『愛を伝える5つの方法』

 もとは"5 languages of love"なので、本当なら「五つの愛の言語」。ゲイリー・チャップマンの本です。前野隆司先生の『ニコイチ幸福学』を読んで、初めてこの本を知りました。

 日本に出回っている多くの恋愛メソッドは、ジョン・グレイの『ベスト・パートナーになるために』か心理学・脳科学的な要因をそれぞれの作者が自分なりに翻訳したものだと勝手に感じています。いろいろな翻訳や切り口で紹介してもらえて、気持ちを新たに意識できるという点で、こういった翻訳系も助けにはなっていました。

 ただ、この『愛を伝える5つの方法』はまったく方向性が違いました。パートナーシップ関連の本は、とかく「男女差」にフォーカスしています。「男性と女性ではこんなに考え方が違う、だから相手の思考パターンに合わせたコミュニケーションを取ろう」というスタイルです。『愛を伝える5つの方法』では男女による差はまったく出てきません。様々な例には男女の役割分担もありはしますが、それはこの本の提示する「言語」とは無関係なものです。

 私は、男女差が生じる考え方があるとすれば、生殖や体力など身体的な性質に基づくものだけが先天的で、他は後天的に育まれた傾向、つまり環境によって作り出されたものだという立場です。そのせいか、この本がすごく腑に落ちました。

 また、男女差としてあげられることが、実際は言い換えているだけで、本質は同じというものがよくある気がします。「女性は解決より共感を求める」というのは有名で、アドバイスより「それは辛かったね」「それは嬉しいね」と共感が欲しいと。それ自体は間違いではないと思いますが、男性も結局共感されると嬉しいというのは同じだと思います。「男性は褒めろ、尊敬しろ、感謝しろ」という「男を立てる」がパートナーシップで推奨されていますが、これは「尊敬」だから共感とは違うのか。「尊ぶ=上に置く」という要素があるから異なるのか。いろいろあるかもしれませんが、「あなたのしたことに同調する」という点は同じだと思います。

 この本で扱っている「5つの愛の言語」はこの本質にとてもよく迫っているものだと思います。「言語」は「コミュニケーションツール」という意味で、この本では特に愛を伝えるツールを紹介しているのですが、なによりこの本のよいところは「相手によってツールを使い分けろ」という点です。男女という性別ではなく、相手を見ている。


 この先、パートナーシップにおける男女の差というのはどんどん均されていくことを私は期待しています。ジェンダーバイアスが徐々に可視化され、ジェンダー平等が唱えられるながれです。「男性だから稼がないと」というプレッシャーがなくなり、男性だって当たり前に乳幼児と格闘するような社会になれば、「上に行く」という価値基準が重要でないグループも必ず生まれます。そのグループに属する男性は、「勝者であることを実感するために尊敬を求める」という傾向は、別のグループの男性と比べて大きく異なることでしょう。

 そんな社会でも生かせるパートナーシップのモデルが、ずっと昔に発売されたこの本にありました。ほかのどんな本より、ぜひパートナーと一緒に読みたい本になりました。

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