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昔の『POPEYE』に使われていた謎の欧文書体をついに発見した

昔から探していた書体を2017年についに発見した。断続的とはいえ、見つけるのに15年かかったことになる。しかしそれについて書く機会がないまま1年経ってしまった。のでここに書く。今回はその話。(有料だよ)

昔の『POPEYE』に使われていた欧文書体

一体そんな長い間何を探していたのだ?という話から始めると、『POPEYE』という雑誌に使われていた、とある欧文書体である。『POPEYE』は今も毎月コンビニに並んでいるマガジンハウス発行の雑誌で、一度くらいは目にしたことがあると思う。

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「表紙のPOPEYEってロゴのフォントを探してたの?」と早合点しないでほしい。あのロゴは堀内誠一という天才デザイナー/イラストレーターによる手書き文字で、汎用的な書体ではない。

ワタシが探していたのは、1977年の創刊3号からしばらく「pop*eye」というコラムコーナーに使われていた欧文である。同名のコーナーは雑誌に残っているが、該当の書体はもう使われていない。ではどんな書体だったのか。図版で示そう。

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特徴といえるのは以下のような部分だろう。

・袋文字(Outline)
・縁取りの線がやや太い
・右下へ伸びるシャドウが長い(Shadow)
・セリフ体(serif)でもサンセリフ体(san-serif)でもない中間的な印象
ITC American Typewriterに似ている
ITC SouvenirITC Korinnaにも少し似ている

なぜこの書体が気になったのか、今となっては理由が思い出せない。パロディで、そっくりのページをデザインしようと思って、このフォントを使うために名前が知りたいと思ったのかもしれない。とにかく、この書体を他では見たことがなかった。日本では昔の『POPEYE』でしか使われていないんじゃないか、とさえ思った。

書体見本帳で書体を特定しようにも見つからない

商用フォント/フリーフォントが膨大に出回っている現代と比べて、昔の印刷物というのは書体を特定しやすい。それはパソコンが世間に広まるまでは、印刷物の文字というのは活版と写植の2つのシステムが主流で、どちらも基本的に見本帳に載っている書体しか使えないため、見本帳さえ見れば済むからだ。

和文書体なら「写研」「モリサワ」「リョービ」といったメーカーの書体見本帳を見ればほぼ判明するし、欧文書体なら「写研」などの見本帳に加えて『モンセン・スタンダード 欧文書体清刷集』や『タイポニー書体集』を見ればだいたい特定できる。これらを見てもわからない書体を使っていたら、それはよほど文字に対してマニアックなデザイナーなのだ。

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もちろん『POPEYE』の例の書体は載っていなかった。似た書体は載っている。しかしあくまで似ているだけで、同じではない。特定には至らなかった。

と、ここまできて思い出したのが、例の書体を使った『POPEYE』初期のデザイナー、新谷雅弘さんのインタビュー。そういえば書体について語っていたはず。探すと赤田祐一『証言構成 ポパイの時代』のインタビューにあった。142ページ、「見出しの欧文は写植ですか?」という質問に対する返答。

新谷 いや、写植じゃない。このタイトルは、ぼくがニューヨークへ行って買ってきたインレタを切り貼りして作ってるんですよ。

インレタだったのか、と合点がいった。インレタ=インスタント・レタリング。上から擦ると下に文字が転写される透明フィルムのことで、1958年にLetraset社が特許申請した製品。そういえば20世紀は文房具屋にたくさんの種類が並んでいた(知らない人は検索してほしい)。なるほど、写植用の見本帳を見ても載っていないわけだ。

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それでは、とLetraset社の見本帳で探したのだが、やはり載っていなかった。年代によって違うのかもしれないと何冊か出た時期を変えて比較したこともあった。それでも載っていない。インレタと言ってたのに……?

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その後、2011年に新谷さんに直接聞く機会があったのだが、インレタということは確実だが、書体名は覚えていらっしゃらなかった。その後2013年に出た新谷さんの著書『Mac世代におくるレイアウト術 デザインにルールなんてない』にも欧文書体への言及はなかった。

ここでいよいよ「この書体の名前は誰も知らないのでは?」と本気で思い始め、とにかく袋文字・影付きの欧文書体が載っている見本帳をなんでもいいから探す日々が続いていた。とくに『3-D and Shaded Alphabets』の表紙を見たときは「ここに載ってるに違いない!」と興奮しながらめくったものだ。結局「似てるけど違う」書体しかなかったのだけども(表紙右下の書体、それっぽいでしょう?)。

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つ・い・に・発見した

ついに発見したのは2017年夏だった。毎月、定期的に「letraset shadow lettering」でGoogle画像を検索していたものの、ふと、ある単語を足して再検索したところ、それまで引っかかってこなかったデザイン系ブログのページが突然、引っかかったのだ。そうして開いたページは衝撃だった。今ふり返ると「なんでこんな単純なことをしなかったんだ?」と恥ずかしい。

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