「地下アイドル」という言葉はいつどのように使われはじめたのか

先日、地下アイドル兼ライターの姫乃たまさんに仕事で会う機会を得て、事前に「地下アイドル」について少しでも調べておこうと、資料になりそうなものをいくつか読んでみた。どうやら「インディーズアイドル」「ライブアイドル」と同じもののように思えた。しかしアイドルに疎いワタシにそう見えてしまうだけで、アイドルファンはなんとなく使い分けてるのではないかな、という気もした。これはとりあえず調べたその記録である。あ、もちろん姫乃さんの『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』(2015年9月22日発行/サイゾー)は先に読んだ。

■「地下アイドル 定義」で検索

とりあえずふつうに「地下アイドル 定義」で検索していたら、下記のような記事が見つかった。

明確な定義はないが、地下アイドルとは地上波テレビなどの出演はほとんどなく、ライブ中心に活動しているアイドルのこと。テレビの歌番組が減った1990年代以降、登場した。地下のライブハウスが会場になることが多かったことに由来するとされる。「ライブアイドル」と言い換えられることもあるが、好んで地下アイドルと呼ぶファンは多い。AKBも当初は地下アイドルとみなされていた。
(『毎日新聞』2013年9月17日東京夕刊2ページ「特集ワイド:「あまちゃん」でも話題、ブレーク夢見てライブ “地下アイドル”の現場を歩く」)

テレビで活躍するのがアイドル、という前提がまず存在し、1990年代以降に歌番組が減ったことで、アイドルの多くがテレビに出演する道筋がなくなる。そこでライブハウス(多くは騒音問題で地下にある)に活動の主軸を移すようになった。そこから生まれた呼称が「地下アイドル」、ということのようだ。本当だろうか。とりあえずもう少し探していこう。

おニャン子クラブの終焉後、「アイドル冬の時代」と言われていた1990年代。歌って踊るアイドルがメジャーレーベルからデビューするのが難しい状況下で、小さなライブハウス中心の活動を余儀なくされたインディーズ系アイドルたちが「地下アイドル」と呼ばれた。当時、こうしたアイドルのライブがよく行われていた四ツ谷Live inn MAGICなどが地下にあったこともその由来となっている。/水野あおい、森下純菜、制服向上委員会が当時の代表格。
(「ORICON STYLE」2015年1月12日記事「仮面女子の躍進でさらに活性化 “地下アイドル”シーンの成り立ちと現状」

こちらの記事も論調は似たようなものだが、〈四ツ谷Live inn MAGICなど〉と具体的な地名が登場した。ここは姫乃さんが出演しているライブハウスの一つだったと思うので名前は知っている。また1990年代の代表格とされるアイドルの名前も並んでいる。こちらも一応名前を知っている程度だけども、水野あおいさんは1990年代にフリフリの衣装を着て活動していた地下アイドルの先駆けで、桃井はるこ・田村ゆかりなどが影響を受けたという存在だ。「2ちゃんねる」の過去ログには、水野さんに対して「現場アイドル」(>>42)という言葉が出てくる。これはまさに「ライブアイドル」の前時代の言葉だろう。

それにしてもネットで検索すると、最近の記事は上位に出てくるが、昔のことは後ろの方に追いやられて、歴史を調べるのにはまったく向かない。ということで紙媒体に調査対象を移した。

■「地下アイドル」は2002年には使われていた

結論から言うと、見つかった範囲で古そうな例はこれである。『読売新聞』2002年6月22日東京夕刊のラ・テ欄、番組紹介コラム「[深夜番組たんけん隊]さまぁ~ずと優香の怪しいホール貸しちゃうのかよ!!」に下記のように書かれていた。

マニア向けだけに活動する「地下アイドル」とファンとの集いでは、アイドル手作りのおにぎりのオークション、ファンとアイドルが教師と生徒にふんする「三分間デート」など、普通の視聴者には入り込み難い世界が展開。
(『読売新聞』2002年6月22日東京夕刊「[深夜番組たんけん隊]さまぁ~ずと優香の怪しいホール貸しちゃうのかよ!!」)

