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CEATEC見聞録(後編):データ活用にみる未来の姿

アジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会「CEATEC(シーテック)」。世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターのフェロー(外務省)の太田代身生さんに「CEATEC見聞録」を寄稿いただきました。なお、この記事は執筆者個人の見解であり、所属団体の公式的な見解を示すものではない旨、ご承知おきください。

前編はこちら↓

デジタル新参者、CEATEC2022へ

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター(C4IRJ)フェローを拝命したことを契機に、IoT、ビッグデータ、AIによる技術革新による「第4次産業革命」が、サイバーとフィジカルの融合により人間中心の「ソサイエティ5.0」のためになる、とはどういうことか、我が事として考え始めました。

【用語解説】
ソサイエティ5.0
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く社会。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立することができる人間中心の社会

第4次産業革命
18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続く産業革命。IoT、ビッグデータ、AIによる技術革新による産業革命。2016年1月、ダボス会議において定義や進め方などが議論された。

第四次産業革命についてはこちらを参照ください。

そんな折、幕張メッセで開催されたCEATEC2022に足を運び、様々なブースを訪れ、見たり触ったり、お話を伺ったりする機会に恵まれました。

CEATEC」は2000年に始まりましたが、その前には「エレクトロニクスショー」(1964年~1999年) や「COM JAPAN」(1997年~1999年)が開催されており、さらに「テレビラジオパーツショー」(1958年〜1961年)にまで遡ることができます。テレビラジオパーツショーという名前は郷愁を感じさせますが、64年もの間、綿々と続くテック・ショーの歴史に敬意を表したいです。

データがこんな役割も果たしているなんて!

550社以上が出展する中、混み具合も勘案しつつ、15,000歩ほど歩いて、いくつかのブースで、お話を聞いたり、実際に動かしてみたりさせていただきました(シロウトならではの、分野も規模も全くランダムな回遊です…)。官公庁関係者ということで、ビジネスに直接つながらないことが分かっても、気持ちよく対応してくださったご担当者様には、この場をお借りして御礼を申し上げます。電子部品や電子デバイス、ソフトウェア、ソリューションなど多岐にわたる企業が展開する中、センサーや部品も含め、全て、データがどこかに接続されている、という点で、遅ればせながら、人やモノがつながるIoT(Internet of Things)について、あらためて実感しました。これらの膨大なデータの活用が、私たちのリアルライフでの幸福追求のための強力なツールとなること(第4次産業革命がソサイエティ5.0を実現する)と腑落ちする体験となりました。

出展企業から学んだこと


(1)Victor:ウッドコーンオーディオ限定モデル
まずはVictorウッドコーンシステムコンポ。伺ったところ、生演奏かと勘違いして人が集まってくるほどの音質で、私も会場に到着早々吸い寄せられてしまいました。「スピーカーは楽器でありたい」との想いと、木の音響特性を持つ振動板のアナログの素晴らしさの一方、Bluetooth®もつながる点でデジタルです。

技術とぬくもり

(2)エイコム株式会社
顔認識技術を利用したマーケティング業務やデジタルサイネージ関連業務のデモを拝見。まずは、「顔認識」(face recognition)と「顔認証」(face authentication)の違いについて教えていただきました。人を自動識別するコンピュータ用アプリケーションという点で同じであるものの、「顔認識」が、「性別」「年齢」「気分」などを識別することにとどまるのに対し、「顔認証」は、データベースに登録されている顔データと「照合」し合致させる点で異なるそうです。個人情報保護の観点からも重要な区別と思いました。マスク着用でも「気分」を判定できる点、お手頃な価格設定が強みだそうです。データ集計はクラウドーサービスで閲覧するなどシステム連携も可能の由。なお、デモでは私の年齢を20歳以上若く認証していたので、気分良く、ブースを後にしました。

顔認証については、下記の記事もご参考まで。


(3)産業技術総合研究所(AIST):
ナノシートトランジスタ
産総研の工学博士に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とともにAISTが、次世代ナノシートトランジスタの試作可能なラインを構築する壮大な事業について伺いました。ポスト5G世代において、超低消費電力で信号処理を行う先端ロジック半導体の性能向上を目指すプロジェクトで、東京エレクトロン、SCREENセミコンダクターソリューションズ、キヤノンも参加しています。半導体サプライチェーンの強靱化の必要性がこれまでになく高まる中、一朝一夕では解決できない課題に、産官学で取り組んでおられました。

(4)三菱電機:インフラモニタリングシステム(MMSD®)
世界にまだ2台しかないという三菱インフラモニタリングシステムのトラックについて、詳しくお話を伺いました。このトラックは、計測車両(高密度三次元レーザーや8Kラインカメラを搭載)が走行しながら高精度データを入手し、社会インフラ等の点検の自動化・省力化・高度化を実現するものです。暗いトンネルの中の微細なヒビを、遠く離れたオフィスから確認できることの効率性の劇的な改善に驚きました。

世界に二台しかないトラック


(5)
ロボセンサー技研:超センサー
ロボセンサー技研のブースでは、「モノが触れた感覚」を計測するセンサーを体験しました。手や指の動きの軌跡はデータ取得が可能ですが、指先の触感データについてはかなり難しい計測となるため、これまで職人の感覚に頼っていた分野でもあります。刃物やベアリング等の寿命や劣化による加工時の微少な振動の変化も検知できるため、様々なセンシング技術やロボット制御技術との協働など様々な分野での応用が期待されます。技術にも驚きましたが、伺ったところ、お父様が定年退職後に立ち上げた会社に、早大相撲部のご子息がインターンをされている由。最先端技術開発とファミリービジネス、にも驚きました。

スタートアップとファミリービジネス


(6)電力中央研究所(CRIEPI):Futte Me
電力中央研究所、東京理科大学、MBS毎日放送、れ組が共同で研究開発した新しいエンターテイメント「Futte Me」を紹介するステージに釘付けです。IoT技術で培った振動発電技術、人工知能による解析技術を融合し、人間の動作から、音楽の再生速度、映像を制御することができるものです。耳と運動機能の両方が刺激される大変興味深いツールでした。私もステージで体験させていただき、大変興奮しました。

Futte Meの実演



終わりに~データガバナンスの重要性


以上、ご紹介できたのは一部のブースでしたが、実際に開発に関わっている方々の情熱に間近で接することができたことは大きな成果でした。製品が市場にでるまで、そして市場に出てから、どのように展開していくのか…大変楽しみです。皆様のご発展を心より祈念いたします。

今回、ご紹介した企業は、データのライフサイクル(生成・取得・移転)のいずれかの段階を問わず、データを最大限活用しておられます。私がフェローを務めている世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター(C4IR Japan)のデータガバナンス・チームでは、現在、①国境を越えた自由なデータ流通(DFFT)、②個人・企業・都市間の自由なデータ取引市場、③規制・ルールのアップデートによる信頼の再設計という3つの柱に取り組んでいます。五感では掴みづらいデータですが、私たちの社会をよりよくしていく鍵のひとつであることは間違いありません。データガバナンスという重要テーマを進めていくことの重要性を実感した次第でした。


執筆:太田代身生(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター フェロー/外務省)


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