結婚。

 明日婚姻届けを出そうとしている。正直、もっと先でもよかった。けれど、いろいろな状況を勘案して、明日に決めた。

 一番は夫となる人の転職。転職にあたって引っ越し費用を出してもらえるが、帯同かどうかで大きく額が異なり、そのためには籍を同じにしている必要があった。差額を自分たちでまかなっても婚姻届けの提出を先延ばしにする案も出たし、いっときはそれで合意した。

 婚姻届けを出すことによる最大のデメリットは一方が姓を変更しなくてはいけないこと。そして、彼は、自分は姓が変わることに全く抵抗はないけど、長男だから自分が譲ると自分の家の姓が途絶えてしまうのが困る、と言って、私が譲った(代わりに本籍地を私の実家にした。彼の実家も私の実家も隣同士の市で、県外に引っ越してしまえばどちらに置こうと大差はないと判断したため)。


 彼にとって姓を変えることのリスクは将来の話だが、私にとっては直近のことだった。

 彼の転職先が県外であるために、私は今務めている会社に通えなくなる。無理を言って、特例でフルリモートワークをさせてもらえることになった。コロナで実績ができていたことも大きかったと思う。ただ、近場にいない人間に働き続ける許可を出すことは会社にとってとてもチャレンジングだったとは思う。感謝している。

 そういう状況で名前が変わったら、電話をかけても「だれ?」となって当然だ。過去の仕事とのつながりが断ち切れてしまうリスクがあった。


 それでも変えることにしたのは、ひとえに後輩ちゃんたちの前向きさだ。ずっと彼とのことを相談し、親身になって励まし、共感してくれた、一番お世話になった後輩ちゃんは、新姓と私の名前の組み合わせに「かっこいい! 今より素敵です!笑」と新しい価値を提示してくれた最初の子だった。既婚で自分が姓を変えた後輩ちゃんは、「みんなすぐになじみますよ」と背中を押してくれた。「だったら早く変えて、引っ越す前になじんでもらってもいいと思いますよ」と。

 その話をしたのが先週。そして、少し前に日取りを検討した際に、一度は候補に挙がったけれど近すぎると却下になった6月20日が、まだ間に合うことに気づいた。

 今週の頭に、その日に婚姻関係になれば帯同の扱いに間に合うかを転職先に確認してもらい、裏が取れたため、踏み切ることにした。


 こんな風にいろいろな条件で、人生で一度しかない大事な記念日を決めるのは、かなりマイノリティである気がしている。さらには、とにかく言ってみようと会社に無理を言ってフルリモートワークをお願いし前例のない立場になってみたり、姓を変えなじんだ土地を離れ身ひとつで知り合いのいない地についていくことにしたり、自分で選んだこととはいえ、あまりに「多数派」と違いすぎて、正直こんな選択で本当にいいのか不安になる。極めつけが、こんな流れで、婚姻関係を結ぶ。

 それでも、明日は最強の吉日と縁起日が重なる日。天赦日、一粒万倍日、友引。この上ない日だとか。そんな日取りがちょうど目の前にあったことも、なにか縁あってのことなのかもしれない、と、敢えて前向きに解釈してみる。


 今日、これまで何度も自分を立て直すためにお世話になった神社にお参りして、「背中を押してください」と念じながらおみくじを引いてきた。内容は、願った通り、やさしく「やってみるように」と言ってくれているようなものだった。感謝しかない。


 仕事がうまくいかなくても、それは会社にも糧になるし、自分は転職すればいい。

 なじみのない土地が嫌なら最悪帰ってくればいい。

 なんとでもなる。なんとかなる。

 ここ数年で自己肯定感を叩き上げてきた。そのステップがなければ、こんな発想には至れなかった。こんな結婚につながるとは想像もしていなかったけれど、積み上げてきたものを生かすこの上ない機会だ。

 独身最後、に目を向けると寂しくなるから、最高の相手と公的にパートナーシップが結べるよろこびに目を向けよう。新しいチャレンジをする自分を褒めよう。

 今日は昨日の延長だし、明日は今日のつづきで、特別に見えても連綿と続く日常だ。その中で、自分より大変な人たちのことを常に考えていたら、たぶんなんでもなんとかなる。


 ともあれ、私、結婚おめでとう。

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