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ハラスメント?

隣に住む姉夫婦がミニチュアシュナウザーを飼っていて、わたしもその犬をとても可愛がっています。

ある日のこと。
留守である姉夫婦に代わって散歩をさせようと隣家を訪れ、玄関にて犬に声をかけました。
普段はわたしの声を聞きつけると、「待ってました!」とばかりに短い尻尾を振り振り黙って走ってくる犬なのですが、その日は珍しく吠えたのです。
「ワンワン、ウー、ワンワンワン!」と吠えながら、姉夫婦の家の奥から玄関へと移動してくる犬。

「ちょっと、なんで吠えるの?」と少し声を荒げて玄関に立つわたしを発見した犬は吠えるのを止め、申し訳なさそうに目を伏せてお座りをしました。
すぐに反省の意を示す犬の様子に心を打たれながらも、「吠えるなんてひどいよ。わたしの声忘れちゃったの?」と、犬に詰め寄ってみたわたし。
すると犬は、さらに「ごめんね」と言うように左前脚を上げて、わたしの膝にその脚をポンポンと当てて、上目遣いで見つめてきます。
この甘えるような仕草、あざといこと甚だしいのになんてカワイイの!
たまらずにくしゃくしゃと犬を撫でまわした後、調子に乗ったわたしは犬の耳元に顔を近づけ、猫なで声で囁きました。

「じゃあ、チューして。そしたら許してあげるよ」。

これは別にわたしの常套手段というわけではなく、そして水野美紀のモノマネをしたわけでもなく(相当古いのでご存じない方は「水野美紀」「チュー」「CM」で検索)、姉夫婦と犬との間のお決まりの挨拶なのです。
姉夫婦が「チュー」と言うと、犬は飼い主の口元をペロッと舐めるのが習性となっており、いつもその様子を眺めながら、(あー、犬バカだわー)なんて呆れていたのですが、この時ふと、自分もやってみたくなってしまったのです。

そして、いつも飼い主夫婦にしているように、すぐに犬が口元を舐めてくれるものと思っていたわたしの期待は、見事に裏切られました。
なんと犬は即座にクルッと背(尻尾?)を向けて、玄関から家の奥へスタスタと去って行ったのです。
「あ、それならいいです、別に。許してくれなくても結構」という感じで。
一人、玄関に残されたわたし。

……。
え? 犬に、チュー拒否された?
え、そんなに嫌?
正直なところかなりショックだったのですが、散歩には連れて行かないといけないわたしはすぐに呼びかけました。

「あっ、あれー? G(犬の名前)~、Gちゃ~ん。お散歩行かないのかな~? おーい……」

しばらく声をかけること1分ほど。
犬は重い足取りで再び玄関へ登場。
わたしが、「そんなにチュー嫌ですか。そこまで嫌ですか」と言いながら、再チャレンジしようとまた顔を近づけると、今度はあからさまに顔を背ける犬。

ななななんて頭にくる犬!
でもすごく面白い!
そして憎らしくて可愛くてたまらない!
嫌がるのがわかっていても、チューせずにはいられません。
圧倒的体格差と腕力で強いこっちが有利なのだよ、大人しくせよ、と強引に犬を捕まえてチューしようとするわたしは、ハタと思いとどまりました。
これってセクハラ? パワハラ? モラハラ?
あ、動物虐待?

愛情表現って難しいものですね。
犬にも選ぶ権利があるもんね……。


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