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そういえば小学生のときに自動車免許を取得していた

いい歳して車の免許を持っていない。車に興味がないし、ガソリン、車検(最近値上げされた)、保険と、諸々の維持費がかかるらしいし、何より免許を取ることが面倒くさすぎるのだ。

岸田総理は走行距離課税とかいう、車で走れば走るほど税金を払わなければならないシステムを検討しているらしい。こんなの、車の免許なんて取らない方が良いと言われているようなものである。

だが、身分証明書を見せてくださいと言われて免許証をサッと出せないのはスマートではない。野暮である。保険証を出せば、顔写真が付いているものがいいとかなんとか言われるから、学生証で代用しているが、学生証は永遠に証明書として機能しない。極めて有限的なものである。

ただ、証明書のために数十万円の大金と何十時間もの時間を失うのも納得できない。

学生証というスペシャルカードの有効期限が切れた時の代わりみたいなものを、僕はカードケースを開けて探してみる。あった。小学生のときに取得した運転免許証うんてんめんきょしょうである。

それは、自分が本気でパイロットになれると思い込んでいた小学生時代(8歳)にキッザニア東京で取得した免許証だった。

キッザニアとは、3歳から15歳までの子どもたちが様々なお仕事体験をすることができる「職業体験型テーマパーク」だ。

この世界へ一歩足を踏み入れれば、誰一人として労働を労働と思えない魔法にかけられる。僕も魔法をかけられた一人で、お仕事体験はみな楽しいものばかりだった。本命のパイロットになりきり、ピザーラでバイトみたいなことをして、時にアルソックでキッゾという為替概念の存在しない通貨をATMへ運ぶ。

僕は、一日中ハシゴで馬車馬のように働いた。ブルーカラーの職種もホワイトカラーの職種も、お兄さんお姉さんに言われた通りこなした。労働とは本来楽しくかくあるべきなのだと、大人になった今はそう思っている。

キッザニアではこのように様々な職業体験ができるが、車を運転できる小さなサーキットみたいなスペースがある。講習を受ければ自動車免許を取得でき、そのライセンスを使ってドライブができるのだ。今はどうか知らないけど、少なくとも僕が小学生だった10年以上前ならできた。

車の免許を取るなんて、その頃から甚だ興味はなくて、ちゃんとしたカードの免許証が貰えるらしいからという「証明書目当て」で渋々講習を受けた記憶がある。

キッザニア内の自動車教習所は思いのほか人気で、割に並んだ。順番が入れ替わらないようになのか、効率をよくするためなのか分からないが、従業員のお姉さんが並んでいる僕たちに名前を聞いてきた。

「お名前教えてもらえるかな?」
彼女はしゃがんで僕と同じ目線になって言う。子どもの扱いが慣れているなと、子どもながらに関心した。

夏輝なつきです」

彼女は僕の名前を反復するように唱え、手元のメモに右手でペンを走らせていた。僕はそれを何もせずにじっと眺める。

彼女はそのメモに青ペンで「菜月」と書いた。いくら子どもだからって勝手に漢字を推測するんじゃねえよ、と思ったことをよく憶えている。

「菜月くん、順番が来たのでついて来てください」
しばらくしてお姉さんから声がかかった。この後、どのような講習があったのかは忘れてしまった。もしかしたら僕は、「その漢字違うんですけど」と訂正を求めたかもしれない。

唯一覚えているのは証明書用の写真を撮影したことだ。皆、僕の前の子どもたちはニコニコ笑顔で溌剌とした表情をしているが、僕は小学生ながらリアルさを求めてしまった。

というのも、父と母の運転免許証を何かのタイミングで見たとき、そこに笑顔なんてものは一切なく、むしろ不機嫌そうであったからだ。自動車免許の写真撮影システム的に仕方がないらしい。つまり、僕からしてみれば運転免許証とは不機嫌そうな顔が載るものだった。ニコニコしている偽物の証明書なんか欲していない。

あえて不機嫌そうな顔を作り、カメラマンに「笑って」と言われても頑なに笑わなかった。イロモネアに僕が選ばれたら、お笑い芸人たちは皆困るだろうに。それほど固い顔を常に意識した。結果として発行された免許証がこれだ。

何か嫌なことでもあったのかな?なんて思うだろう。全くそんなことはない。

このカードを従業員から貰ったときは、「菜月」と記載されなくて安堵の笑みがこぼれた。

顔面も無表情で非常にそれっぽい写真になっている。少し顔が傾いているのもポイント高い。非常に満足がいくものだった。しかし、問題なのは有効期限がキッザニア最年長の15歳までということである。

22歳になった現在、当然僕にキッザニアという世界でキッゾという通貨を稼ぐ権利は無くなってしまった。そしてあの免許証も失効した。

僕はこれから運転免許センターのカメラマンの前で、再びそれっぽい顔を作る機会があるのだろうか。

岸田総理のように、最善の方法を模索し、あらゆる選択肢を排除せず、緊張感を持って早急且つ慎重に検討を重ねていきたいと思っている。まあ検討を検討って感じかな。

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