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ベスのためのチャリティー

私は近所のフリーマーケットで、ハンドメイド品をよく買う。フリーマーケットは週末で、自宅の不用品や手作りの品物を売ったりする地元の人が多い。

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フリーマーケットで手編みのウールのひざかけは、何度も購入した。売り主の84歳のお母さんのお手製のとか。

他にも自宅の表札から、手編みニットの帽子やら、手作りのカード(多数)からインテリア小物からスーツから、アクセサリーにジュエリー、パンプスからスリッパ、植木、まあ、ありとあらゆる物をここのフリーマーケットで買って、街で買うより半額以下で重宝している。

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作ってくれる本人とちょっとおしゃべりするのも楽しみの1つ。個人でやっている人ばかりなのでルールとか関係なしで注文して作ってもらったりする。

商品がどこから来たのか聞くこともある。そうすると売っている人の別れた奥さんの集めていた物だとか、自分が居間で使っていたとか、お母さんが編んだ膝掛けだとか、答えが返ってくる。

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ある日、中年の女の人2人が並べている服や靴がとても可愛くて、しかも全部ブランド品で、新品タグが付いている。ハンドメイドや中古品ではなさそうだ。

ブルーのエスパドリーユやベージュで裏地が花柄のトレンチコート、レースのブラウスなど、甘く優しいデザインが多い。

「ベスのためのチャリティー」と言う看板が下がっている。

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「これみんな新品なんですか」
「そうよ」
「全部エスサイズで、だからサイズさえあえばおトク」

私にぴったりのSサイズ。

このマーケットでさまざまなブランドの新品を売ってるのは初めて見たので聞いてみた。

「どこから来たものですか」
「妹が心の病で、たくさん洋服を買って、使わないままのものがどっさりあって」
隣の女の人が言う。
「私たち、ベスを支援するためのチャリティーを行なっているの」

女の人2人の表情からは他の売主とは違う、やわらかいが強い決意みたいなものが感じられた。

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イギリスに多いチャリティーショップでもどんな人が寄付するのかなとずっと思っていた。
でもマーケットで売る人と会話してきてこれまでは気楽に買っていた。

この「ベスのためのチャリティー」と言う店では、「どこから来たものですか」という質問等すべきじゃなかったすべきだったのかと思えた。

「ベスのため」と銘打っているから、秘密でもなかったかもしれない。

でもベスと言う心の病の女性は普通の生活を送れていないのだろう。

その姉や友人が援助し、資金を作らなければならない困窮する状況にあるに違いない。


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デザインも価格もサイズを自分にぴったりの商品で、買えばこの人たちの助けにもなる。

そう思ってできるだけたくさん買いたい気持ちはあるのに、置いてある物のほとんどがイギリスで着る機会が限られる夏物と言うこともあったけど、なぜか迷ってしまう。

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私は身近に心の病の人がおり、その家族の気持ちが少しわかる。

心の病の人の気持ちもちょっと、想像できる。

絶対に満たされない心の隙間をそれでも埋めるために、着ることのない服をひたすら買い続けて、その服が心でなく家の隙間を埋めている。

私は彼女の服を着る度に、ベスの苦しみや支援者たちの悲しみという、心の重さまで感じることになるんじゃないか。

結局私は何も買えなかった。


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