見出し画像

にっこり笑ってフリージャズ その6

前回話題にした八重洲書房について、話は続きます。
ビルの1階と2階に広い売り場を持った八重洲書房。規模が大きくなれば事務処理や営業、配達も多くなり店主夫婦だけではやっていけません。少しずつ従業員が増えて、その中に私の友人が2人いました。

ひとりは桑添弘さん、経理担当で入社しました(この頃の八重洲書房は有限会社になっていたはず)。知り合ったのは彼が浪人中で、学生運動の集会やデモで顔を合わせることが多く、同い年ということもあってすぐ友達に。大学受験を諦めて書店に就職したあと、八重洲書房に移りました。あだ名は欽ちゃん。萩本欽一に似ている、と高校時代につけられたそうです。阪神ファンで石川さゆりが大好き。秩父事件の研究家でもありました。お互いの職場が徒歩3分ぐらいの距離ですから、一緒に飲み歩くことも多かったです。

もうひとりは久保久さん。「くぼ ひさし」ですが、皆から音読みで「くぼきゅう」と呼ばれていました。桑添さんと同じ書店にいたのですが、営業担当で誘われて八重洲書房に入社。訥々とした雰囲気なのに大学関係からは大量に注文をとってきていて、どんな営業をしているのか謎でした。北海道の出身で大学は山形。ザ・スターリンの遠藤ミチロウと学生運動仲間、ミチロウより先に入学して留年のためミチロウのあとに卒業したと言っていました。結婚相手も同じ仲間で、住んでいるのが私の家の近所。家族ぐるみの付き合いでした。

そんな2人でしたが、八重洲書房の経営方針や処遇などで店主夫婦との摩擦があったり不満がたまったり、2人ともそれほど間をおかずに辞めていきました。1980年代半ばのことです。傍目には順調と思われた経営でしたが、書店としての理想と販売、営業、経理の現場との意見の相違が大きかったのでは、と思います。小さいとはいえビルの2フロアにまたがる広い売り場の書棚は壮観で、凄かったなと今でも思いますが、在庫の量とマニアックな品揃えは、家賃など固定費や給与、取次への支払いなどを考えると、頑張って外販の営業をやってもなかなか改善できないような赤字経営だったのでは、と思われます。

そして間もなく、八重洲書房は取次の栗田書店への負債が元で経営破綻。営業を停止せざるを得なくなりました。その後、デパートの地下2階に移転できた詳しい事情はわかりません。在庫の書籍が全部移せたからでしょうか、なにしろ負債額が大きすぎました。私は1987年7月からジャズ喫茶のアヴァンを買い取って引き継ぎましたから、デパート地下に移っても八重洲書房には通い続けました。店に置く雑誌はすべて八重洲書房から購入していましたが、以前のような活気を感じることはできず、そのまま1993年の閉店を目撃することになります。

そして
桑添弘さん 1990年4月3日逝去  38歳
久保久さん 2018年9月20日逝去 68歳

八重洲書房に勤めていた友人たちは亡くなりました。
この2人と共通の友人がいるのですが、彼の著書のあとがきに知人・友人への哀悼の文章があり、たくさん名前を書き連ねています。

あとがき

その書籍はこちら
川村邦光『弔いの文化史』(中公新書 2015年)

川村さんは私と大学同期ですが、共通の友人であった桑添さんの名前をあげています。この本の出版のあとに亡くなった久保さんとも友達でした。上の画像に「橋田寿一郎」という名前があります、私たちと同期の入学。1971年11月、沖縄返還に抗議して東北大学片平キャンパスで灯油をかぶって火をつけ自死しました。あまり知られていませんが、彼は八重洲書房の初代学生アルバイトだったのです。まだ古いビルの1階にあった時代。

八重洲書房で働いていた友人3人が亡くなっているという、フリージャズと関係のない話をここまで長々と書いてきました。また少し脱線します。桑添さんや久保さんは千葉県の新東京国際空港建設の反対同盟を支援する活動をずっと続けており、空港が開港したあとも反対同盟の農家から無農薬野菜を運んできて売り歩いたり、映画の上映会を開催したり、仙台の仲間たちと地道に運動を支えてきました。反対同盟の分裂など、すったもんだなどありましたが(私も巻き込まれて家に某セクトが押しかけてきたりしました)、そんな空港建設反対闘争のドキュメント映画が最近も作られています。2014年の『三里塚に生きる』そして続編ともいえる2017年の『三里塚のイカロス』です。
(冒頭の画像は『三里塚に生きる』のパンフレット表紙)

この『三里塚に生きる』には桑添さんや久保さんが支援していた反対同盟の人たちが何人か登場しています。監督は代島治彦さん(「生きる」は大津幸四郎さんと共同監督)、2作とも音楽は大友良英さん、これが素晴らしい演奏なのです。ということで、締めは映画の予告編動画を。サウンドトラックの一部が流れます。

『三里塚に生きる』サウンドトラック 大友良英『GEKIBAN 2』収録

『三里塚に生きる』予告編

『三里塚のイカロス』予告編

『三里塚のイカロス』サウンドトラックの演奏メンバー、大友良英さん(ギター)と山崎比呂志さん(ドラムス)のデュオ、2016年ヨーロッパツアーの演奏(抜粋)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?