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バタフライマン 第6話 三戦士集結

メタモル・シティ各地の男性のもとに手紙が届いた。蛇革模様の封筒に包まれた手紙の内容はこのようなものだった。
「あなたをずっとお慕いしていた者です。今夜7時、この手紙を持って〇〇ビルの屋上に来てください。待っています♡。」 
 これを見た男たちは全員なぜかこのいかがわしい手紙を信用してしまった。その手紙には男たちを魅了するものがあったのだ。そして彼らは手紙の文面通りビルの屋上に集まった。彼らは皆困惑した。呼ばれたのは自分一人だと思ったからだ。しばらくすると、まだら模様のワンピースを着たスキンヘッドの男性が現れた。そしてこういった。
「あらあら。みんないい男ねぇ。惚れ惚れしちゃう。」
「何だオカマかよ‥」
「騙したな!」
「帰ろ帰ろ‥」
男たちはその姿を見て愚痴を言いながら解散しようとした。
「お待ちなさい。」
スキンヘッドの男が呼び止める。
「何だよ。オカマとデートする趣味はないぞ。」
「みんなまとめてハグしてあ・げ・る。」
 すると男の体がムクムクと大きくなった。体は鱗で覆われ、口は耳まで裂け、二股に分かれた舌がチロチロ顔を出す。下半身は鱗で覆われた太く長いものに変わる。そこにいたのは半人半蛇の巨大な怪物だった。怪物は巨大な体をくねらせ、その下半身で6人いた男たちを囲む。そして凄まじい力で締め上げ、その体を纏めて破壊した。そこには骨が砕け内臓が飛び出した無残な死体が転がっていた。
「ウフフ…これで虫さんたちをおびき寄せられるわ。覚悟しなさい。みんな私が抱きしめてあげるわ。」
怪物は人間に戻り、立ち去った。
 
「繭」本部にカラスマ・ミドリ、タイラ・ヒカル、ホシノ・ゲンジュウロウが招集された。ビルの屋上に残された無惨な死体が発見されたのだ。。男性六人が潰されて肉団子のようになった見るも悍ましいそれは明らかに人間の手によって作られたものではなかった。
「こりゃあ間違いなくカイなんちゃらとかいうバケモンの仕業に違いねぇ。」
 ゲンジュウロウが言う。
「十中八九カイジンだろうな。人間にこんな惨い真似は出来ん。」
 ヒカルは言う。
「お前たちは町中を見張れ。この死体から見て、相手は相当な巨躯の持ち主だ。」
 キイチがそういうと、3人は町へと飛び出した。

そのころ、蛇のカイジン、コンストリクターは三戦士を待っていた。だが、中々現れない。
「虫ちゃんたち、遅いわねぇ。こうなったらひと暴れしちゃおうかしら。」
 そしてコンストリクターはその場で十mを超える巨大なカイジンに変身した。周りにいた人々が騒然とする。
「グワシャァァァッ!」
 コンストリクターは奇声を上げて咆哮し、破壊活動を開始した。建物に体当たりして破壊した後、一組のカップルに目を付けた。
「あら、いい男。そんな女はあなたには釣り合わないわ。」
 コンストリクターはそう言うと、女性の方を大きな口を開けて飲み込んでしまった。
男性の方は怯えた顔でコンストリクターを見て、
「彼女を返せ!このバケモノ!」
 と言った。
「あら残念。もう溶けてると思うわ。私って消化早いから。」
 男の方は呆然とする。
「私よりあんな女がいいっていうなら…」
 コンストリクターは男に向かって巨大な尻尾を振り下ろした。
「バイバーイ。」
 コンストリクターが尻尾をどかすと、トマトが潰れたような跡が残っていた。
コンストリクターは次々と人々を飲み込み、叩き潰し、非道の限りを尽くした。警察が出動したが、その巨体の前になすすべなく圧倒されてしまう。
「さぁ虫ちゃんたち!いらっしゃーい!」
 コンストリクターは巨体をくねらせながら叫んだ。