「さまぁ~ずと優香の怪しいホール貸しちゃうのかよ!!(仮)」はテレビ朝日系の火曜深夜番組。この地下アイドルを取り上げた回が放送されたのは2002年5月28日である。収録自体は2002年4月9日の19時半より田町・CLUB326で無料開催された「中西未来 ファン感謝イベント・テレビ朝日公開収録」のもの。なんとこの番組の録画はYouTubeにアップロードされていた。

https://www.youtube.com/watch?v=kZU80fCU4C8

映像にははっきり「『地下アイドル』中西未来 怪しい(秘)ファンの集い(3分間デート)」と書かれている。2002年からもう「地下アイドル」は使われているのか……とその歴史に驚くばかり。番組は好評だったようで、7月30日にも同番組内で「地下アイドル(秘)新人発掘」が放送されたようだ。ちなみに、先程の水野あおいさんと、この中西未来さんは、どちらもアルテミスという事務所に所属していた。アルテミスの社長がキーマンなのかもしれない。

先程の「マニア向けだけに活動する」という引用箇所を読む限り、ライブハウスが地下にあるから「地下アイドル」というよりも、メジャーには浮上してこないマニアックな活動をしているから「地下アイドル」、という意味に近いように思える。いや、その両方を兼ねた言葉か。

しかし、ここが最初だと思うのはまだ早い。一方で下記のような情報もネットで見つかった。

「地下アイドル」だけど、2002年頃、「Drピカソ」が主催者、プレアイドルに無許可でOMPとドレミファ館を取材して、勝手に付けた名前である。第一OMPは地下じゃない!! これを知ったから、「プレアイドルファン/本人」にした。なので、この呼び名は絶対認めない。
(「し~るのホームページ」>「プレアイドルについて」

『Dr.ピカソ』は英知出版が『週刊プレイボーイ』を模して1995年に創刊した青年誌。2002年といえば先程の番組と同じ時期だ。もしかして番組スタッフは『Dr.ピカソ』を読んで地下アイドル企画を考えたのかもしれない、と思い、バックナンバーを国会図書館に読みに行こうとしたら、納本されてなかった! 残念。なので、いつか古本屋で見つけたら確かめる、ということにしよう。もし2001~2002年のバックナンバーをまとめて持ってる人がいたら貸してください。ということで語源探しは保留、ここまで。

*追記*

……と、記事を公開した途端、もっとルーツに近そうなものを教えていただいたので追記。アルテミス社長がかつてウェブ上で公開していた日記、2002年1月15日のものである。

年末にテレビの仕事が舞い込みました。といってもタレントが出演するというより、ドキュメント的なものなのです。テーマは「地下アイドル」。誰が言い出したのかはわかりませんが、アンダーグラウンドな響きのある言葉です。この言葉に着目したテレビ局からの取材依頼があったのです。「地下アイドルを取材したい」ということだったのです。
(2002年1月15日「のま社長のコラム 風に吹かれて」

テレビ局に言われて初めてこの言葉に向き合った、という態度が見えるので、社長が作ったわけではないようだけども、話がここに来るというのは、アルテミス周辺の活動に対して言われていた言葉だからではないかと推測できる。また、定義についても触れられている。

「 地下」とは彼女たちの歌っている場所、すなわちライブハウスや小ホールを指します。地下にあるライブハウスが多いから、というのもありますし、地上波に対して「地下メディア」という意味合いも兼ねているのでしょう。つまり、「地下アイドル」とはテレビでは歌わない、歌うことができない、でもライブハウスなどで歌っている女の子たちを総称する表現、ということができます。
(2002年1月15日「のま社長のコラム 風に吹かれて」

「地下アイドル」略せば「チカドル」ということですが、今までの○○ドルという言葉とは決定的に違う点があります。
 それは歌が本業である、という点です。
 今、グループやユニットでなく、歌を本業にしている、10代の女の子はいるでしょうか。
(2002年1月19日「のま社長のコラム 風に吹かれて」

「地上波に対する地下」という視点は、テレビ中心の文化で考えないと忘れてしまうものだ。また、「グループやユニットでなく、歌を本業にしている」という箇所は、ソロで活動する10代の女の子が地下アイドルである、と限定する認識が見られる。これはグループアイドルが全盛の現在とは時代背景の違いが見える。

とりあえず、この「地下アイドル」をテーマにした番組は、TBSが2002年2月6日に放映した「オフレコ」のようだ。今度テレビ欄を確認してみよう。

■2004年頃の「地下アイドル」観

さて、「地下アイドル」が2002年に登場していたのは事実だが、たまたまかもしれないので、他にもいくつか調べてみた。インディーズ音楽誌『AQUADIUM』16号(2004年8月20日発行)には「インディーズ辞書」という単語解説記事がある。そこに「地下アイドル」という、ズバリな項目がある。解説は下記のように書かれていた。

