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【バーボンを訪ねる】 #呑みながら書きました

さて、2回ほどバーボンについて書いてまいりました。今日は諸事情によりお酒を飲めませんので、バーボンより届いた麦で淹れた熱い茶の香りをおともに筆を。少し昔の話をしましょうか。酔うことにおいて、これ以上にふさわしいものはないかもしれない。


わたしが以前立ち寄らせてもらっていたバーボン、具体的にどこにあるかは明言できませんが、その土地にも慣れてきたのでさらに深く知りたいことが出てまいりました。そんなある年のこと。お世話になっている寮長に聞いたのです。率直に。

バーボンとは、なんなのでしょう

それに対する答え。それはと申しますと。

バーボンとは何か。人ですね。人がいて初めてバーボンが生まれる。人がいて初めてその土地の土がバーボンとなり、樽が心地よく呼吸を始めるのです。イノシシも小魚も赤トンボもバーボンを作ることはできません。人がいて、彼らの紡いできた時間を感じながら表現していく。それがバーボン。ご覧なさい。

そう言って差し出された寮長の両手には何処かで摘んできたであろう花が一輪。

これは?そうわたしは聞きました。

これは一輪の花です。でもこれもまたバーボンなのです。触れてください。まだ温かいでしょう?

恐る恐る(それは神々しくもある花でしたので)触れてみました。温か。ハッとする思いでした。切り取られた草花に体温があるなんて思ってもみなかったものですから。

どうでしょう、奥の部屋へきてみませんか。

寮長は長く艶やかな髪を揺らしながら立ち上がり、時軸のずれるような錯覚を覚えながら、わたしも立ち上がりました。

襖を開け、奥の部屋へと。

まだ昼間なのに、そこには少しの光も届いていませんでした。漆黒の間に輪郭を失った寮長の呼吸を微かに感じる。甘い麹の香りが少しして。それ以外は完全に静寂の世界。

ここはどこなのだろう。そう言ったことを考えました

麹の香りが小さな風となります

心の中の言葉を文字にしながら、ゆっくりと考えました

身の軽くなるのをかんじて

わたしは寮長の柔らかい手を握り、考えました

その時わたしはどんな形をしていたのでしょう

わたしは夏のスズムシであり、タウナギであり、様々なイメージが舌をつたって流れてきました

静かなその場所で、わたしは無垢でした

そう、無垢であったのです

肌の湿度が光の届かない場所で冷え、強ばり、わたしは温もりを求めました。その時やっと、寮長が輪郭を取り戻したのです。



バーボンとは。その答えを諭してくれたのだと思います。


もうここには戻ってはなりません。寮長はそう言い、わたしを送り出しました。その美しい音は光の指す遠くの雲に向かって流れるように、やがて見えなくなりました。



そう、このお茶はそのバーボンから毎年届くもの。あの人はあの場所から離れることはできない。わたしはあの場所にとどまることはできない。


そんな昔話


いかがでしたでしょうか。

バーボン、興味を持っていただけたのならいいのですが。







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