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ブラームス「始まりの三重奏」

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J.ブラームス:ピアノ三重奏曲 ロ長調 op.8 - 1854年初稿版について 1. 失われた時を 見出すとき - J.ブラームス 2. はじまりの三重奏 3. 「不在」の存在証… もっと読む
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失われた時を 見出すとき - J.ブラームス

ブラームスが若き日に書いたピアノ三重奏曲について、ずっと不思議に思っていたことが、少しずつ明らかになってきた。 ブラームスは1889年、56歳の時にひとつのピアノ三重奏曲を書いた。 その作品は、21歳という若き日に書いたピアノ三重奏曲に手を加えたものだということで、作品番号がそのままop.8として出版されたために『ピアノ三重奏曲 第1番 op.8』(1889) としてのちの世に残されることとなった。 『ピアノ三重奏曲 第2番 op.87』(1882) と『ピアノ三重奏曲

はじまりの三重奏

忘れたい、忘れよう。 そう願う時期が長くなることで、その一つの記憶が色々な時間と繋がってしまい、結果として、忘れるべきことの中にだけ生きてしまうということを、想像したことはないだろうか。 1830年、詠み人知らずの小さな主題が20歳のロベルト・シューマンの日記に書きつけられた。翌1831年、ロベルトの師ヴィークの12歳の娘クララがその主題による『ロマンスと変奏 op.3』を作曲して、ロベルト・シューマンに献呈した。翌1832年、ロベルトはその主題を使って変奏曲を作曲し、師ヴ

「不在」の存在証明、永遠の三重奏

― いまこそ話しておくが、ヨハネス、 わしは君の心の中を深く見通していて、その中にある危険な ― 恐ろしい秘密をみとめていたんだよ。 すなわち、いつなんどき危険な火炎をあげて爆発し、容赦なく周囲のありとあらゆるものを舐めつくす、沸騰している火山をだ。 ― おお、先生、この僕をあつかましくも愚弄し、おもちゃにする権利が、あなたに与えられているのでしょうか。僕の心を理解することが出来るなんて、あなたは運命ででもあるのですか。 __________ 上の会話は、ロベルト・シュ