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創造プラットフォームの着想 パターン・ランゲージ2.0

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター共創場デザイン研究チーム主任研究員 江渡浩一郎さん

2020年6月15日(月)、産総研ラボ研究員で慶應義塾大学SFC特別招聘教授/メディアアーティストである江渡浩一郎さんのお話を伺うことができた。江渡さんについては『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』(慶應義塾大学出版、2013)を読んでから興味を持っていたので、とても楽しみにしていた。
お話の中で一貫していたテーマはある意味で予想通りで、「共創のデザイン」だったように思う。「コードの共創」「表現の共創」「物の共創」「共創イベント」「共創プラットフォーム」「共創型イノベーション」・・・話の中に出てきたフレーズはいずれも共創の仕組みづくりや場づくりの話だ。
江渡さんの共創デザインの話で興味深かったポイントは仕組みづくり(デザイン)の着想である。

Wikipediaニコニコ学会β(2016年解散)は集合知であるが、参加者(視聴者/閲覧者ではなく、創造に参加する人)はオープンであり、プロフェッショナルに限定しない。かといって、まったくの素人が参加できるわけでもない。プロと素人の中間くらいのクオリティが担保できている。(ちなみに、プロと素人の中間くらい、というのは必ずしもプロの創造するものよりも劣る、ということを意味しない。なぜなら素人にとってプロの創造するものが難しすぎて理解できないことが往々にしてあるからである。素人の視点が入っていることで、多くの人に理解しやすいものが出来上がるのである。)
トレードオフになりやすい参加のしやすさとクオリティを両立させている、絶妙なバランスの創造のプラットフォーム。この場づくりの着想の一つが、パターン・ランゲージである。

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パターン・ランゲージは建築や都市造りの分野で建築家のクリストファー・アレグザンダーが提唱した概念(『パターン・ランゲージー環境設計の手引き』)で、ソフトウェアや組織など非物理的なものから、そして学習やイノベーションなど人間行為の分野にまで応用されている。(人間行為の分野での活用については、慶應義塾大学の井庭崇氏が幅広く研究・実践を進めている。)
簡単にいうと、建築や都市においてこれまでの経験則から導き出された空間の「いきいきとして美しい質」を生み出すためのパターンだ。
パターン・ランゲージは、いわゆるマニュアルではなく、抽象度の高い概念であり、使う方にもかなりの工夫が必要とされる。例えばアレクザンダーは「地域」に関して、次のようなパターンがある。
1・自立地域(independent regions)
2・町の分布(the distribution of towns) 
3・フィンガー状の都市と田園(city country fingers) 
4・農業渓谷(agricultural valleys) 
5・レース状の田園道路(lace of country streets) 
6・田舎町(country towns) 
7・田園(the countryside)
どうだろうか。このレベル感で、具体的に「こうすればいいんだ!」とピンとくるだろうか。少なくとも私はそうは思えなかった。パターン・ランゲージにはこうしたレベル感のパターンが、「地域」や「建物」などについて253個ある。

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私にとってパターン・ランゲージは思考、そして創造のきっかけやヒントを与えてくれるものである。例えば地域づくりで、専門家ではない自分がどこから取り掛かったら良いのか分からない状況にあったら「とりあえず、フィンガー状の都市と田園やレース状の田園道路ができるか考えてみようか」というような感じである。253全てのパターンを使い切る必要はなく、諸条件や好みで、取捨選択して構わない。ただ、一つ一つのパターンには、これまでの経験則から「いきいきとして美しい質」が内在されているので、このパターンを活用することで、ゼロから何かを生み出すよりはるかに創造行為が容易になる。そして容易にはなるが、個々の状況に応じた形で実践していくために、自分自身のクリエイティビティも必要になる。パターン・ランゲージは、マニュアルではなく創り方をサポートする思考のツールと言える。
このパターン・ランゲージが持つ「創造行為をサポートする機能」のようなものが江渡さんの共創デザインの肝だ。単にプラットフォームを用意しただけでは、素人は参加できない。彼ら・彼女らが参加するためには、ガイドが必要なのだ。ただ、それが具体的過ぎると、参加者がクリエイティビティを発揮する余地を奪ってしまうため、バランスが重要になってくる。

パターン・ランゲージについてもう一つ重要なことがある。私は253のパターン・ランゲージを見たときに「こんなにあるのか」という思いと同時に「本当にこれで全てなのか?」という思いも抱いた。
パターン・ランゲージは社会の漸進的成長を助ける機会でありツールであると同時にパターン・ランゲージ自体もアップデートしていくものである。共創のプラットフォームも同様に、常に同じ形に止まらず、アップデートしていかなくてはいけないだろう。

さて、江渡さんの話を聞いて、共創を促進するためにもう一つ重要な「共通善」という考え方があった。共創関係を作るためには、高いレベルの「共通善」が求められる。共通善は参加者のモチベーションに直結する。これはオープンイノベーションであろうと、協同プロジェクトであると同じである。どんなにUIが優れていても「創造行為をサポートする機能」だけでは、参加の障壁を下げることはできても、動機付けができない。実はパターン・ランゲージよりもこの点に非常に興味があるのだが、長くなるのでまた別の機会で述べたい。

最後に、江渡さんの創造プラットフォームのデザインを、さらに一歩引いてみると、次のことが言える。これからの社会で人々を巻き込んだり動かしたりする仕組みを作るためには、領域横断的なアプローチが必要、ということである。ご本人の関心も情報技術、アート、経営学と幅広く精通しており、その全ての知見が仕事に活用されている。パターン・ランゲージも、もともとは建築分野で発祥した概念であることを考えれば、当然なのだが。

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