EV三輪車の試乗:足回り編

私はEV三輪車を購入しようとしている。ここで言う三輪車とは側車付軽二輪のことである。
実際に購入するEV三輪車「EV BOSCO」に乗ってみた感想を前回は書いた。今回はその続編で、実車を目の前にして行ったメカニカルな部分のやり取りをお伝えする。なお、意外とこのメカニカルな部分はボリュームがあるので、今回はその中でも足回りに限ってお送りしたい。

EV三輪車の基本的なこと

私の購入するEV BOSCOという名前のEV三輪車は、たまたまアペ(ベスパカー)の隣に置かれていた。アペには運転席にドアがついているのだが、EV BOSCOにはドアがない。
「ドアを付けられませんか?」と私は尋ねてみたのだが、「ドアを付けたらミニカーになってしまう」とのこと。日本の法律では、三輪車は高速を走れるけれど、原付バイクと大差のないミニカーでは無理である。高速道路ではなく陸橋も、自動車専用のマークがある場合は三輪車なら通れるがミニカーは禁止されている。それは私の生活に馴染まない。
ついでにミニカーは1人乗りである。ドアは断念することにした。

EV BOSCOのシャコ上げは無意味

色々と考えて私はピックアップトラックのようなタイプのEV BOSCOを購入するのだが、これをオフロード仕様に仕上げようと目論んでいる。そのオフロード化の方法の1つとして、車体を上げる「シャコ上げ」ということを考えていた。シャコ上げすることで、水たまりの上を走ってしまった際などに電気系統を多少は水から守れるのではないか、というのが主たる理由である。
他の三輪車はどうかはともかく、EV BOSCOに関して言うと、シャコ上げは意味がないとのこと。というのもEV BOSCOの場合、後輪のタイヤの軸にあたる部分(シャフト)にモーターが乗っているため、シャコ上げしたところでモーターの位置は高くならない。
今、この原稿を書きながら落ち着いて振り返って考えると、「モーターの作った動力をどのようにタイヤに伝えるか」を考えると、シャフトにダイレクトにモーターが乗ったほうが動力のロスが少ない。ちょっと考えれば当たり前のことかもしれないけど、私のような素人にはそこらへんがわかっていないでポンポン質問している。そういう質問の1個1個にガレージ・ボスコさんは丁寧に応じてくれる。

EV BOSCOのタイヤはパワー重視

シャコ上げが無意味でも、通常よりも大きなタイヤを付けるインチアップは可能であろう。インチアップすることによって、ほんの1, 2cmとはいえモーターやバッテリーの位置を高くすることが期待できる。
デフォルトの状態のEV BOSCOは、10インチのタイヤを履いている。参考までに、ジムニーのタイヤは16インチで、オデッセイだとモデルにもよるが18インチくらいだ。一般的な自動車で都合の良い車種を思いつかなくて申し訳ない(それくらい私は車音痴である)が、タイヤのサイズのイメージが多少はつくだろうか。私の購入するEV BOSCOには、実にコンパクトなタイヤがついているのだ。
そんなコンパクトなタイヤの側面に見えるメーカー名が、全く聞いたことのないメーカーだった。タイヤの溝のパターンも何だか独特である。それで私は「これはどんなタイヤですか?」と尋ねてみた。
するとガレージ・ボスコの担当さんがじっくりとタイヤを見た上で、「ラジアルタイヤでもバイアスタイヤでもない、現地のタイヤを履いている」とのこと。その表情は何となく「言われてみれば面白いタイヤを履いているなぁ」と言いたげな表情をしていた。

私はそんなに車に詳しくないため、後でこっそり「ラジアルタイヤとは」なんてグーグル先生に尋ねていたりするのだが、ともかく、デフォルトのEV BOSCOが、かなり特殊なタイヤを履いているのは間違いない。
ここで、ざっくりとラジアルタイヤとバイアスタイヤを説明しておく。ゴム風船に空気を入れて膨らませると丸く膨らむように、ゴムでできたタイヤに空気を入れると、そのままではまるで浮き輪のように膨らむ。しかし実際のタイヤは路面に接する部分が路面に接していない状態でも平らな形を保っている。タイヤの形状は浮き輪ではなく、バウムクーヘンみたいな形状を保っていると言えば伝わりやすいだろうか。そのようなタイヤの形状を作るために、タイヤの構造として枠のようなものが存在するのだが、その枠にあたる部分の作り方の違いでラジアルタイヤやバイアスタイヤといったタイヤの種類が生まれる。
なお、現在の日本で普通に走っている車のタイヤは、まず99%がラジアルタイヤであると思ってよい。ラジアルタイヤは走行性が良い。それに対して、極々まれに日本でもバイアスタイヤが用いられることがあるのだが、その用途は主にトラクターである。バイアスタイヤは耐荷重量に優れている。

さて、EV BOSCOにはラジアルタイヤでもバイアスタイヤでもない、謎のタイヤが使われている。このタイヤは、ガレージ・ボスコの担当さん曰く、バイアスタイヤよりも更にもっと強い現地のタイヤを履いているとのこと。
某メーカーの物置のコマーシャルに「100人乗っても大丈夫」と物置にみんなで乗っているのがある。そんな感じに大量の人が一度に乗ることもありうることから、トゥクトゥクやリキシャーといった三輪車は見た目によらず極めて頑丈に作られている。それはタイヤも同じことである。

