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店内にてオススメする本

季節ごとに発行している店の「たより」に、お客様からの質問にお答えするQ&Aコーナーを設けています。
ちょうど「たより」を制作中で質問を募集していたため、ご来店中の友人に「何か質問ないー?」と尋ねたところ、友人がいたずらっぽく笑いながら言いました。

「ああ、じゃあ、
『【都内の出版社で勤務した経験のある文学女子の店主】がオススメする本は?』
とかどう(笑)?
見たよ、前に掲載された雑誌」

……。
以前、当店がローカル誌に掲載された際に、『都内の出版社で勤務した経験のある文学女子の店主がセレクトする本は……』などという、なにやら都会への憧れがそこはかとなく漂ってしまうフレーズが載ったことがあるのです。

わたしは慌てて言いました。
「いや、アレはわたしが書いた訳じゃないし。きちんと正確に経歴を話したら、それを勝手にあちらが微妙にアレンジしてそういう載せ方になっただけで、そしてまあ、必ずしも嘘ではないわけで……」とアタフタと口ごもるわたしと、そんなわたしを何か言いたげにニヤニヤと見つめる友人。

たまらず、

「ハイハイ、たしかに東京の出版社に勤務経験はありますが、私が勤務したのは医学書専門出版社でした。作っていたのは、文学とは全然関係ない医学用語ばかりの医師の書いた医師のための医学専門書でしたよ」

と、白状するわたし。
取材された際にちゃんと話したのだけれど、掲載誌には見事にイイ感じに切り取られたうえになぜか「文学女子」と称されていました。
は、恥ずかしい……。

新卒で入社した出版社で初めて担当した本の名前は『覚せい剤依存症』だったし、隣の席の先輩は『大腸内視鏡』という本を担当していました。
社内では日々、「おい、『覚せい剤』どうなった?」「『大腸』の〇〇先生からお電話です!」「来月の特集、『肥満』だから」などという会話が飛び交っていた編集部。
まだワープロ中心の頃で、手書きすら存在していた懐かしき時代の原稿に並ぶ言葉はチンプンカンプンな医学用語のオンパレードで、句読点はすべて「,」(カンマ)と「.」(ピリオド)で横書き。
挿入される画像はCTやMRIや解剖写真、「消化器」が「消火器」になっている誤植に恐れおののく、という世界。
文学、全然関係ないです。

今思うと、あの会社で働いた若き頃は、なかなか特殊な世界を体験できて貴重な時間だったと思います。
それに、映画や文学好きの知的で優しい人が多い会社で本当に幸せでした。皆さん、どうしているかなあ。
わたしの読書傾向とか、映画の好みとか、この時期の会社の先輩たちの影響が大きいです。
だから、文学とはまったく関係のない本を作っていたけれど、当店の本棚が『都内の出版社に勤務した経験のある文学女子の店主のセレクト』であるのは、強ち間違いではないという気もします。
この年で「女子」は間違いかもしれませんが。

というわけで、『覚せい剤依存症』を担当していた医学専門出版社に勤務経験のある店主がオススメする本は、
『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ)、
『寄りかからず』(茨木のり子)、
『ナンシー関の記憶スケッチアカデミー』(ナンシー関)、等々です。
医学、全然関係ないです。

店内で読み切るのにちょうどいい分量で、ほっこり系、しんみり系、クスクス系を挙げてみました。
通い詰めて分割で読んでいいただく長編なら、なんといっても『豊饒の海』(三島由紀夫)ですが、全部で4巻あるのでかなりの常連様になっていただくことになりそうです。
三島由紀夫は好きすぎるので、改めていつか別の記事にしたいと思います。

そんな店主オススメの本の数々、他にも多数店内の本棚に並んでいます。
美味しい珈琲とゆったりと流れる時間のお供に是非どうぞ。

(ヘッダー画像は4年前の掲載雑誌のため、メニュー価格は当時のもので現在は値上げしております)

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