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アメリカンなイラン母娘年代記『ペルシャン・バージョン』

イランで起きたイスラム革命(1979年)をきっかけに、イスラム体制を嫌うイラン人たちが海外へ亡命・脱出した。特にアメリカ西海岸ロサンゼルス周辺には百万人単位のイラン系住民の大コミュニティが形成される。先日、東京であった「ペルシャフェス」には、そうしたイラン系のひとりが所有するワイナリーのカリフォルニアワイン「ダリウス」が販売されていてびっくりしたが、それほどイラン系は米社会・経済に浸透している。この映画は、そうした米国のイラン系家族の「母娘」に焦点を当てている。監督のマリヤム・ケシャーヴァルスさん自身が米系イラン人であり、これは自伝的な作品なといっていいだろう。

ちなみに、舞台はテヘランゼルス(ロサンゼルスの別称)ではなく、アメリカ東海岸。一家の渡米は、イスラム革命がきっかけではなく、革命の前だという。

作品にモノローグをしているのは、監督自身の分身と思われる主人公レイラ。イランに帰国すると兵役義務を回避できなくなる可能性があった男性と違い、女性は一時帰国に障害があまりなかったといい、レイラは、子供のころからイランと米国の間を行き来し、イランの学校に通ったこともある。このため、米国の文化慣習にどっぷりつかった他の男性の兄弟とは違い、米イランのはざまで育まれた微妙なアイデンティティを持っている、と自認している。

ストーリーは、おそらく20歳代のレイラの現状からはじまり、さらに、その母親のイラン時代を含めた来歴が時間をさかのぼるように語られていく。その中で、アメリカに渡ったイラン人たちの苦節と、逆境にもめげない明るく前向きさが強調されている。

サムネイル写真に使った、レイラの兄弟の結婚式で家族メンバーが延々と踊り続ける場面はその象徴といえるだろう。

作中では、シンディ・ローパーが歌った名曲「Girls Just Want To Have Fun」が効果的に使われている。ひょっとすると別の歌手によるカバー曲だったかも知れないが、いずれにしても、陽気に、前向きに人生の活路を切り開く母娘の年代記にはぴったりの選曲だったといえる。

エンドロールのスタッフリストをみると、トルコ人と見られる名前が多くあった。イランのシーンは、どうもトルコで撮影されたためのようだ。ヨルダンあるいはトルコといった国が、海外で製作されるイラン映画のロケ地になっているようだ。

いずれにせよ、米国社会にさまざまなインパクトを与えているイラン人コミュニティーを、アメリカンなノリで活写した、小気味良い作品だった。

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