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「米国政府がビットコインを禁止しても普及は止まらないし、禁止するインセンティブもない」ビットコイナー・東晃慈氏 3/3

ビットコイナーの東晃慈氏に、米国政府がビットコインを止めるリスクや台湾有事にについてなど伺いました。

東晃慈氏 プロフィール

2014年9月ビットコイン、暗号通貨業界でフルタイムで活動。暗号通貨関連のコンテンツ制作、メディア運営、サービス企画・開発、国内外のプロジェクトの支援など幅広く活躍。ビットコイナー反省会、Diamond Hands主宰。

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取材実施日

2023年9月15日

短期間でLNが主流になるかは分からないものの、特定の地域やユースケースにおいて急速に採用が進む可能性は十分にある

ーーこれから3-5年でビットコインはどの程度普及、進捗すると見ていますか。

とても難しい質問です。

もしこれからの3-5年で急速に普及するシナリオがあるとすれば、それは大きくマクロ経済が変動した時、例えば戦争のような大規模なディスラプションが起きた時だと考えていますが、その時はそもそもビットコインを使用している場合じゃない可能性もあるでしょう。

特定の国、例えばアルゼンチンでハイパーインフレやデフォルトが起きるなど、経済的な危機に見舞われた国々でビットコインの普及が急速に進むということはあるかもしれません。

エルサルバドルのようにビットコインを法定通貨に採用する国が新たに現れる可能性も十分にあるでしょう。

ただし、そういった大きな変化がなければ現状の延長が続くというのが最も現実的な見方だと思います。

ーーLNについてはいかがでしょうか。

LNの利用者や関連企業は増加すると思いますが、3-5年でLNが多くのアプリケーションで使われるかはわかりません。

海外では国際送金サービスとしてStrikeが人気ですが、このようなサービスはUXや安定性の問題からカストディアル型のLNを利用していることが多いです。

参考:Strike、ビットコインライトニングでアフリカ諸国への送金サービス「Send Globally」ローンチ | あたらしい経済

日本では規制の関係で同じようなカストディアル型のプロダクトは難しいのですが、これからノンカストディアル型の開発も進みUXも改善されるはずです。

そうなれば、ログインするとsatoshiが自動的にウォレットに送られるといったアプリケーションは日本でも実現可能だと考えています。

特に日本のような国で需要が見込まれるユースケースはマイクロリワードです。

ゲームで特定のミッションをクリアするとsatoshiが付与される、アプリ内でのバグ報告やフィードバックに対してsatoshiが付与されるといった仕組みで、これからの3-5年で拡大すると予測しています。

また、ChatGPTのようなAIサービスやデータマーケットでのLNが採用される可能性は十分にありますし、国際送金の領域においてもLNのポテンシャルは非常に大きいです。

参考:ビットコインはAIが創造する新しいデータマーケットの基軸通貨になりえる|ビットコイン研究所

総じて、短期間でLNが主流になるかは分からないものの、特定の地域やユースケースにおいて急速に採用が進む可能性は十分にあります。

特に、従来の銀行システムが抱える国際送金の遅さや高い手数料といった課題を解決する手段としては大きな期待が寄せられています。

米国政府がビットコインを禁止しても普及は止まらないし、止めるインセンティブもない

ーービットコインのリスクについて、政府が全力を出せばビットコインを止められるという意見がありますが、東さんはどのようにお考えでしょうか。

これについてはいくつかの論点が存在します。

まずそのようなリスクがあるかといえば、答えはイエスです。

しかし、それによってビットコインの普及が止まるかといえば私はそうは思いません。普及が遅れるというのはあると思いますが、20年や30年などの長いスパンではそれほど影響がないと見ています。

一方で、普及の遅れを大きなリスクとみなす声も理解できます。

かつての共産主義がそうですが、うまくいかないコンセプトは延命はできても最終的には破綻する運命にあると私は思います。逆に、優れた技術やコンセプトは時間がかかっても最終的には選ばれるでしょう。

また、米国がそもそもビットコインを禁止するかと言われれば私はその可能性は著しく低いだろうと思います。

私は米国の政治的背景を詳しくは知りませんが、私の理解と知識の範囲で言えば、SECを含め、ビットコインは明確にデジタルコモディティとして規制されるでしょう。そしてその中で利用の権利は保障、保護されると考えられます。

