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「JPYCは資金移動業のライセンスを取得し最終的には銀行になる」JPYC株式会社・岡部典孝氏 2/4

JPYC株式会社の代表取締役である岡部典孝氏に、ステーブルコインのマスアダプションの条件や日本のCBDCの発行可能性などについて伺いました。

岡部典孝氏 プロフィール

JPYC株式会社で日本円ステーブルコインJPYCを発行。Blockchain Award Person of the Year (Japan)受賞 BCCC 理事/ iU客員教授 人口167人の青ヶ島村に移住したスタートアップ経営者。

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取材実施日

2023年4月20日

銀行で検討が進んでいる日本円のステーブルコインにパブリックチェーンのものはない

ーーJPYCについて、どういった点に注意しながらプロダクト開発を行っているか教えてください。

一番こだわっているのは国際標準に合わせることです。

最近では、我々に限らず国内の銀行でも日本円のステーブルコインの検討が進んでいます。

しかし、いずれもプライベートチェーンやコンソーシアムチェーンで検討されており、パブリックチェーンで検討されているものはないと認識しています。

我々はUSDCのサークル社からも出資いただいており、サークル社とコインベース社が提唱している国際規格に合わせてプロダクト開発を行っています。

日本がガラパゴス化しないためには規格を揃える必要があり、これが一番のこだわりポイントです。

逆に言うとJPYC独自の機能は全くありません。

ーー国際規格に揃えると事業者、プロダクトとして具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

ステーブルコイン特有の、例えばマネーロンダリング対策など、規制面からもさまざまな要求があるんですね。

そういった意味でもUSDCと同じ状態にしておけば、当局と話すときもやりやすいし、対処もしやすいです。

JPYCも2021年1月に最初の発行を行ったときは、単純なERC20対応のトークンでした。

しかし、それでは規制対応などの面で大変だったので、いまはマネロン対策を強化したバージョンに変えています。

それ以降は、国際標準に合致した仕様になっています。

なぜ既存の銀行はパブリックチェーンの日本円のステーブルコイン発行を検討しないのか

ーー他の銀行がそのような独自仕様のトークンの発行に向かっているのはなぜでしょうか。

基本的にはそれぞれの事情だと考えています。

例えば、銀行の場合は既にほとんどの国民が銀行口座を持っているため、なるべく今までのやり方と変わらないものを提供したいという動機が出てくるでしょう。

そうすると、一応ステーブルコインをやってはいるのですが、例えば、本人確認をした銀行口座の間でしか送れない、といった仕様になってしまいます。

それではパブリックチェーンでやる意味はそもそもないので、プライベートチェーンでやりましょう、という話になるのだと思います。

ーーいわゆるイノベーションのジレンマ的にそうせざるを得ないということでしょうか。

おっしゃる通りです。

もちろん、銀行の中の人も話してみると理解はされてはいるんですね。

本当はこういうステーブルコインを自分たちもやりたいのではないのだけど、みたいな部分は本音ではあるのでしょう。

しかし大きい銀行という組織の中で、少しでもブロックチェーンをやりたいとなったときに、パブリックチェーンというのはいまはなかなか難しいね、となっています。

まずはプライベートチェーン、コンソーシアムチェーンでやってみよう、まずは日本で閉じた形でやってみよう、そういう落としどころになるみたいなんです。

JPYCは資金移動業のライセンスを取得し最終的には銀行になる

ーーJPYCと銀行は競合にもなるかと思いますが、コミュニケーションはとっているのでしょうか。

かなり密接にコミュニケーションを取っています。

おっしゃるとおり競合ではありますが、銀行の中でステーブルコインをやりたい人と我々は最終的には同じところを見ている。

USDCの完全な日本版トークンが必要だよね、という部分は一致しているんですが、そこに向けてのルートが日本の許認可とアメリカでは異なるんですね。

我々はスタートアップらしく、いまはプリペイド、次は資金移動業のライセンスを取得し最終的には銀行になる、といったルートを描いています。

銀行の場合は、銀行の中で許される範囲で実装してみて、それをUSDCのようなトークンに徐々に近づけていくための実績作りをしている。

そういう意味では両社に違いはありません。

例えば、我々は資金移動業では1回の金額が100万円という制限がありますが、そういう金額制限があるような中で実績を積み上げて、最終的に金融庁に許可をいただく、という方向を目指しています。

銀行はライセンス上はできますが、イノベーションのジレンマ的な問題でできないことがたくさんあります。

そのため、協力して最終的に実現したいものを実現していきましょうよ、というところでは一致しています。

ーー銀行と一緒に協力していく部分はありつつも銀行側にはできないことも多いので、日本円のステーブルコインとしては今のところ業界1位を走れそう、といった状況でしょうか。