ちかあいどる【地下アイドル】
テレビや雑誌のグラビアなどにはほとんど登場せずに、ライブハウスでのイベント活動を主とするアイドル。会場では自主製作のCDが販売される。
(2004年8月20日発行『AQUADIUM』16号・25ページ「インディーズ辞書」)

これはもう、そのものではないか? 2016年に書かれた解説といって見せられても違和感がない。2004年には定義含めて言葉が存在していた、ということが確認できた。

■それ以降の「地下アイドル」

これ以降はきりがないのだが、ライターの土佐有明さんがかつて発行した、自身の原稿をまとめた『土佐有明Works 1999~2008』にも「地下アイドル」の単語が確認できた。もとは『サイゾー』2007年7月号に掲載された「NHKはオタクにやさしい?」というテキストのようだ。

NHKは番組でオタクを取りあげるにあたり、事前にかなり周到なリサーチを行っている。例えば、『一期一会』ではスタッフが地下アイドルのイベントに足繁く通い詰め、その中で出会ったオタクと対話を重ねるうちに、出演交渉に至ったという。
(2008年発行・『土佐有明Works 1999~2008』・5ページ「NHKはオタクにやさしい?」)

これはNHK教育番組「一期一会 キミにききたい!」の2007年5月12日に放映された回のこと。番組中に「地下アイドル」という言葉が出てきたかは定かではない。映像は2007年3月18日「いわきみゆ☆プレゼンツ~花見の会~」(六本木 9th Chord)での収録

このように徐々に使われ始めて、2010年代に「地下アイドル」が一般化したのはご存知のとおりである。

■「ライブアイドル」はいつ頃からなんだろうか

ところで「ライブアイドル」というのはいつから使われているのだろうか。軽く探してみると、SNS「mixi」に「★☆ライブアイドル☆★」というコミュニティができたのが2008年12月18日。説明書きには「ライブアイドル(地下アイドル・プレアイドル・インディーズアイドル)」とあり、いずれも同じものとして扱われているのがわかる。この頃に生まれた言葉なんだろうか?

また、「mixi」の「地下アイドル・プレアイドル」コミュニティに、下記のような投稿が見つかった。

テレビ大阪のアイドルスナイパーという番組を担当しているスタッフの者です。
失礼いたします。
ちなみに当番組はライブアイドル(地下アイドル)をフューチャーした番組です。
(2010年3月13日・TV番組アンケート調査「ダンスが激しいライブアイドル」

見たことはないが、「アイドルスナイパー」は2009年4月に放映開始されたテレビ大阪の番組らしい。毎回アイドルのライブをオンエアしていたようだ。アイドルはライブをするもの、という考え方が、2010年には定着していたのかもしれない。もう覚えていない。

雑誌を探すと、『日経エンタテインメント!』2014年7月号の「女子アイドル夏の陣」特集に、下記のようなコラムがあった。

独立系事務所の所属や、メジャーデビュー前のグループは、ライブハウスなどでのかつどうが中心になるため、2~3年前から「ライブアイドル」との呼び名が定着している。
(『日経エンタテインメント!』2014年7月号・p100「キーワード6 躍進する「ライブアイドル」」)

『日経エンタテインメント!』という大衆文化調査雑誌がこう書くのだから、2010年代初頭に広まった、と考えてよさそうだ。

*追記*
良さそうだ、と書いたら「前から使われてまっせ」と教えていただきました制服向上委員会の1994年のビデオ作品『ライブアイドルNo.1』があると。タイトルがそのまんま! 言葉自体はこんな古くからあったのだった。当時、この名称でイベントもやっていたとか。ライブアイドルを名乗れるほどライブをしてないアイドルが多かったからこその自称だろうか。制服向上委員会関連の記事を探せば背景事情が見つかるかもしれない。

■「プレアイドル」はいつ頃からなんだろうか

「プレアイドル」は地下アイドルを調べていて初めて聞いた言葉だった。しかし言葉自体はずいぶん昔からあるらしい。先程も引用した「し~るのホームページ」内コラム「プレアイドルについて」には、1995年の例が書かれている。

プレアイドル名が出たのは、1995年11月12日 六本木POLIPE プレアイドル大集合というイベント(ビデオ所持)があるので、その付近だと思う。
(「し~るのホームページ」>「プレアイドルについて」

