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【開催報告】第三回「スマートシティの最前線で、何が起きているのか―競争から協調へ」

開催報告

メディアワークショップ:データとトラストの再設計を考える
第三回:スマートシティの最前線で、何が起きているのか―競争から協調へ
2020年10月28日@オンライン

登壇者(敬称略)

須賀千鶴(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長)
岡田康裕(加古川市長)
鈴木康友(浜松市長)
宮元陸(加賀市長)
山本龍(前橋市長)
若江雅子(読売新聞編集委員)
平山雄太(G20 Global Smart Cities Alliance事務局)


G20 Global Smart Cities Alliance (GSCA)

スマートシティ、という言葉があちこちで聞かれるようになりました。デジタル時代の到来とともに地域のありかたを見つめ直そうと、世界中の街や町がその未来図を描こうとしています。盛り上がりをみせつつあるスマートシティにグローバルな協調の枠組みが必要であることが提唱され、2019年の日本が議長国を務めたG20サミットにてG20 Global Smart Cities Alliance(GSCA)が設立されました。事務局となった世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは、スマートシティ5原則を策定し、世界の加盟都市とともに学び合いながら、持続可能な地域社会の構築を支援しています。

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今回のメディアワークショップでは、GSCAに加盟する加古川市、加賀市、浜松市、前橋市の4都市の市長とともに、現状の取り組みや課題が議論されました。また同4都市がGSCAパイロット都市としてスマートシティ5原則につき世界へ情報発信していくための基本合意書の調印も行われました。

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「住民との合意形成」をいかに実現するか

パネルディスカッションでもっとも大きな議論となったのは、「住民との合意形成をいかに実現するか」という点でした。マイナンバーカード申請率62%を超えた加賀市は、人間ドック申請など個人認証アプリを使った電子申請や、電子生涯手帳などに積極的に取り組んでいます。主要な市民団体、企業などを網羅した官民連携協議会との協議を重ねる宮元市長は「合意形成は一気にできるものではない」前置きした上で、「人口減を背景に、加賀市も消滅可能都市のひとつとしてリストにはいっている。存続を賭けた喫緊の取り込みとして、『こんな素晴らしい自治体に生まれ変わる』という住民にとっての利便性を、徹底的かつ継続的に説明する力が自治体側に必要だ」と指摘しました。

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何度もタウンミーティングを行い、約1500台の「見守りカメラ」を導入して住民からその成果を高く評価されている加古川市の岡田市長からは、Decidimという市民参加型パブリックコメントプラットフォームを利用し、市民の要望を市政に反映していくための取り組みが紹介されました。行政主導で市民の声を吸い上げるだけではなく、常に議論できる場を目指しているとしながらも、例えばDecidimへの参加や書き込みに実名とすべきかどうか(現在は匿名)といった悩みを共有されました。

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スマホをもたない人達をどのように巻き込んでいくか

オンライン診療解禁に伴う、医療過疎の中山間地域への医療MaaSの実証実験プロジェクトで注目される浜松市の鈴木市長からは、スマホを使えない高齢者のために看護師がサポート員としてMaaS車両に乗り込んでいるという事例も紹介されました。また欧州にみられるようなデジタル民生委員についての質問に対しては、考え方に賛同しつつ、簡易スマホの操作を身近な高齢者の方に教えた経験をもとに具体的な運用の難しさを指摘し、デジタルとアナログの両方を用意する方針が説明されました。

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高齢者のデジタルデバイドというこの課題については、宮元市長から音声認識技術やウェアラブル技術への期待がコメントされ、また岡田市長からは「近所づきあい、互助共助」といったアナログとの合わせ技あってのデジタルであるという見方も示されました。


行政に対するトラスト醸成と、徹底した透明性の確保

読売新聞の若江編集委員からは、マイナンバーカードの活用に関する住民の懸念を代弁する形で「いろいろな情報を全部統合してしまうことの危険性」および「マイナンバーカードありきのサービス」について各市長に疑問が投げかけられました。

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対して、マイナンバーカードの個人認証、スマートフォン、顔認証を組み合わせた「まえばしID」を創設し、医療や教育などデータと銀行口座や交通などの民間データとの連携を目指す前橋市の山本市長は、セキュリティやプライバシーを抽象論で議論すると落とし所がみえなくなるとコメントしつつ、新しい公共財に対する認知を広げる重要性を指摘。さらにそうした認知や認識が受け入れられるかは「究極的に市役所や市長へのトラスト(信頼)があるかどうかだ」と発言し、市民の不安を払拭するような関係構築が最重要課題のひとつだと述べました。

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若江編集委員は「信頼を得るには、細かな努力の積み重ねだ」とし、一般市民が委員として参加している、検討会議が傍聴できる体制になっている、議事録がウェブで公開されているなどの「徹底した透明性の確保」がプライバシーに対する不安の払拭と市民との関係構築に対する答えになるという考え方を示しました。若江編集委員の「プライバシーや個人の権利の保護とイノベーションは必ずしも対立しない」というコメントに対し、各市長からは個人の権利やプライバシーを守るための技術進化にも注目しているという発言が相次ぎました。


メディアの皆さんとともに社会的な合意形成を

ワークショップのモデレーターを務めた須賀センター長は「スマートシティを巡る議論とは、まさに市民の目線で『これからの公共財』を考えていくこと。いまはまだ新しい社会に向けて市民の声を聞き、集約していくことに試行錯誤しているが、住民合意とは自治体だけではなく、メディアの皆さんとともに考え、議論していく必要がある領域である。大きな分岐点にたつ今、これから私たちがどういった社会をつくっていきたいのか、本日参加いただいたメディアの皆さんにも引き続き積極的に議論に参加してほしい」との呼びかけがありました。

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執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
ティルグナー順子
大原有貴(インターン)

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