 それが季節を廻って毎年、毎年見られるのなら 私はそれが究極的な愛だと思うんだ。 端から

        • 罪悪を知る

          あの日、僕は500円玉を握りしめた。 たった一枚。 それは、彼の落としたもので 魔が差したんだ。 気づかない彼を見て このままポケットに押し込んだ。 黙って後ろをいく。 駄菓子屋に着くと 彼は焦った様子で500円玉を探す。 そんな彼を励ましつつ もともと持っていた300円でお菓子を 買って分けあった。 感謝に 心の奥がじくじくとした熱を持ち始める。 痛むような、高揚するような よくわからない感覚に襲われていた。 このポケットに入った500円玉を

          炎夜葬送

          目の前で柔らかな炎が燃える。 僅かな光が、僕の目の前だけ照らしている。 辺りを包む濃紫の闇。 夜は深く、森の中に染み込んでいた。 熱された木が跳ねる音、木々を揺らす風の音。 時折、鹿が遠くで高い声をあげる。 風が立ち上る煙の邪魔をした。 白色が霧散する。 名残惜しくも無さそうに。 遺言だった。 この山を愛した彼は 出来ることなら野火で そして、夜の闇の中送ってほしいと。 燃えていく。 白木の棺は炎に巻かれて崩れていく。 彼の体もきっと同じように崩

          詭弁救済

          人が人を救うのなんて 烏滸がましいことだ。 僕たちは、勝手に誰かの言葉で救われて 勝手に傷つけられる。 そんな、不器用な生き物なんだ。 どんな言葉を持ってしても救えない そんな人間なんて山程いる。 不幸に囚われて 自分が悲劇の主役だとでも言うように。 救われました。と笑う彼らは 自分の意思で歩き出したに過ぎないんだ。 だから、 ヒーローなんてこの世界には存在しない。 ちょっとした切っ掛けを与えてくれる人は いるだろうけれど。 ヒロイズムを掲げたエ

          恋と愛の温度

          ◇最初は、ただの憧れだった、 それがいつしか、好意に変わる。 同性の、しかも歳上のお姉さん。 なんで こんなに好きにってしまったのだろう。 思いを告げて、付き合うことになった。 でも、この土地は 好きな人といる。 それすらも、他人は罪だというのだ。 同性であるだけで。 もうこんなとこには居たくない。 そんなことを言ったのは、私だった。 お姉さんは、相も変わらず軽く 遠くに、逃げちゃおうか。 と、言ってくれた。 ………………………………… ○良し。支度はこんなもんか

          賭事狂乱

          知らない場所。 知らない椅子に座っている。 これは、夢だろうか。 そうだねぇ…。 ひとつゲームをしようか。 テーブルの向かい側から声が響いた。 女性が挑戦的に此方を見ながら微笑んでいる。 ババ抜きさ。 知ってるだろ? ぞくぞくと背筋に悪寒が走る。 それと同時に高揚感が沸き上がる。 考える前に口から出てきたのは 俺は、何を賭ければいい。 その一言だった。 彼女の微笑みに、少しの悪意が乗る。 命よりも重いもの。 女性はそう返す。 自身の口角が上が

          初夏憂鬱

          草の匂いが強くなる。 熱のこもった土から、むっとした熱気が上がる。 「草いきれ」なんていうやつだろう。 この時期は生命力に溢れている。 命あるものが耀きを放つ季節。 僕は少し苦手だ。 空に向かって伸びる緑が羨ましい。 此の世を謳歌しようとする生き物が妬ましい。 僕はいつだって目を背けて生きている。 光は眩しすぎるから。 何かを諦めた。 心が折れてしまった。 それでも陽が昇る。 この季節の太陽は僕には痛すぎる。 どうか、夜の中に生きさせてほしい。

          朝陽が照らす街

          深夜の東北道を往く。 助手席の彼が目を覚ました。 …………… ○ふわぁぁぁ…。  おはようさん、どこまで来たんだ? おっす、おはよう。 ド深夜だけどな。 んー、とりあえず白河くらいかな。 ○じゃあ、あと三時間くらいか。 ああ、そんくらいだな。 ○…いつぶりの帰省だ? そうだなぁ、8年くらいぶりかな。 なかなかタイミングってなかったしな。 ○そうかー、じゃあ、俺たちも  8年一緒にいるんだな。 長かったような、短かったような… 色々とあったよな。

