ジェンダーをとりとめなく考える。

 眠れるように頭の中をすべて吐き出す儀式。


 『彼女が性被害に遭うなんて』を著したマルクスさんのTwitterを拝見し、眠れなくなった。もともとジェンダー不平等への違和感はおそらく平均よりは強く感じていた分、自分から深く踏み込むことを避けていた。そんなところに踏み込まなくても嫌でも飛び込んでくるから。

 そして急速に、婚活をしていること、今の彼との関係への不安が首をもたげた。子どもはもともと悩んでいたものの今の彼が欲しがっているから、結婚後二年したら妊活、という話を常々していた、これも、同じく足元がぐらついてきた。

 ネガティブバイアスも発生している。ホメオスタシスも後押ししているかもしれない。けれど、こんな日本で苦しむ人を自分で増やすの? と、とっさに思ってしまった。


 こういう現実と一緒に向き合える人、というのが、婚活する上でのひとつの軸だった。今、アンコンシャス・バイアスがあってもいい、けれど、「ジェンダー、LGBT、宗教などのマイノリティに寄り添う」という、やわらかな言葉にさえも目を背ける人、あるいは反発する人はふるいに掛けたかった。「育休も姓の変更も男女ともに発生すると思える人」というのもあった。逆に、年収は気にしなかった(ただし、リスクへの価値観・考え方の合致という点で、年収・企業規模も自然とそこそこになった)。

 マッチングアプリでは、上の言葉をほぼそのまま書いた。結婚相談サービスは文字数の制限があったから削ったけれど、後者は譲れずに書いた。その分私も働く意思は示した。というよりも、自分が正社員の仕事をやめるのは自分にとっても家族にとってもリスクでしかないと思った。

 現在、マッチングアプリのプロフィールを見て「いいね」してきた人と、出会って11か月、付き合って8か月半。マリッジブルーを抜け切れていない中で、マルクスさんのTwitterを紹介したら逃げてしまうかもしれない。けれど、それこそ必要なのでは? という気がしている。とはいえ、どちらの姓にするか問題を私は避ける気はないので、仮に今を回避しても、クラッシュするのであれば、ただの失恋・別れになるか婚約破棄になるかだけの違いで、婚姻届けを出してからにはならないだろうけれども。


 自分が当事者として一番意識するのは、ひとつは婚活で相手の承認欲求にひどく気を使っていることに気づいたとき………と書こうと思ったけれど、私は人より甚だしく見捨てられ不安が強いので、おそらく承認欲求の求め度合いとしては同程度だと思う。彼も頑張ってくれている。

 そう思うと、目下感じるのは仕事だ。私は仕事では一般的な男性社員よりはいろいろな経験をさせてもらえている。けれどそれは、私が文系学部(人文学部哲学専攻)卒で女性なのに(ついでに入社以前はIT系の資格もなかったのに)、SEとして一年目秋に応用情報技術者試験に合格、という点で、上部の目を引いたからだ。

 女性であることは大きい。実際、上部からは、ロールモデル・看板等を期待している旨を言われた。女性でも、文系卒でも、上に行かれるということを見せてほしいと。

 なお、一年目で応用情報技術者試験合格というのは自分だけの力ではない。SEとして働くことが決まった時からプログラミングを独学で勉強したり、もともとHTMLには慣れていたから文字が文字以外のものに変換されてデザインが生み出されることも慣れていたり、勉強をがんばったというのももちろんある。

 けれど、私の入社年が2011年だったというのも大きい。

 春の情報処理技術者試験が夏に延期になった。夏に基本情報技術者試験を受けて合格し、その勢いで秋の応用情報技術者試験に臨んだ。忘れる間がほかの時より短かった、というのも、絶対にある。


 それでも、社は実績として認めてくれた。グローバル化を検討していた社は、大学時代に(ただの興味で)TOEFL対策講座を取っていてWritingもうっすらできたこともあり、海外研修の機会をすべて与えてくれた。2012年にカナダに1週間(これが初海外、マイクロソフトのイベントに参加)、2016年にセブ島3か月(語学留学)、2018年は日本含む4カ国での3か月半の研修(リーダーシップ研修)。これをすべて行ったのは社内で自分だけである。