ビットコインは我々が認識している以上に、米国での市民権を獲得していると感じますね。

例えば米国の大統領候補としてロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、ビットコインを国家戦略として位置づけることを公言していますし、マイニング産業も米国で拡大しています。

特に米国には自由主義を重んじる人々が多く、彼らは権利の制約を強く嫌います。銃規制や禁酒法でもそうでしたし、もしビットコインを禁止するならば政治家としては非常にリスキーな判断となるでしょう。

そのため、私はこのような意見も十分に理解していますが、過度に懸念する必要はないと感じています。

参考:米大統領候補ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏、大胆なビットコイン政策を発表|COINPOST

信頼の根拠が物理的なものからデジタル上のマイニング競争やバリデーションの仕組みへと移行しているのは興味深い事象

ーー「ビットコインは本質的な価値がわからないから取引しない」という方が一定数いらっしゃいますが、東さんはどのようにお考えでしょうか。

そういった意見があることは私も把握していますが、私が常に疑問に思うのは「では日本円の価値の裏付けは何ですか」ということです。多くの人々は目に見えるものや政府の管理を信頼の根拠としているように感じます。

例えば、ビットコインは価値の裏付けがないという人に「ではゴールドは価値があると思いますか」と問うと、多くの人はゴールドの物理的な存在を裏付けとして価値があると答えるでしょう。

しかし、ゴールドは工業用途や装飾品としての利用価値は確かに存在しますが、それはゴールドの時価総額のごく一部にすぎず、残りの買い需要によって引き上げられた価格は実需を超えた「プレミアム」によって形成されています。

出典:ゴールドの需要と供給について|OANDA証券
参考:第8回 金の需要について | ヘンリー「金・新解体新書」|楽天証券

ビットコインはデジタル空間でゴールドの持つ性質、例えば希少性などを模倣することに成功しています。ゴールドとビットコインの性質を比較し、「価値」は供給量の制限や希少性に起因することを理解すること、そしてそれらがどのように価値を持つのか根拠を深く考えることが必要です。

従来、価値の担保は物理的な存在やその関与からくる安心感、たとえばゴールドの存在によって裏付けられていましたが、ビットコインでは、デジタル上のマイニング競争やノードの仕組みを通じて、これまで物理的なシグナルが求められていた信頼がデジタルで示されるようになっています。

音楽をMP3でダウンロードし、Spotifyで聴くのは当たり前となっているのに、なぜ貨幣の信頼の根拠をデジタル化する議論について考えが停滞するのか、私たちは深く考えるべきです。

信頼の根拠が物理的なものからデジタル上のマイニング競争やバリデーションの仕組みへと移行しているのは非常に興味深い事象です。私は革命的であると感じています。

留意すべきは、中国と台湾のコミュニケーションプロトコルについて外部の人々が完全には理解していないこと

ーー東さんは現在も台湾に住んでいますが、台湾有事のリスクについてどのようにお考えでしょうか。

私もそれほどリスクを感じていませんし、現地の人もそれほど台湾有事を意識しながら生活している印象はありません。ある日突然中国が攻めてくると思っている人はほとんどいないと思いますね。

単に慣れてしまっているというのもあると思いますが、中華圏特有の文化や慣習に基づいている部分もあるようです。

例えば、クリプトのカンファレンスで中国人のマイナーと話す機会があったのですが、彼らは言ってることとやっていることが異なり、ある意味一番理解するのが難しい人たちだと感じました。

それで台湾人はどうかというと、台湾人は中国人とも違うんですが、日本人よりは中国のことをよくわかっているようです。

日本人にとっては中国が威嚇したと捉えるようなことも、台湾人と中国人のコミュニケーションプロトコルにとっては大したことではないということがあり、温度差を感じることがあります。

ただ、台湾は2大政党なのですが、親中と反中のどちらの政党が政権を握るかによって中国との対話の姿勢が変わってくるんですね。台湾有事について強く意識している人は少ないですが、この2大政党の選挙については現地でも注目度が高い印象です。

