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「若白髪はお金持ちになれる」とかいう謎理論について

白髪に悩まされるのは一般的に歳を取ってからだ。しかし、僕はそれを数十年早く経験した。小・中学生のとき、既に白髪に悩まされる日々を送ったのだ。自分に若白髪があることに気が付いたのは小学3年生くらいのときである。

「ナツキって白髪あるよね、若白髪はお金持ちになれるらしいし羨ましい」

昼休み、校庭でドッジボールをし、教室へ戻る道中の廊下で友人が突然言ってきた。彼の表情や話し方の素振りを見るからに、皮肉的な表現ではなく心の底から「白髪が羨ましい」といった感情が読み取れた。まあ、彼が一風変わった人間で、「マイノリティーこそカッコいい!」みたいな価値観の持ち主だったから、おそらく本当に白髪が羨ましかったのだろう。

あ、オレ白髪生えてるんだ。

僕の白髪は後頭部を中心に生えていたから、自分の髪色は全て黒であると思い込んでいたし、髪色について別に気にしたことすらなかった。

他の児童は皆髪色が黒いのに、僕だけ白髪交じり。僕の白髪の第一発見者である彼みたいな価値観を持つことができればこの問題はプラスに作用するが、いかんせん当時の僕はそんな価値観を持ち合わせていなかった。

みんなと違う。嫌。

それに、白髪は老いの象徴である。弱冠小学生で白髪交じりとは、何事かと不安に苛まれた。もしやこれは病気なのではないか。思い切って白髪を褒めてくれた変人の彼に聞いてみた。

「オレってもうすぐ死んじゃうの?」
僕は後頭部の髪の毛を触りながら尋ねた。

「若白髪はよくあること。健康とまったく関係ないよ」

彼は顔色を一切変えずに淡々と述べた。
あ、そうなんだ。健康上全く関係ないものであるなら、この見た目と代償にお金持ちになれる。そんなポジティブシンキングで自分のネガティブな考えを覆いかぶした。

ーーー

中学生になると僕の白髪はますます多くなっていった。未だ後頭部を拠点としているものの、前や側面にも若干白髪が見え始め、鏡から自分の白髪を確認できるようになった。

白髪とは小学生の頃からの長い付き合いであったけれど、その量が増えたことによって余計に悩まなくてはならなくなった。

しかも、女子生徒の存在を気にするようになる年頃だ。この白髪のせいで僕は女の子に嫌われるかもしれない!モテたいのに!という不安と欲望を抱えて生きていたから、白髪というのは本当にネックなものだった。

ある日、自宅の洗面台で、つーんとした強烈な臭いを感じた。鼻を通じて目まで刺激するその臭いの元はカラー剤だった。母がセルフカラーを施したであろうその洗面台の前で「そうか、染めてしまえばいいのだ」と着想を得た。居ても立っても居られなくなって、僕は近くのドラッグストアまで自転車に跨りかっ飛ばした。

ドラッグストアに並ぶカラー剤。様々なカラーがあるが、まあこれだよなと思って手に取った、白髪染め用カラー剤(ブラック)。

しかし、いかんせん高い。1000円もする。中学生にとっての1000円は大学生にとっての1万円だ。千円札を握りしめて白髪染めを買うか熟考に熟考を重ねた。

僕はそっと棚に白髪染めを戻した。

当時の僕の髪形はベリーショートというか、ほぼ坊主であったからだ。効力が続く期間を考えれば白髪染めを買うことは刹那的なお金の使い方になってしまう。

懸命な判断だったと今でも思う。その日はゆっくり自転車を漕いで家まで戻った。帰りのペダルは少し重かった。

ーーー

毎朝——いや毎日、白髪が気になる青春時代は続く。

来る日も来る日も合わせ鏡をし、自分の後頭部における白髪の進捗状況を確認して学校へ行く。

席替えの瞬間はいつも人と違った観点から緊張した。一番後ろの席であれば誰にもこの白髪を見せることはない。一番後ろであれ!と思って毎度くじを引いていた。

前方の座席は若白髪をクラスメイトに見られてしまう。いわば、公開処刑である。実際に前の方の席になってしまったときは落胆した。

好きな女の子が僕の真後ろで、近くになれて嬉しいけどショック!みたいな、板挟みの複雑な心境になったこともあった。

当然、前の方の席だったり、好きな女の子が真後ろにいたりすると授業どころではない。先生の話す内容が頭に入ってきやしない。

そこで、一つ画期的な工夫を身につけた。少し身体をひねって白髪の少ない側面が後ろになるようにするのである。さすれば相手の視界から白髪が消える。

すなわち、前は前でも廊下側と窓際であれば割にいい席といえる。自然に身体をひねることができるからだ。

だが真ん中の席で身体をねじねじしていると、教室の中でシライ(後方伸身宙返り4回ひねり)をしているのかと思うほど目立つので、真ん中ではねじねじ作戦はしませんでした。まあ一番後ろに越したことはないということです。

それほど悩んでいた若白髪だが、果たして若白髪の持ち主は本当にお金持ちになれるのだろうか。

僕はこの謎理論を信じずには安寧な生活を送る事はできなかったから、この謎理論というか迷信が存在していたことに非常に感謝している。

しかし、よく考えれば小中学生にとって「お金持ちになれる」可能性が秘められていることはモテに然程直結しない。なぜなら小中学生にとってモテる人間とは、「足の速い」人間だからである。

もう少し歳をとって、20代にもなれば「お金持ちになれる」可能性が秘められていることは、モテと直結しそうなものだ。

残念なことにというか幸いなことにというのか分からないが、22歳になった現在の僕の髪に白髪の影は殆どない。

もし今、中学時代と同様に白髪がたくさんあるならばそれは出世と相関関係の強いものであるから、きっとモテてモテて仕方がなかったはずだ。ああ、残念。

小中学生の悩める若白髪ユーザーのために、あるいは彼らが若白髪に希望を見出すために、「お金持ちになれる」という迷信があるとするのなら、若白髪の人は「足が速い」にしてほしかった。

「あの夏輝くんって子、若白髪あるよね。でも運動会のとき特段速くないのは、『若白髪ハンデ』で手加減してるらしいよ。なんか足も速いのに手加減してくれるとか大人だね♡」
なんていう黄色い声も聞こえてきたのかもしれないのに。

迷信をつくる際にはくれぐれもよく分析をしてからにしてほしいものである。
小学生と大人のモテる要因は全く異なるのだから。

【追記】
若白髪で悩んでいる小中学生あるいは高校生もいると思うため若干補足します。

僕の若白髪は殆ど治りました(治るという表現が適切かは分かりませんが)。高校1年生の頃はまだ気にしていましたが、2,3年生になったときに気にする日はすっかりなくなりました。

「お金持ちになれる!」なんていう可能性よりも治る可能性の方がずっとずっと高いと思っています。もし治らなくても、20代になってしまえば「金を稼ぐ能力がありそうな人」がモテるので、若白髪を使ってアピールしましょう。もし今後僕が合コンとかをする機会があれば、かつて若白髪だったことをこれでもかとアピールする予定でいます。

若白髪の未来に幸あれ。


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