EV BOSCOのタイヤ交換はパーツ次第

いくら私がこのEV BOSCOを改造してソーラーパネルを積んで走ろうとしているからといっても、日本で走る分には、このタイヤはオーバースペックだろう。バイアスタイヤか、ラジアルタイヤに履き替えて使いたい。ひょっとしたらラジアルタイヤに履き替えるだけで、グンと最高速度が上がるかもしれない。
タイヤ交換といえば、スタッドレスタイヤのことも確認しておきたい。冬場、地域によってはチェーンやスパイクタイヤではなく、スタッドレスタイヤの着用を義務付けられていることがある。
ガレージ・ボスコの担当さんによると、10インチという小さいタイヤということもあって、スタッドレスタイヤは「農業用のを使っている人がいる」とのこと。

もしインチアップするなら、10インチをやめて12インチになるのだが、ガレージ・ボスコの担当さん曰く「EV BOSCOのインチアップはやったことがないので、できるか不明」とのこと。「仮にタイヤは取り付けられたとしても、どこで干渉するかわからない」という。
逆にやってみて「このタイヤで上手くいった」という報告が欲しいとも言われる。そう、まだ売り出されてから1年ほど、それも小さな町工場のようなガレージが作るものだから乗っている人が少ない。それでガレージ・ボスコさんとしても色々と試行錯誤中なのだ。

正直に言うと、私はタイヤに関して少しナメてかかっていたかもしれない。インチアップも含めて「まぁガレージ・ボスコさんに頼んで無理なら(ブリヂストン系列の)タイヤ館にお願いすればいいか」という程度に考えていた。しかし10インチと小ぶりなタイヤであることに加え、マイナーな車種である。ブリヂストン系列だろうとヨコハマタイヤだろうとダンロップだろうと、そういうタイヤを専門に取り扱っているお店にお願いすれば何とかなるだろうとタカをくくっていた。
しかし、どうもそう簡単な話ではなさそうだ。そもそも同じ系列のタイヤ専門店に相談するとしても、東京23区内の店舗に相談するよりは、ちょっと足を延ばして千葉や茨城あたりの畑が広がるエリアが商圏になってくる店舗に相談したほうが適格なアドバイスをもらえるだろう。
余談だが、これは何も千葉や茨城を見下して言っているのではない。私はバイクの免許は都内で取ったのだが自動車の免許は千葉市内にある教習所で取った。高速道路を教習車で走る実習の時に私は、助手席に座る教官に「追い抜いたほうが良いでしょうか?」と確認した上で、自分の前を走る見るからに農業用の軽トラを追い越した(!)ことがある。教習車に抜かれる軽トラという図は、なんともシュールである。あの時は単なる笑い話だったが、まさかその経験が今こうして役立つとは不思議なものである。京葉自動車教習所、オススメですよ。

EV BOSCOのスペアタイヤはどこに

車にスペアタイヤが積まれているように、三輪車もスペアタイヤを積んでおく必要がある(まぁ普通の車のように4本のタイヤを買うと自動で1本スペアタイヤが生まれるのだが)。
「スペアタイヤはどこにあるのですか?」と私が尋ねると、「どこに付けます?」と逆に訊かれた。
前回、サイドミラーを取り付けない状態で日本に輸入し、日本に到着してからサイドミラーの位置を決めて取り付けるという話をした。それと同じように、スペアタイヤも現地ではなく日本で取り付けるほうが思い通りの一台に仕上がる。

私の場合、ピックアップ(トラックみたいなモデル)である。一般的にトラックのスペアタイヤは荷台の下に取り付けられている。荷台の上に載っていることもある。
それに対して私は、荷台の後ろにスペアタイヤを取り付けてもらうことにする。そしてスペアタイヤの上にはスコップを取り付けられるようにする。完全にオフロード仕様である。
ちなみに軽自動車であれば規格一杯の寸法で作られることが多い。そのため一般的な軽トラの車長は3395mmである。それに対し三輪車は車長が短く、EV BOSCOのバンとピックアップの車長は2499mm、パッセンジャータイプに至っては2490mmしかない。一般的な軽トラよりも更に90cmほど車長が短いため、荷台の後ろにスペアタイヤを取り付けても駐車する時に困るようなこともない。
もちろん、荷台の後ろに、例えばスポーツタイプの自転車を乗せられるようなキャリーを付けてもかまわない。私はBirdy Classic (DB-1)という、ちょっと良い自転車に乗っていることもあって、EV BOSCOに自転車を乗せられるようにするというのは少し惹かれるところがある。でもスペアタイヤを取り付けておくほうが良いかな、と思う。というのも万が一、後続車がぶつかるようなことがあってもタイヤなら良いクッションになってくれるだろう。

まとめと次回予告

ガレージ・ボスコの提供するEV BOSCOは、そのままでも十分に実用的なEV三輪車なのだが、足回り1つとっても自分の用途や好みに合わせてカスタマイズのし甲斐がある、なかなか面白い車である。ガレージ・ボスコの担当さん曰く「大人の遊べるおもちゃ」とのことだが、たった1台のEV三輪車を注文するのに、これほど「ガレージさんと一緒に理想の1台を作っている」感じのする車は、そうそうないと思う。理想の1台を作るワクワク感は、出来合いの車を買う時には得られない楽しみである。
次回はいよいよEV車のキモである電気系統のカスタマイズに関して書きたい。

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