参考:台湾総統選、2大政党の候補者出そろう 蔡英文氏の後継選ぶ選挙戦へ:朝日新聞デジタル

台湾の状況は理想ではないと思いますし、彼らは自分たち自身で、自立した国家主権が欲しい、国として認められたいと考えてる人が多いと思うんですが、そのように危機感を持って生きているかどうかは個人的には大事だと思います。

逆に言うと日本は危機感が薄いですよね。

ーー2022年、米国からペロシ氏が訪問した際には日本では大々的に報道されましたが、台湾ではいかがでしたか。

注目は確かに高まりましたが、緊張が走るというほどではなかった印象です。すでに慣れてしまっているのかもしれません。

ロシアが突如ウクライナを侵攻したように予測不能の出来事が起こる可能性もあり状況を軽視してはいけないものの、緊張が高まることは少ないと感じています。

留意すべきは、中国と台湾のコミュニケーションプロトコルについて外部の人々が完全には理解していないことだと思います。

ーー現在はなぜ台湾に居住されているのでしょうか。

単純に台湾が好きだからです。私は寒いのが苦手なのですが、暖かく、気候がいいんですね。

制度や経済的な側面で考えればドバイやシンガポールも選択肢として挙がるでしょうが、シンガポールは中央集権的なところが苦手です。

おそらく家族連れであればすごく住みやすく、制度も整っていていいなと思うんですが、いたるところで政府の影響があるのを感じます。住居も国営住宅があり、管理されて生きている、鳥かごの中で生きている印象があります。

私は、自由で、政府に管理されない、みんながそれぞれのことを勝手にやっている国とかの方が好きですね。その点では社会主義のはずなのにすごいアナーキストな世界ができているベトナムは嫌いじゃない、すごくいいと思います。

台湾は自由という面もそうですし、社会インフラ、モバイルインターネットも安定していて、全体的にバランスがいいですね。

現地の人たちもゆるキャラみたいな感じで、性格もいい人が多いです。台湾人の気質は住んでみるとわかりますが、のほほんとしていていいですね。

ビットコインがもたらす社会変革、どのように影響を与えていくかといった過程を楽しむというのもすごく刺激的なこと

ーーDiamond Handsの今後の活動について教えてください。

まず一つ目はLNのルーティングで、最近では、運用方法を改善することで年利2-3%の収益が得られそうであるということがわかっています。

イメージしづらいとは思いますが、ノンカストディアル型の、ビットコインを活用した新しい形のDeFi的な収益機会が今後数年で浮上すると予測しています。

この分野はまだ発展途上ですが、今後の展開が非常に楽しみであり、私自身も継続的に注目しています。

もう一つは、LN関連の企業や取り組みを増やしていきたいと考えています。

Diamond Handsでは海外プロジェクトとの連携を深めており、海外からのビジネス提案や人材探しの依頼も多く受けています。そしてこれらを活用し、副業を供給できる環境作りなど、経験を積んだ人たちが自ら企業を立ち上げるきっかけを作りたいと考えています。

Diamond Hands自体は元々非営利のプロジェクトとして始められたため、直接的な商業的な動きはいまのところ予定していませんが、必要に応じて新しい組織を設立し、資金調達やプロジェクトの発展を図ることも考えています。

国内でのLN関連の動きを促進させるため、必要な事例やシグナルを提供する役割を担っていきたいです。

ーー最後に、視聴者や読者に向けてのメッセージをお願いします。

Diamond Handsでは今年の9月にこれまで無償で提供していたニュースレターのPro版の提供も開始しました。

Pro版ではビットコインやLN、クリプト界隈に関する率直な意見や裏話、そしてビットコインの国内普及活動に関する情報を詳しくお伝えしています。

投資の観点でビットコインに期待するというのも素晴らしいとは思いますが、ビットコインがもたらす社会変革、どのように影響を与えていくかといった過程を楽しむというのもすごく刺激的なことだと思います。

無料版のニュースレターも有用ですが、Pro版への参加もぜひ検討してみてください。

そして、機会があればまたお話しする機会があると思いますので、皆様からのコメントやフィードバックを残してもらえるとありがたいです。

参考:日本国内のビットコイン普及の加速を目指す新しい挑戦 DH Magazine Proの公開と案内|Diamond Hands

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