見出し画像

トルコの雪国が舞台の映画「About Dry Grasses」

東京フィルメックス2023に出品された中東映画2作のひとつ。約3時間の大作で、長いといえば長かったが、トルコ東部を舞台にした重厚な心理劇に引き込まれ、時間をあまり感じさせなかった。

長尺の議論や会話のシーンや、終盤の主人公によるモノローグは、フランス映画を思わせる雰囲気もあった。カンヌ国際映画祭にも出品されたようだ。フランスでの反応がどうだったか、気になる。

舞台は、トルコの最東部の雪国。イスタンブールへの転勤を望む公立学校の美術教師サメットとその周辺の教師や生徒、友人との人間模様が描かれる。

というと、何か平板な映画のような印象もあるのだが、大きな背景として、東部に多い少数派のアレヴィー教徒、左翼の反政府運動、貧困といった地域的な背景が随所に織り込まれていて、作品に深みを与えている。サメットと、爆弾テロに巻き込まれて片足を失い左翼運動への意欲を失ってしまったヌライとの会話は、まさに酒を酌み交わしながらの議論通りに延々と続くが、これがかなり哲学的な内容。そこでも作品の重厚さを醸し出している。

雪の風景も、特に雪国で生まれ育った人間には心に残った。トルコ東部に赴任した教師を主人公にしたトルコ映画というと、1980年代に「ハッカリの季節」というのがあると、きょう訪れた古本屋にあった解説本で知った。こちらも機会があれば鑑賞してみたいものだ。

サメットと生徒とのエピソードについては、視点を教師からみるか生徒からみるかで、かなり違う見方になると思った。トルコの地方の学校の実態が開幕みえて興味深かった。寄宿舎があり、親元を離れて学んでいる生徒も登場した。ちょうど数日前、埼玉県川口市で建築解体業を営むカフラマンマラシュ県出身の男性から、その寄宿学校の話を聞いていたので、より、リアリティを感じることができた。

とはいえ、学校内だけではない、トルコ東部の実態・事情が緻密に描かれていて、それに加え、トルコの社会的多様性が反映された人間ドラマとなっていて、鑑賞後の満足度がとても高い作品だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?