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アシッドジャズの日本盤コンピをリリース順に集める(1990年代まで編)

前に「紙とCDで見る20世紀のソフトロック再評価」という集める系の記事を書きました。今回はアシッドジャズの日本盤コンピを集めて紹介していきましょう。一応前史にあたる「ジャズで踊る」=ジャズダンスのコンピも載せています。

旧来的なジャズファンの聴き方ではなく、ディスコ/クラブシーンでダンサー達のために流されるジャズというのが、1970年代のイギリスで徐々に注目されはじめました。これが「ジャズで踊る」シーン。1980年代に入ると日本にも情報が入ってきます。

ここで選ばれているコンピは2種類あります。1つは主に1950~70年代のオリジナルジャズの音源を選曲したもの。もう1つは1980~90年代に活動する若手ジャズミュージシャンの音源を選曲したもの。過去のディグか、現在のスクリーンショットか。ここではどちらも載せています。

ま、アシッドジャズの説明とかは省略。昨今は2016年にSuchmosの楽曲がジャミロクワイのようだと一部で話題になり(STAY TUNE)、ゲーム『ペルソナ5』が音楽にアシッドジャズを取り入れたことで、アシッドジャズという言葉が以前よりは復活気味です。とりあえずいってみよう! あえて全部邦題にしました。

前史:海外

海外でジャズで踊るシーンが注目され始めたときに、それを音源化して提示したのはイギリスの音楽誌『New Musical Express(NME)』でした。彼らが編纂し独自に流通していたカセットテープは、古いジャズの音源を手軽に聞ける安価な手段でした。この後にDJが選曲した現場で使うためのレコードが増えていきます。

1983 V.A.『Stompin’ At The Savoy』(NME-007

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現代的な感覚で選曲されたジャズのコンピは、英国の雑誌『New Musical Express(NME)』のこのカセットテープ『ストンピン・アット・ザ・サヴォイ』が最初と言われます。選曲はニール・スペンサーとロイ・カー。どちらの名前もあとで出てくるので覚えておいてください。ロイは『NME』のライターです。アート・ペッパーからバブス・ゴンザレスまで、レーベルを超えた選曲がされており、そうしたレーベル聴きではないジャズのテイストによる提示は当時まだ新しかったようです。

1984 V.A.『Night People』(NME-013

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前回のカセットが好評だったのか翌年も編集されました。『ナイト・ピープル』というタイトルからして夜にクラブにいる人々に向けたテープというのが感じられると思います。リバーサイドとプレスティッジという二大レーベルからの音源を中心としたコンピです。こちらの選曲はリチャード・クックとロイ・カー。

1985 V.A.『Straight No Chaser』(NME-018

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『NME』のジャズカセット第三弾はブルーノートの音源だけで編んだ『ストレート・ノー・チェイサー』。セロニアス・モンクの同名曲から取られたこのコンピ名が、のちの同名雑誌につながっているのではないかと思います。選曲はリチャード・クック、ロイ・カー、ニール・スペンサーというこれまで出てきた3名。オルガンジャズやスウィングジャズを含めたグルーヴィーで踊れるジャズばかりです。

1985 V.A.『Jazz Juice』(SOUND-1)

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まだ新人DJだったジャイルズ・ピーターソンが編んだコンピLPシリーズ(全8作)。リリースはストリートサウンズから。ラテンジャズやジャズファンク(=フュージョン)中心の『ジャズ・ジュース』がとくに画期的だったのは、フロアで人気だったブラジル音楽をすでに収録していることです。ブラジル音楽再評価はここから始まった、のかもしれません。1でアイアートやジルベルト・ジル(とセルジオ・メンデス)、2でマルコス・ヴァーリなんて、90年代の日本みたい!