もちろん三戦士がこの事態に気づかないはずがなく、すぐに現場に向かった。
コンストリクターが呵々大笑していると、頭に何かが飛んできた。見ると銀色の下駄だった。
「何よこれ‥」
「好き放題もそこまでにしろぃ!このウワバミ!」
 ゲンジュウロウが背中のマントを天道虫の翅に変え、滞空していた。ゲンジュウロウは下駄を素早く手に取る。見るとビルの上に装身したミドリとヒカルも立っていた。
「やっと来てくれたのねぇ。私のかわいい虫ちゃんたち!」
「俺たちを誘きだすためにこんな真似をしたのか。カマ野郎。」
 ヒカルが言う。
「その通りよん。あなたたちを潰せば、レイブンちゃんに褒めてもらえるんだもの。」
「レイブン?誰だそれは。」
「あら知らないの?私たちのリーダーよ。皆の評判は良くないけど、とってもいい男。」
 カイジンたちは群れを作り、その中にリーダーがいることはキイチから聞いていたが、その名が対峙したカイジンの口から出るのは初めてだ。
「何でもいいが、お前のした所業は許されるものではない!観念しろ!」
 ミドリが言う。
三戦士たちは臨戦態勢に入った。
「わざわざ食べられに来てくれてありがとね。虫けらちゃん。」
コンストリクターは大口を開けて、ゲンジュウロウの方に向かってくる。ゲンジュウロウは慌てて身をかわす。
「おっと危ねぇ!」
 そして、渾身の力を込めて鉄下駄をその頬に叩き込む。
「グワシャァァァッ!」
「これ以上汚ねぇ顔を近づけるんじゃねぇ。このクソカマ野郎。」
 コンストリクターが怯んだ隙に、ヒカルが「蛍火」を抜き、その頬を斬りつけ、ミドリが拳を叩き込む。
「何で顔ばっかり狙うのよぉぉぉ!」
 コンストリクターが吠える。
「お前の顔がデカいからだ。狙いやすい。」
 ヒカルが言う。
コンストリクターは大口を開けてその巨体で地面を削りながら迫ってくる。
「虫けらごときが私の顔に傷つけるなんて‥」
 巨体を持ち上げ、そのまま頭突きを仕掛けてくる。
「許されるわけないでしょぉぉぉ!」
 ミドリ達はその攻撃を避けきれず前に吹き飛ばされ、怯む。コンストリクターはその隙を見逃さなかった。優れた感覚器官を使って避難が完了していない低層マンションを見つけ、地響きをたてながら素早くその方向に這う。そしてそのマンションに巻き付き、尾の先で入口を塞いだ。
「これであなたたちは私に手出しできない‥もし少しでも私を攻撃したら、この建物を締め上げて、中の人たちを纏めてイチゴジャムみたいにしちゃうわよ。」
 マンションの中には赤ん坊を抱いた母親もいた。
「ほらほら、どうしたの。かかってきなさい。」
「卑怯な真似を…」
「何とでも言いなさい。ウフフ…」
 ミドリたちは小声で何かを話し合った。そしてミドリが拳でコンストリクターの尾の一部分を殴った。
「あら、やったわね。じゃあさっき言った通り‥」
 コンストリクターは建物を締める力を強める。
中にいる人々が悲鳴を上げる。しかし次の瞬間、コンストリクターの締め付ける力が緩んだ。
「グワシャァッ!」
 ヒカルがその胴体を斬りつけたのだ。
「攻撃を緩めるな!なんとしても締め付けを妨害しろ!」
 ミドリがそう言って、コンストリクターに拳を撃ち込む。ゲンジュウロウは鉄下駄で応戦する。一糸乱れぬその猛攻はコンストリクターに締める力を強める隙を与えない。
「何でよっ!あんたたち一緒になったばっかりなんでしょ!どうしてそんなにチームワークいいのよっ!ナマイキなのよこのゴミ虫ども!」
「義の心を持つ者同士ならば、息が合って当然だ。」
「お前みたいな奴には一生分からねぇだろうな!」
 コンストリクターはビルを締め上げることを諦め、スルスルと離れていく。そして巨体をくねらせ、再び街を暴れまわる。その隙にミドリたちはマンションの住民たちを避難させていき、再び攻撃を再開する。しかし、10m以上の巨体に拳や刀や下駄による攻撃を入れても完全に倒すのは難しい。
「デカブツだけあってしぶといな。」
「何か決定打となる攻撃を与えなければ‥」
「奴らの弱点は共通して胸だ。それ以外にも頭部に致命傷を与えても倒せる。弱点は人間と変わりない。」
「しっかし‥アイツ動きがクネクネしてて狙いがつけづらいったらありゃしねぇ。」
「奴の動きを止める必要があるな。」
「そうだ。いいこと思いついたぜ‥ミドリ、ヒカル!奴らを足止めしていてくれ。必要なもんがあるんだ。」
 ゲンジュウロウが言うと、彼は山間部の方に飛んでいった。
「おい!どこに行く!」
 ヒカルが言う。
「すぐ戻る!待っていろ!」
 しばらくすると、ゲンジュウロウは何かを持って戻ってきた。
「ゲンジュウロウ!それは何だ?」
「寺からちっと拝借してきたんだ。」
 それは巨大な釣鐘だった。ゲンジュウロウはそれを掲げると、コンストリクターの頭上で手を放した。
「あらよっと!」
 釣鐘はコンストリクターの頭部をすっぽり覆った。
「シャァァァッ!なにするのよぉ!」
「行くぜぇ。」
 ゲンジュウロウは自慢の鉄下駄を掲げ、コンストリクターの頭部をすっぽり覆った釣鐘を思い切り叩いた。凄まじい轟音が響く。
「グワシャァァァッ!」
 コンストリクターが絶叫する。蛇の特質を備えた彼の過敏なまでに鋭い感覚器官にこの騒音はこたえる。その動きが鈍る
「もういっちょ!七星一蹴!」
 ゲンジュウロウはさらに釣鐘を蹴り上げて打ち鳴らす。コンストリクターの動きがおぼつかなくなる。
「今だ!」
 動きが著しく鈍くなったコンストリクターに向かって、ミドリとヒカルが攻撃の構えをとる。
「蛍切の攻。」
 ヒカルが「蛍火」をとり、ほとんど動いていないコンストリクターの胸部を斬りつける。
「シャアッ!」
「大揚羽正拳突き!」
 そして傷ついた胸部に向かってミドリが渾身の力を込めた拳を撃ち込む。何かが砕ける感触が伝わり、徐々にそれがひび割れていく。そして、完全に砕け散った。その瞬間、コンストリクターの体は見る見るうちに炎を上げて燃え上がり、その巨体は灰になって風化していく。
三人はその様子を見つめながらビルの上に立っていた。これが三戦士の初めての共闘となった。同時に怪物とそれと戦う戦士の存在が社会で明るみになり、世界中で報じられた。そしてこれから、世界中で人外の存在による猟奇事件やテロが多発し、カイジン一族の活動が本格的になっていく。「繭」の戦士たちの戦いはまだ、序章ですらないのだ。


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