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女子大生だった私がバイクに乗り始めた理由

今からざっと20年以上前。バイトのお金を教習所につぎ込み普通自動二輪の免許をとった。当時を振り返ると、自分が思っていたよりも、バイクを「乗りこなす」というのは至難の業だった。でも、「免許さえとればバイクに乗れる!」 今思うと安易な高揚感を持って教習に通ってなんとか免許を取った。

 初めてのマイバイクは、SUZUKIのバンディット250、カラーは赤。本当は、赤×黒のツートンカラーのインパルス400が好みだった。でも、資金の関係で250にした。

 知識も経験もない私は、バイク雑誌の巻末にある業者一覧から一番安く新車を届けてくれるという遠い県の全く知らない店からバイクを購入した。

 今ならそれが結構ダメダメなパターンだということは重々承知しているが、当時は全くそうとも知らず。宅配業者に届けられた新車のバイクを目の前にワクワクしたのが、私のたった一人でスタートしたバイクライフ。

 一人っ子で、本の虫で、夏休みには大量の本を図書館から借りてきては朝から晩まで読書に没頭する。それが何よりの幸せ。別に少女漫画でありがちな、バイクに乗っている憧れの先輩もいなければ、バイクに乗って帰宅する兄もいない。それでも、中学に入学する頃には「将来の私はバイクに乗っているのだ」という未来の事実がなぜか胸中に普通に存在していた。

 今振り返ると、私にそう思わせたのはたくさんの小説だったのだと思う。

 フラ~っと気軽に読み始められ、逆に「ちょっと後で」と本を閉じてもモヤモヤしない、すぐ傍に置いておいて気軽にいつでも物語に入っていける片岡義男さんの本たち。非現実的に圧倒的におしゃれで、上品で、幼かった私の「大人・紳士・淑女のイメージ」そのものになった。

 泉優二さんの「ウィンディー」から続くレース小説。マン島のTTや二輪GPの世界。レース模様だけでなく、そこに参加する様々な立場の人間模様を描く一冊一冊に没頭した。登場人物の人生の変遷に一緒に付きあって、自分も参加しているかのような臨場感をかみしめながら何度も読んだシリーズ。今でも大好きだ。

 石井敏弘さんの「風のターン・ロード」と「風の魔術師」。どちらも、推理小説?の体裁としては不十分なところはあるのかもしれない。でも、幼い頃に読んで登場人物の青春模様と生き生きとしたバイク疾走シーンにとてもワクワクした。

 きっとそれ以外にも小説の中のエッセンスとして登場する「バイク」というアイテムを、いつしか勝手に「将来の自分の生活の一部」と捉え、なんの手引きも、誰からの勧めもないままに、「当然のこと」として教習所生活をスタートしたのがもう20年以上も前のこと。

 どこに、何に、自分のスイッチを押すアイテムが転がっているかはわからない。少なくとも私は本の中の「バイク」というアイテムに反応した。あれから20数年。いろんなことがあった。結婚もした 就職もした 離職もした 引っ越しもした。 失うはずがなかった人の訃報で涙したこともあった。

 バイクは何台か入れ替わったけれど、今もうちの車庫にひっそりと、次の出番を待って佇んでいるトリッカー君がいる。それは私にとって、とても嬉しいこと。

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