 現場でも井の中だけで見れば優秀だ。設計・実装ともに、最先端ではないし技術開発部署の面々には及ばなくても、自部署内ではおそらくトップ。電話での問い合わせ対応、クレーム処理から、客先に出向いてのデモンストレーションから打ち合わせ、NoをNoということ、相手方の気持ちを慮ること、その中でなんとかこちらのお話を通すこと……後半については、幸運に恵まれてお客様がとても人間味のある優しい方々であることが最大の要因だとも思う(明らかにこちらがミスしたことでも、「そのミスに気づいてしまってすみません、大変ですね」といたわってくれるお客さん)。ただ、別の人が炎上させてしまったことをとりなしたこともあるので、一応、スキルゼロではないと言っていいはずだ。実際、難しいコーディング、複雑な設計に対して、「これ私がやった方がいいと思います」といえば通る。


 大いに脱線したが、上の思惑と現場での働きと、両方に存在している珍しいタイプの立場に私はある。その身で感じるのは、この上の方の考えは、現場にプラス効果よりもマイナス効果が大きい気がしてならない。


 マイナス効果の一つはジェンダーバイアスの増強だ。

 集団におけるマイノリティとは、二分した際に4割を切ったときに際立つ。4割を切ったマイノリティは、個人としてではなく、マイノリティ集団の性質として誤認されがちなのである。そのため、これだけ「女性のロールモデル」を期待されていた私が、「いや家庭最優先です」などと言えば、「これだから女には投資しても無駄だ」「やっぱり女は重要な役職にはつかせられない」と、女性全体に対してネガティブなレッテルが貼られてしまう(というかもう貼られているので、より強調してしまう)。せめて何人か、同様の待遇にある女性がいれば、個体差を認識してもらえると思う。けれど、残念ながら現状不在である。


 そして、これだけマジョリティたる男性陣のバイアス増強リスクがあるにもかかわらず、「ロールモデルにしてくれ!」と上が期待している女性陣からは「この人は特別扱いされているから」という認識になり、共感されないというのが、もうひとつのマイナス点だ。皆さん、とてもやさしい。私が人間味を見せるとたちまち共感してくれる(彼氏に振られて情緒不安定である、お酒飲みすぎてテンションがやばい、意外と頭が悪いしよく詫びている、言葉遣いが古風、オタクなど)。ただ、親しくなれた方は、(もちろん私の言動のせいも多分にあるとは思うけれど)「とっつきづらい人かと思っていた」「バリキャリ志向だと思っていた」と教えてくれる。いうなれば「上のお気に入りであり、自分たちにそのキャリアはない。あったとしても、バリキャリの行きつく先である管理職は自分たちの望む働き方ができないから、そうなりたいとも思わない」。すべて心から同意してしまう。


 これらの点から上の思惑は9年の時を経て盛大に大外れしている。


 ただ、私はジェンダーギャップが心底嫌なので、この特権的地位を使って、「男性も女性も自分で働き方を選べた方が生産性が上がりますよ! 3割も!」とプレゼンをしたり、「もし結婚してパートナーが転勤、とかになったら私はついていく気だけど、この会社にも恩があるから、働き続けたい。そのためにもリモートワーク制度を早く整備してほしい」と言いたいことを言うようにしている。「仕事にフルコミットする気はない人も働きやすい」というのが現代では絶対に求められている働き方だし、これが叶えば、私などよりはるかに優秀なのに時間的・場所的制約でその能力を生かせない人たちの力で、こちらが助けてもらうことができる。

 どうか私のわがままが叶い、働きたい人がのびのび働けて、セーブしたい人もコントロール可能になってほしい。

 もちろん、これは性別関係なくすべての人にもたらされるべき恩恵だと思う。そうして初めて、男性の家庭参入なども可能になるし、婚活市場における年収足切り問題も女性との賃金格差解消とともに解決の兆しが見える。


 ジェンダーギャップ解消はいいことばかりではなくて、たとえば女性もこれまで以上に年収が見られるようになると思う。仮に賃金格差が解消されたら、「統計的に男女で賃金格差、待遇、出世に差があることが証明されている」という言い訳が使えなくなるし、男性の「養う覚悟」に甘えられる機会は減る。

 けれど、それは選択肢が増えるだけで、仮に賃金格差が解消されても「稼ぎたい人」と「家を整える役割を担いたい人」のマッチングは確実にある。だから、失われるわけではない。これをリスクととらえて現状を肯定するのは愚かしい。

 今議論されているのとはまったく異なる問題が出てくるのかもしれない。実際、北欧はジェンダーでも幸福度でも日本より遥かに遥かにすぐれていて日本は足元にも及ばないが、出生率は思ったほど増えていないという。

 それでも、まずは、昭和の価値観を消し去って、新しい令和的な課題と早く向き合える日になってほしいと、日本で強く思う。

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