自分の手元にある紙媒体では、『音楽誌が書かないJポップ批評2』に唯一記述が見つかった程度だ。

“プレアイドル(マスメディアに頼らず、独自の活動をする女の子の総称)”
(1999年7月16日発行・『別冊宝島450 音楽誌が書かないJポップ批評2』p134「「伝統芸能」としてのアイドル歌謡」(取材・文=宝泉薫))

「プレ」とは「~より前、以前」を意味する接頭語だから、アイドル以前アイドル未満という意味になるだろう。やはりこれはテレビの歌番組やマスメディアに登場するのがアイドル、という定義がまだ有効な時代に作られた、テレビに出れずにライブハウスで活動するアイドルを意味する言葉のようだ。

■「インディーズアイドル」はいつ頃からなんだろうか

ここまで調べたから、もはや必要ないけどついでに調べてみた。実は「インディーズアイドル」は、さきほど引用した『AQUADIUM』16号の「インディーズ辞書」にちょっと出てきていたのだ。「宍戸留美」の項目である。

ししどるみ【宍戸留美】
八十九年『ロッテCMアイドルは君だ』でグランプリを獲得し、芸能界デビュー。その後、歌やテレビを中心に活動するが、九十二年に所属事務所を離れ、フリーのアイドルとなる。元祖インディーズ・アイドル。現在もフリーとして活動中。
(2004年8月20日発行『AQUADIUM』16号・25ページ「インディーズ辞書」)

元祖インディーズ・アイドルが宍戸留美さんなのか。ということは、宍戸留美さん関連の記事を探せばどこかで見つかるのだろう……と探し出したが甘かった! まったく見つからない。1993年に「ホームレス・アイドル」(所属事務所がないことを指して)、1998年に宍戸さんを「裏アイドル」と呼んでいる記事などはあったが、「インディーズ・アイドル」と言われている記事が見つからない。また、事務所を辞めた時に「フリーアイドル」宣言をしたそうだが、当時の宣言自体は未確認である。

また新聞に頼ると、2001年に『読売新聞』で使われていたのが確認できた。カントリー娘。の紹介記事である。

花畑牧場を経営するタレント・田中義剛さんのプロデュースで、一九九九年四月に結成。途中、メンバーが交通事故で死亡するなどのアクシデントがあったが、不運も乗り越え、北海道限定のインディーズアイドルとして、シングル四枚を発表してきた。
(『読売新聞』2001年4月25日東京朝刊・34ページ「「カントリー娘。」念願のメジャーデビュー 初登場でオリコン4位に=北海道」)

これを読んで、たしかに「メジャーデビュー」という言葉が一際輝いていた時代があった気がした。今はメジャーが弱体化してしまい、形骸化している感があるのだけども。初出はわからないが、「メジャーデビュー」を際だたせるための用語として「インディーズ」が使われ、そこで活動していたアイドルにつけられたのだろうと思う。

■終わりに

まとめると、1990年代に入ってアイドルが出演できるような番組が減り、ライブハウスに活動の場を移すようになった。この時、彼女たちは「マスメディアで活動するのがアイドル」という条件を満たしていない存在と見なされ、1995年には「プレアイドル」と呼ばれるようになる(あるいは自称)。

やがてアイドル未満のアイドルを楽しむ人々の文化圏の中で活動するアイドルが少しずつ増えていき、その内容は先鋭化・マニア化していく。そのマニアックさが「地下アイドル」という呼称が生まれる土壌を作ったと思われる。

そして近年は、マスメディアに登場することよりも、ライブハウス(および路上、店頭)で活動すること自体が当たり前であるアイドルが登場しはじめ、彼女たちは「ライブアイドル」となっていった。「地下」ではなく「ライブ」に重点が置かれるようになった、という意味である。

言葉としては「地下アイドル」は2002年頃には少なくとも使われ始めていた。その前に「プレアイドル」があり、その後に「ライブアイドル」があった。「インディーズアイドル」はどこで生まれたのかわからない。というところではないだろうか。「いや、あそこで使われていたぞ」というのがあればお知らせいただければと思う。

■おまけ:アイドル冬の時代

さて、「地下アイドル」とは直接関係ない話題をついでに載せておく。「地下アイドル」という言葉が生まれる下地となった1990年代を表す「アイドル冬の時代」という言葉、アイドル評論でよく見かけるけども、いつから使わだした言葉が知っているだろうか。ワタシが知る限りの情報を駆使して調べた初出は下記のようなものである。

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