1986 V.A.『Low Lights and Trick Mirrors』(NME-026

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ビリー・ホリデイ『Holiday Romance』(NME-023)とラテンコンピ『The Latin Kick』(NME-025)を経由して再びジャズのコンピカセット。キャピトルとリバティの音源からコンパイル。ちなみに『The Latin Kick』のほうはウェディング・プレゼントやフォールのファンに、ジョー・バターンやザ・ファニア・オール・スターズを聴かせようとしたカセット……だそうな。

1987 V.A.『Blow-Up UK』(NME-030

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NMEのジャズのカセットコンピはこれが最後のようです。1980年代半ば頃に活動していた新しいジャズバンド中心のセレクトで、『C86』のジャズ版だと解釈できます。

1987-10 V.A.『Do It Fluid』(BGP-1002

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海外はキリがないのでここで終わりにしますが、BGPはDJが選曲を担当したレアグルーヴコンピを次々とリリースし、新しい価値観を提示した再発レーベルです。『Do It Fluid』はバズ・フェ・ジャズとジャイルズ・ピーターソンが選曲を担当したフュージョン系コンピLP。ここを起点に『Dance Juice』『Focus On Fusion』『Acid Jazz』などのリリースが続きます。

前史:国内

日本では1986年に映画『ビギナーズ』公開にあわせて少しだけジャズが盛り上がりました。4月にはイベント「MEGA DANCE CITY vol.2」に合わせてポール・マーフィーやギャズ・メイオールやジャズ・ディフェクターズが来日、「ジャズで踊る」ブームが日本にも来るぞ!と関係者が思っていたのです。結果は……惜しかったですね。

1986-04-23 O.S.T.『ビギナーズ』(28VC-1080)

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1958年のロンドン・ソーホーを舞台にした映画『ビギナーズ(Absolute Beginners)』のサウンドトラック盤。米国『アメリカン・グラフィティ』に対抗したであろう舞台設定です。すべてがジャズではないですが、シャーデー、スタイル・カウンシル、ワーキング・ウイークなど、ジャジーなポップミュージックが収められています。花房浩一によるライナーノーツでは(執筆日は1986-02-25)、「ジャズで踊る」現象に触れています。

なお、こちらは先行発売盤で、1950年代のオリジナルジャズも収録した完全盤(1986-06-04)も出ていますが、そちらのライナーは鈴木道子という昔から活躍する音楽評論家が書いていました。鈴木さんはビリー・ジョエル、クリストファー・クロス、フォービー・スノウなどのライナーで名前を見たことがあります。

1986-06-01 V.A.『ジャズ・クラブ・フォー・ビギナーズ』(30AP3166

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「ジャズで踊る」シーンを作り上げたオリジネーターであるDJポール・マーフィーが選曲・監修した日本独自編集盤。映画『ビギナーズ』公開に合わせてCBS/SONYからリリースされました。ポールのパーティ「ジャズクラブ」を再現した選曲のようです。このコンピで音源以上に重要なのはライナーノーツ。ライナーというか、タブロイド紙を模したちょっとした情報誌のような内容になっているのです。

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内容はロンドンのクラブシーン情報やマップ、ポール・マーフィーやジャズ・ディフェクターズへのインタビュー、映画『ビギナーズ』紹介や監督ジュリアン・テンプルのインタビューなど盛りだくさん。中古屋で買う時はこのデケえライナーがちゃんとついてるか確認してください。映画がコケなければこのコンピがもっと続いたりしたんでしょうかね……。

1986-07-23 V.A.『SOHO BLUE ブルーノート・クラブへようこそ』(BNJ-71106

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1981年に活動を一旦停止、1985年に再開した超有名ジャズレーベル=ブルーノートの音源を、ロンドンのクラブシーンの視点から選曲したコンピ盤。選曲担当はニール・スペンサーとポール・ブラッドショウ。ニールは『NME』のジャズコンピのスタッフの一人であり、実質『ストレート・ノー・チェイサー』の続編といえる内容です。タイトルにソーホーとついているのは『ビギナーズ』の舞台がソーホーだからですね。日本語ライナーノーツは花房浩一(執筆日は1986-06-01)。この作品はあとでもう一度触れます。

本編:コンピCDの時代

1986年の盛り上がり予定がいまいち盛り上がらなかったことで、一度国内シーンは沈静化します。再び盛り上がるのは「アシッドジャズ」が登場する1988年でした。アシッドハウスが盛り上がる中、注目されるためにつけられた「アシッドジャズ」という名称は大当たり。誰もが「アシッドジャズってなんだ?」と気にし始めるのでした。

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