          朝陽が照らす街

          音踊想贈

          祖母の家に置いたままになっていた 古びたピアノをそっと開けた。 一ヶ月前に旅立った祖母。 遺品の整理でがらんとした室内。 その中に、私が弾いていた ピアノだけが壁に向かって佇んでいたんだ。 音を、鳴らす。 ちょっとずれている。 それでも、あんまり気にしなかった。 指を動かして、奏でた。 私がよく弾いていた曲。 旋律は少しずれながらも空気を震わせた。 祖母は私のピアノを褒めてくれた。 それが嬉しくて、学校の帰りに来たものだ。 指が止まる。 空気を震わせた音は霧

          愛した店へ

          どこか昭和の匂いがする そんな路地裏にその店はあった。 ぼんやりと赤提灯が闇夜に浮いている。 外灯も少ない暗い場所。 いつから下げてるのかわからない 暖簾を掻き分けて店の戸を引いた。 コの字型のカウンターの向こうに いつものおっちゃん。 おう、また来たか。 なんて声をかけられる。 軽く世間話をしながら席に着くと いつものビールだろ。 にこやかにおっちゃんが言うんだ。 冷えたグラスに、冷えたバドワイザー。 竹輪にきゅうりを刺したお通しを寄越される。

          同じ空の下で

          馬鹿な男だったよ。 酒好きで、話好きでさ。 誰とでも仲良くなるから いつもお前の周りは笑いで溢れてた。 俺みたいな暗いやつと どうしてこんなに気が合うのかわからない。 恥ずかしいけれどさ、お互いがお互いに 親友なんて呼び会えるくらいだったさ。 夜中に、二人で花見しようぜ。 なんて言ってさ、コンビニでおでんと酒 しこたま買って神社で呑んだな。 あの時のこと、覚えてるか。 俺たちは何があっても親友だって。 酔いの中でヘラヘラ笑ったな。 結局酔いつぶれて

          青信号に立ち竦む

          立ち竦んだ。 立ち竦んでしまった。 田舎の、それこそ車も通らないような横断歩道。 歩行者信号の青色が僕の歩みを促している。 それでも、動けなかった。 いつも、いつも僕は選ばれない。 何かを諦めないと進めない。 君には君の耀ける場所があるんだ。 そう、子供の頃から言われ続けた。 裏を返せば、ここは君の居場所じゃないと 言われ続けていたんだ。 涙が目に貯まる。 溢すまいと上を向いた。 田舎の、無駄に広がる夜空は高く遠い。 僕には手なんて届かない。 そ

          青信号に立ち竦む

          登塔恋慕

          空に突き刺すように伸びたスカイツリー。 一年前に東京に出てきた僕には もう、目新しくもない。 なんとなく 田舎での出来事を思い出す。 ………… 住宅街の奥にあった 送電ルートから外れた、朽ちた鉄塔。 僕はそこで幽霊の少女と出会った。 朝とも夜ともつかない、そんな時間。 熱を知らない空気が心地よかった。 そんな中、住宅街を抜けた先。 武骨な骨組みだけの塔の上の方に 彼女は座っていた。 あまりにも綺麗な彼女に見惚れた。 事も無げにそこに座る彼女は世界を眺めてい

          いばらの中に踠く

          「今日のお話は…」 そんな言葉で始まる、母の童話が大好きだった。 幼い時に、誰しも寝かしつけのために お話をしてもらったことがあるだろう。 私の母は、読むのが上手かったのだと思う。 どんなお話もすぐに引き込まれた。 その中でも、私が好きなお話は 「いばら姫」だった。 悪い魔法使いの呪いを受け いばらの中で眠るお姫様。 それを助けに来る王子様。 典型的なハッピーエンドのお話だ。 いつか、私にもこんな素敵な王子様が 現れるのだろうかと幼心に思ったものだ。

          いばらの中に踠く