そうですね。

幸い、2022年に金融庁が法律を改正してくれ、ステーブルコインをスタートアップが出していいという法律を作ってくれました。

ある意味レールを引いてくれたので、うちはそのまま突っ走ればいいだけという状態になりました。

参考:金融庁、ステーブルコイン流通解禁へ 改正案発表 – 日本経済新聞

そういう意味で大きな障害はありませんが、これからいくつかのライセンスを取得する必要があります。

例えば、JPYC自体の発行、これは問題なく進められそうですが、JPYCとUSDCの交換、日本円とUSDCの交換なんてことも当然考えるわけです。

これはユーザーの利便性や我々の利益を考えると必須でしょう。

しかし、それらを実現するためには、例えば、資金移動業や暗号資産交換業といった既存のライセンスでは駄目で、電子決済手段等取引業という新しいライセンスを取る必要があると金融庁に回答をいただいています。

そのため、既存の取引所や銀行とも協力し自主規制の団体を作るなど、そういったことをやっていかないと、なかなかスピードが上がらないと考えています。

短期的には資金移動業のライセンスを取得しJPYCの円の直接償還を実現する

ーーそのような対応すべき事項が数多くある中で、特に集中して進めている部分はどこでしょうか。

まず短期的には資金移動業のライセンス取得を考えています。

これが実現すると、不特定多数のユーザー間で自由に流通し決済で使えるステーブルコインの発行、円への償還といったことができるようになります。

JPYCはいまはプリペイドの規制内で発行しておりますので、日本円からJPYCには簡単に変換できますが、JPYCから日本円への償還が原則禁止されています。

そのためVプリカギフト、giftee Boxといった他のプリペイドに変えて使っていただくスキームになっていて、利便性が下がってしまっています。

投資家やトレーダーの方にも、円に戻せないと不十分だと思っている方はたくさんいると考えていて、我々もそこは大きな課題だと認識しています。

USDCとの一番の違いは多分そこです。

USDCはドルに償還できますが、JPYCはいま円に直接償還はできません。

このような課題をクリアするために、今年の6月以降は資金移動業のライセンスでやっていいという規制になったので、資金移動業のライセンス取得を真っ先に目指しています。

会社の信用を上げるためにも会社の上場を目指す

ーー資金移動業のライセンス取得の次に目指しているものはありますか。

次に狙っているのが、電子決済手段等取引業というステーブルコインの専用取引所のようなライセンスです。

こちらも2023年の6月からできるので、なるべく早く申請したいと考えています。

いま目下目指しているのはこの二つです。

一つ目の資金移動業のライセンスを取得できれば円に償還できるという意味では、ユーザーの利便性が大きく上がり発行額も増えるだろうと考えています。

二つ目の電子決済手段等取引業のライセンスを取得すると、USDCとの交換や交換時に手数料を設定するなど、SWIFTを置き換えるように、貿易の決済や旅行などで利便性を大きく向上できると期待しています。

ーーライセンスの取得以外で目指しているものはありますか。

上場も目指していきたいと考えています。

会社の信用を上げていくことは発行体においてはとても重要です。

発行体は、ユーザーの財産が保全されるような措置を取っていたとしても、潰れること自体がユーザーやさまざまな関係者からすると迷惑なわけです。

そういった意味で、いつでも資本市場から調達できるという意味でのIPO、いわゆる東証などに上場する、これは大事なことだと考えています。

新しい規制ゆえにまだ誰もそのライセンスを取得できていないのが難しさを生んでいる

ーーライセンスを取る上で難しいのは単純に事務手続きに労力がかかるのでしょうか。もしくは要件をクリアすることが難しいのか、どのような点で難しいのでしょうか。

金融庁の登録全般でいうと、内部統制の点が特に難易度が高いです。

ただ、当社の場合は既に実績があるので、それほど問題にはなりません。

弊社で一番大変なのは、とりあえず規制はできましたが、新しい規制ゆえにまだ誰もそのライセンスを取得できていないわけです。前例がないんですね。

金融庁の担当者も何をどのように審査するかを考えることから始まりますので、一緒に全体的な理解度を上げていくことに一定の時間がかかる、というハードルがまず一つあります。

そのほか、こういった認可は業界団体の自主規定にかなり重きが置かれているので、業界団体がないとどこにも認可が事実上出ないということが起こりえます。

電子決済手段等取引業の場合は業界団体がまだないので、このあたりもハードルになってくると思います。

要は、役所に許可をもらうために民間がちゃんとまとまって、自分たちでしっかりルールを作りなさいみたいな部分が要求されているんですね。

そこが難しい部分です。

逆に言うと、企業としての財産的な要件などは既に問題なく満たしているので、そのあたりはハードルにはならないと考えています。

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岡部氏のインタビュー、3記事目では「ステーブルコインの規格の統一が進めば貿易ももっと効率的になる」「日本円のステーブルコインが十分な発行額と流動性を持つことは、日本が国家戦略として採用した意義深いこと」などについて伺います。

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