静馬

LG(B)TQ 小説、詩、エッセイ、イラスト いろいろ書きます🐴

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  • シー・アド・ナインス

    連載中の小説です。父子関係のトラウマを乗り越えるため、悩み苦しみながら少しずつ成長していく直と樹の物語。ふたりそれぞれの視点で綴ります。長いお話になりそうですが、よかったら暇つぶしにどうぞ。

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前世の骨

この世界のどこかに眠る 私の前世の骨 湿った冷たい土をかきわけて 古びた骨と遠い記憶を掘り起こしたら あなたを赦すと伝えよう あなたはわたし わたしはあなたを赦します ねえ あなたが探していたものは どこにもなかったよ 私も探したからわかる 求めているものはどこにもないと だけどなにひとつ後悔できない それは今が幸せだから だから旅に出ようよ あなたの破片を集めて背負うから ふたりで旅に出ようよ 積もる話が山ほどあるよね 私があなたを背負って歩くから

    • Heaven’s Radio ”MICHAEL”

      窓の外の街明かりたちが あんなにも歪んで見えるのは 雨粒のせいか涙のせいか わからなかった 手首が痛くてたまらない まるで茨が巻きついたように じゅんと濡れたベッドのシーツ お守りだったオレンジのピルケースも 今はぬけがら もう少しで見つかるはず 生まれたときの本当のわたしが もうすぐつかめるはず あのときの自由をもう一度 今ここでまぶたを閉じて 静かに眠るだけで すべての願いは叶うのに なぜなの ちっとも眠くならないで 頭は冷たく冴えわたるばかり 知らない街

      • Cadd9 #35 「それがあなたなら」

        ナスノさんの病室に行く前に、病院の売店でヤクルトを買った。入院してからナスノさんは急にヤクルトを気に入ったらしい。病室に持っていくといつも喜んでくれるのだと、ミナミから電話で聞いていた。 会計のとき、売店の女性に「久しぶりね」と声をかけられた。樹が最後にその売店を訪れたのは、一ヶ月近く前のことだった。樹はどう返事をするか迷って、はあ、と一言だけ返した。友達とつるむことがなくなったせいか、このところ人と適当な会話をするのが下手になったような気がする。 一階の受付で聞いた階に

        • Cadd9 #34「失くしたものを取り戻すまで」

          ミナミとの電話のあと、樹はラジオを枕元に置いて小さな音量で流しながら、布団に寝転がって本を読んだ。ラジオは街を離れる日にテルジが餞別がわりにくれたものだ。最初は彼が年がら年中履いている長靴を渡されそうになったが、色々と理由をつけてなんとかそれは回避し、代わりにラジオを譲り受けた。長靴もラジオも、テルジにとっては大切な宝物なのだろうが、彼は何の惜しげもなくそれを与えようとしてくれた。 たまたま放送していたラジオ番組の終わりに、中島みゆきの「時刻表」が流れた。樹は本を胸の上に置

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        前世の骨

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          あなたの胸の奥にともる 小さな星のような光から わたしは生まれたのです あなたの腕のなかにある 陽だまりのようなぬくみから わたしは生まれたのです 喜びにも 悲しみにも わたしはつかれた あなたの腕のなかに倒れ込んで いつまでも いつまでも 目を閉じて休んでいたい 世界中のあかりを消して 地球の風がやむ日まで 惑星が静止するその日まで あなたの腕にいだかれて あなたの世界へ旅に出よう そこには静かな大空と いつかあなたと夢に描いた 小さな家があるでしょう 陽

          博愛

          博愛主義のあなたはいつも 誰も彼もを愛するけれど 誰も彼もがあなたのように 人を愛しているとは限らない だからあなたは幾度も 愛する人に愛されない だからあなたは幾度も 愛する人に愛されない 見返りを求めないその悲しみを 知っているからなお愛しい そんなあなたが見る世界 一度でも垣間見たならそのときは あまりに悲しい幸福と あまりに嬉しい孤独の光に わたしは泣き崩れることでしょう

          Cadd9 #33 「世界より、ほんの少し優しいばかりに」

          手つかずのままだった制服の採寸や教材の購入を終え、高校に入学して一週間のうちに、樹はアルバイト先を見つけた。 まず、学校の付近にある新聞の販売所で朝刊の配達が決まり、数日後には、運送会社での降ろし作業と積込みの仕事も手に入れた。これは夜間だ。面接の際、かなり体力を使う仕事だと何度も念を押して言われたうえに、学生ということもあって渋い顔をされていたが、その場で採用してもらえることになった。家から職場まで徒歩で三十分ほどかかる。夕食後の運動を兼ねて、走っていくことにした。 朝

          Cadd9 #33 「世界より、ほんの少し優しいばかりに」

          かたつむりが死んだ日から

          一日のうち、何度も死について考える。朝、目覚める前の一瞬に、もう死について考えている。空を見て、死について考える。風を感じて、死について考える。かわいい猫に触れて、死について考える。笑っているときも、泣いているときも、怒っているときも、喜んでいるときも、死について考えている。 何かが始まるのと同時に、終わりに思いを巡らせる。友人や恋人との関係が始まったとき、何よりもまず終わりを思う。朝起きて、一日の終わりを思う。毎日、人生の終わりを思う。そして生きていることに罪悪感を感じる

