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「本当の風景」はインスタのどこにあるのか?

SNSマーケティングが隆盛らしい。インスタグラムなどにアップされた一般の人々の写真や映像が、人々の日々の消費行動に大きな影響を与える時代になっている。確かに、現代の価値観は多様化していて、マス広告が不特定多数に対して投げかける商品のメッセージに乗ってくる人の割合は低下しているんだろう、と容易に想像はできる。人の嗜好のストライクゾーンは、狭くなっているし、ちょっとやそっとの「誘い文句」では、消費者はそれに乗ってこない。そんな中だから、個人の発信の場であるSNSが、企業の営業の手段としても重宝されているのも当然といえるのかもしれない。SNSは、人々をさまざまな嗜好ごとにセグメント化してくれるし、いわゆる「広告っぽくない」メディアだからだ。

そんな時代にあって、人々が消費行動を取るにあたって、SNSを活用する際に、どんな注意が必要なのだろうか。消費者側の目線で考えてみたい。ここでの商品は「旅行」である。

インスタグラムを使って旅行の行き先を決める、と聞いても今はもうあまり驚きはない。インスタグラムで、行きたい候補の場所をハッシュタグ検索して、写真や映像を表示させ、判断材料にする人が増えているそうだ。旅行代理店に置いてあるパンフレットや、旅行ガイド本などをめくるよりも、バイアスのかかっていない「本当の風景」がそこには広がっているはず、という期待感があるからだろう。

なるほどなあ、と思い、実際にハッシュタグ検索をしてみる。

#grandbazaar (グランバザール)というハッシュタグで検索してみる。トルコの最大都市・イスタンブールの旧市街にある巨大市場。何度も行ったことがあるが、異国の雰囲気にあふれていて、観光スポットとしても、とても面白い場所だ。

インスタグラム上に表示されるグランバザールはどんな場所なんだろう。たとえば、私が閲覧した時点で一番上に表示された、この写真について、みなさん、どんな感想を持っただろうか。


インスタグラムのアルゴリズムについて知見はないが、#grandbazaarで検索して1番目に表示される写真だということは、インスタが「ベスト写真」と認定した、と考えていいのかもしれない。

この「ベスト写真」を見て、みなさんどう感じるだろうか?

「きれい、ここに行きたい!」なのか、あるいは「これは、作りこんだ写真だ。うそっぽく感じる」なのか、どっちなのか。

正直言って、私は後者の反応だった。トルコのランプは確かに幻想的で美しい。でも、こういう写真に、グランバザールのリアリティを少なくとも私は感じない。バザール商人の商売っ気と、この写真をアップした会社の商売っ気がひしひしと感じる。

「ここと同じ場所に立って、同じような写真を撮りたい」。そんな旅の目的を持っている人には、この写真は絶好のサンプルになるとは思うのだが・・・私は、そうしたオリジナリティのない旅のやり方は選ばないけど。

この写真をアップしたのは、bestdiscoveryという旅行会社のようだ。インスタグラムには、こうした会社が宣伝目的でアップした写真も多くあることは頭の中に入れておいたほうがいいかもしれない。

では、この写真はどうか。#grandbazaarで検索して5番目の位置に表示された写真だ。正直、こちらのほうがいい。最初の写真よりもリアリティがある。理由をくどくど説明する必要もないだろう。グランバザールの入り口で記念写真を撮る、観光客とバザールの店員。こちらのほうが、本当のグランバザールを映し出している。もちろん、こちらの写真にも、バザール商人の商売っ気や、観光客の虚栄心のようなものが投影している可能性は皆無ではない。でもそうした要素はごくわずかだ。ここには人間のシンプルな楽しみ、喜びがある。だから、この写真にはリアリティーが感じられる。

もっとも、じゃあこの写真が、旅行場所を決める判断基準になるか、というと、ちょっと違うのかもしれない。

では、判断基準になる写真は、#grandbazaarで検索した写真の中にあるのか。ずっと下まで見てみたが、意外にピンとくるものがない。商品の大写しだったり、やはり商売っ気がうつりこんだ写真がとても多いのだ。

強いてあげれば、この11番目の写真だろうか。個人が何気なく撮った写真で、構図に特段の工夫もない。それでも、商業主義の意図がみえみえのものよりはよっぽど実態を投影しているような気がする。

旅行というのは、ある意味、非日常を体験しに行くものだろうから、1枚目の写真のような幻想的な光景を追い求める旅、というのもアリなのかも知れない。ただ、気になるのは、それが観光客を呼び込みたい商業主義の「作りもの」であるかもしれないということだ。実際にグランバザールに行っても、1枚目の写真のような場所は、どこにもない可能性だってある。

インスタグラムというのは、人々の体験がそのままむき出しの形でどんどんアップされていく、という点で画期的だった。だからこそ、これまでにないバイアスのかかっていない情報が集まる場所として高く評価された。

ただ一方で、SNSを活用して顧客を獲得しようという人々が群がっている場所でもある。ビジネスとして、なんとかして目立って、客を捕まえようとしている人も多い。派手で目立つ写真をアップして、気を引こうとする。商行為だから、そういう意図も理解できる。立場によっては、それは自然な行為だろう。

だから、インスタを観る側、つまり消費者の側にも注意は必要なんだと思う。相当、商業的な意図があふれている場所なんだ、ということを心に留めておく必要がある。インスタで、実際に本当に「そこにある風景」を見つけ出し、選び取るのは、実は意外に難しいということだ。結局のところ、マス広告を見極めるのと似たような「メディア・リテラシー」(目利き)が必要なんだ、ということなのかもしれない。





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