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ドラッケンミラー氏の最新ポートフォリオ・エヌビディア株を3割売却【Form 13F 2023年第4四半期】

 昨今のAI銘柄への投資ブームに関連して、以前からエヌビディア株に関する発言で注目を浴びていた著名投資家のスタンレー・ドラッケンミラー氏について、直近の売買動向を紹介すると共に、2023年全体の動向を振り返りながら、彼の投資戦略についても分析・考察してみようと思います。

米国の機関投資家が米証券取引委員会(通称:SEC)へ四半期ごとに報告するフォーマット「Form 13F」から、ドラッケンミラー氏が2023年第4四半期(10-12月)に売買した主な個別銘柄を抽出したものがこちらです。

※評価額については、2023年12月末時点の価格に基づいています。

出所:“Search 13F Filings”からForm 13Fデータを抽出して作成

ドラッケンミラー氏の2023年第3四半期(7-9月)のForm 13F解説記事はこちらです。

エヌビディアを2四半期連続で売却、同時に買い戻すオプションを保有

 スタンレー・ドラッケンミラー氏のファミリーオフィスであるドュケーヌ・ファミリーオフィスでは、近年AIセクターへの投資に重点を置き、ポートフォリオのトップ銘柄にマイクロソフト(MSFT)とエヌビディア(NVDA)の2社を据えてきました。

ドラッケンミラー氏は2022年第4四半期(10-12月)から、エヌビディア株を3四半期連続で買い向かいましたが、2023年後半には保有分の一部を売却し、ポートフォリオの調整に動いています。

ドラッケンミラー氏が最初にエヌビディア株の一部を売却したのは2023年第3四半期(7-9月)、売却したのは保有株数の7%程度と比較的小さく、売却しても尚、同ファンドのポートフォリオで最も大きなシェアを占めていました。

さらに、直近のForm 13Fによると、続く2023年第4四半期(10-12月)に、エヌビディア株の3割程度にあたる約25万株を売却すると同時に、同株の約48万株分のコールオプションも取得したことが判明しています。

出所:“Search 13F Filings”からForm 13Fデータを抽出して作成

エヌビディア株は長期保有の意向、同時に短期的にも利益追求

 昨年6月に行われたブルームバーグ社によるインタビューにて、ドラッケンミラー氏はAIブームについて「過去のドットコムバブルから学ぶべきことがある」としながらも、エヌビディア株を長期保有する意向について、以下のように述べています。

「暗号資産とは異なりAIは現実のものであり、おそらくインターネットのように巨大な変革をもたらすと、私は(強く)信じている。」

「ドットコムバブルから学べることは確実にある。感情的になったり熱狂してはならないということだ。」

「エヌビディアを保有するのは10ヶ月程度ではなく、少なくとも2~3年、もっと長い期間かもしれない。」
YouTube / Bloomberg Live / Druckenmiller on How AI is Dominating His Long Portfolio

ドラッケンミラー氏がエヌビディア株の長期保有を明言しつつ、半年程で保有を3割以上減少させた背景には、ポートフォリオのバランス調整・リスク管理に加え、オプション取引を活用しながら短期的な利益も最大化させる思惑があったと考えられます。

エヌビディア株は2024年初頭から怒涛の上昇トレンドとなり、(3月6日時点で)年末年始の水準から70%以上も値上がりしています。結果的に、保有するコールオプションを行使することで、ドラッケンミラー氏は更なる巨額の利益を得られるというわけです。

この巨大な利益をどこに再投資するのか、エヌビディア株の買い増しの有無も含め、今後の動向に注目が集まります。

エヌビディア、マイクロソフト以外の大型ハイテク株はポジションを解消

 ドラッケンミラー氏は、エヌビディアとマイクロソフトを長期投資の本命としながら、他のAI関連銘柄については、買いポジションを手仕舞う動きを見せています。

一例として、以前からドラッケンミラー氏のポートフォリオに度々登場してきた、アルファベット(GOOG)やアリババ(BABA)が挙げられます。

これら2銘柄については、株式市場がベア相場となった2022年に買いポジションを取ることはありませんでしたが、2023年に入ると第1四半期から数ヶ月毎に売買されながらも、年末時点では全てのポジションが解消されました。

また、同様に大型テクノロジー銘柄のアマゾン・ドットコム(AMZN)についても、2023年第1四半期(1-3月)に買われた約80万株は、2023年末時点までに全てが売却されています。

さらに、AIブームで恩恵を受けると思われる半導体メーカーのブロードコム(AVGO)についても、2023年第3四半期(7-9月)に約5万株を新規で取得したものの、第4四半期(10-12月)に全てが売却処分されています。

出所:“Search 13F Filings”からForm 13Fデータを抽出して作成

ポートフォリオ上位10銘柄を1年前と比較

 ドラッケンミラー氏は、ポートフォリオの上位に位置するAI関連・テクノロジー銘柄以外の保有株式についても、1年を通じてポジションの組み替えを行っており、同ファンドの保有する上場米国株ポートフォリオTOP10銘柄の半数が入れ替わりました。

出所:“Search 13F Filings”からForm 13Fデータを抽出して作成

出所:“Search 13F Filings”からForm 13Fデータを抽出して作成

一例として、コモディティに対するポジションの変化に着目してみましょう。

2022年前半、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格が高騰したのと同時期に、ドラッケンミラー氏はシェブロン(CVX)の保有を厚くしました。

2023年は一転して、シェブロンの保有を縮小させると同時に、原料炭を中心に銅や亜鉛の採掘・天然資源開発を手がけるテック・リソーシズ(TECK)の保有を増大させています。

これには、将来起こりうる中国による台湾侵攻のリスクが関係しているかもしれません。

テック・リソーシズの主要品目である石炭、銅、亜鉛の生産は、共に中国企業がトップレベルのシェアを握っており、ひとたび有事が起きるとサプライチェーンの混乱による供給不足で価格高騰が起きても不思議ではありません。

昨年のブルームバーグ社によるインタビューの際に、ドラッケンミラー氏が中国の軍事行動に関するリスクについても言及する場面がありました。

【翻訳】
「中国の軍事行動について私は恐れている。なぜなら独裁者というのは、(国内の)差し迫った問題から国民の意識を逸らさせるために、より危険な行動をとるからだ。」
YouTube / Bloomberg Live / Druckenmiller on How AI is Dominating His Long Portfolio

ドラッケンミラー氏の次なる一手は

 AIブームの恩恵を一足先に獲得したドラッケンミラー氏は、直近で巨額の待機資金を残していると推察されますが、その資金が向かう先はどこになるのでしょうか。

ドラッケンミラー氏は、昨年末までにエヌビディアとマイクロソフト以外の大型ハイテク株のポジションを解消しました。2024年はどのAI銘柄を買い向かうのか、別のセクターに目を付けるのかなど、AIブームに湧く昨今の相場において、ドラッケンミラー氏は今後さらに注目すべき著名投資家の一人となるでしょう。

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