          かたつむりが死んだ日から

          Cadd9 #32 「いま、俺の手の中にあるものは」

          薄いカーテンが揺れている。 陽射しは真上から照りつけ、汗ばんだ肌をじりじりと焼いた。耳障りな蝉の声に、夢の中ですら気分が悪くなる。 大きな窓に縁どられたその光景は、古い絵画のように静止し、周囲にある鮮やかな植物たちも静止し、なぜかカーテンだけが風もないのに揺れていた。 その奥に見える人影は、永遠にそこに佇んでいる。時間が止まった空間の、何もかもから見捨てられた、空白のような永遠の中に。その人の名前を呼ぼうとしたが、からからに乾いた風のような息しか出なかった。そしてカーテ

          Cadd9 #32 「いま、俺の手の中にあるものは」

          Cadd9 #31「どんな形を借りてもいい」

          その日の夜、樹が家を訪ねてきた。 見舞いのあと、直とミナミは多川夫妻の車でそれぞれの家へ送ってもらい、樹とはその際にしっかりと別れの言葉を交わしたはずだったから、樹が家を訪ねてきたことに、直は少なからず驚いた。 インターホンが鳴り、直が出るまで少し時間がかかった。玄関を開けると、樹は軽く俯いたまま、視線だけをそっと上げて直を見た。 「樹。今晩は多川さんたちと一緒じゃないの」 「いや。あの人たちには一足先に帰ってもらったよ。沙耶が向こうで留守番してるしな。まあ、留守番と

          Cadd9 #31「どんな形を借りてもいい」

          Cadd9 #30 「ふれてはいけないやせ我慢」

          クリスマスが過ぎ、年越しを迎え、新年の慌ただしさがようやく落ち着く頃になっても、その冬は雪があまり降らなかった。刺すような冷たい雨ばかりが続き、厳しい寒さがまるで幽霊のようにじっと街に居着いていた。 昼休みに音楽室で樹とギターの練習をするのが、その頃の直の日課だった。樹はたびたび、直の上達具合を褒めた。 「俺よりずっとうまいよ。直には音楽の才能があるんだな。俺なんか二年近く本気で練習して、やっと今くらい弾けるようになったのにさ」 と、樹は驚きつつも悔しそうな顔で言った。

          Cadd9 #30 「ふれてはいけないやせ我慢」

          One Morning

          2014年11月15日の明け方に、僕はひとりで散歩に出かけた。僕は19歳だった。 朝まで眠らずにドラマを見たあと(若い女性が自殺する話だった)、しばらく使っていなかった水筒を棚から出して、散歩に持っていくための温かいココアを淹れた。ボーイロンドンのパーカーを着て、赤と紺のマフラーを巻いて、ベージュのスニーカーを履いて家を出た。 まだ外は暗かった。街灯の小さな灯りが遠くにぽつぽつと並んでいた。空は鈍い銀色に輝いて見えた。長い川は紺色にひっそりと沈んでいた。冷たいアスファルト

          One Morning

          2017年は流れ星をたくさん見た

          2022年を締め括ろうとする記事が、2017年の話から始まるのもどうなんだ? でも、あの年は偶然にしてはやたら多くの流れ星を見かけた。時々は願いをかけたりもした。あの頃、私には会いたくて会いたくて仕方がない人がいて、でも会いたいからといって素直に会いに行けるような自分でもなくて、いつも流れ星を見つけるたびにあの人に相応しい人間になれますようにと真剣に願うばかりだった。 偶然っておもしろい。私は偶然と出会うのが好きだ。「ステキなタイミング」という坂本九の歌がある。「この世で一

          2017年は流れ星をたくさん見た

          ひとりでいても 百人といても

          信じたくないものばかり信じていました 信じたいものを信じもせずに あなたの足下に咲く花と つきぬけるような青空と 小さな世界で生きるわたしに 心の世界は誰より広いと あなたが教えてくれた朝 あの日のあなたと同じ気持ちで いつものように歩いていたら 長いあいだかき消えていた わたしの世界が見えたのです あなたは本物の悪意を信じない わたしは本物の絶望を信じない 信じるのは子猫の温もり 星のふるえや小石の影 道行く人の交わしあう笑顔 ひとりでいても 百人といても

          ひとりでいても 百人といても

          Cadd9 #29 「枯れることのない大きな木」

          十一月の終わりまで、直は樹の家で過ごした。 包帯が巻かれた直の顔を見て、樹は「誰にやられた?」とまっさきにきいた。直はしばらく考え込んでから、自分だ、とこたえた。もちろん、直が自分の手で左目を傷つけたわけではないことは、樹もわかっているはずだった。むしろ、そのひとことで大体のことを悟ったはずだ。それでも樹は、自分の身体が傷つけられたような、とてもつらそうな表情を浮かべていた。 四日目に、ナスノさんが病院に付き添ってくれた。医者は包帯を外してレントゲンを撮り、左目に光を当て

          Cadd9 #29 「枯れることのない大きな木」

          傷心と秋の光

          秋は光が和らぐ。空気も和らぐ。 心の痛みが和らぐか…というと、そんなことはない。むしろ秋は悲しみが増す。 でも、つらいときには悲しげな曲が聞きたくなるように、わたしの心には秋の寂しさがしっくりくるみたい。秋は心の世界に少し近い。 むかし、ある人が「秋は空白の期間だね」とわたしに言った。そのときは意味がよくわからなかったけど、今はわかる。わかるけど、言葉にならない。言葉にならない空白そのものが、秋という感じがする。そこには沈黙すらない。ただハッと目の覚めるような空白がある

          傷心と秋の光