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舞台『キングダム』のすすめ~ネタバレなし紹介&ネタバレあり雑感~

 ※このnoteは「原作未読なテニミュ1st由来の浅いミュージカル好きによる舞台『キングダム』のネタバレなし紹介、
それから作品のいわゆるメタ構造(と勝手に思ってるもの)について好き勝手に書きなぐるよ」というスタンスです。
 あらかじめご了承ください。
(※記載の情報は東京公演ベース。一部、大阪&福岡のことも追記で記載)


◆はじめに◆


『キングダム』という単語を聞いた時、思い浮かべるものは人によって様々だと思う。だが近年に限って言えば、集英社週刊ヤングジャンプで連載中の漫画『キングダム』(原泰久著)を挙げる人が多いのではないだろうか。
 連載期間15年以上、2023年春の段階で70巻近い大作はアニメ化・実写映画化もされいずれも大ヒット。間違いなく現代日本コミック界を代表する作品の一つと言えるだろう。

――――で。
 2023年2月、その『キングダム』が演劇作品化した。それだけなら「ああ。いわゆる2.5作品ね」となりそうなものだが、東京公演の会場は栄えある帝国劇場(略して帝劇)。
  知る人ぞ知るどころか、多分演劇界隈に一度でも足を踏み入れたことがある人なら知らない人はまずいない、都内における…いや日本全体に広げても最高峰レベルの歴史と伝統に彩られた格式ある劇場だ。
 なにしろ名前からして『帝国』劇場、そんじょそこらの劇場とはいわば面構えが違う。

 近年、帝劇の運営元である東宝は漫画・アニメ原作の演劇作品に力を入れている印象があって、帝劇では『キングダム』以前にも『王家の紋章』『千と千尋の神隠し』などが大ヒットしている。
 また、伝統と格式の帝劇といってもわりと砕けたノリの作品も上演しているし(TDVとかTDVとかTDVとか)、そもそも昭和の昔はもっと大衆向けの作品ばかり上演していたという話もある。
 なので、漫画・アニメ原作の映画やドラマが世に溢れる昨今、漫画原作作品を帝劇で上演すること自体は「必然の流れ」なのかもしれないが。

 スタジオジブリの世界的名作、さらにジョン・ケアード演出であるところの『千と千尋~』ですら複数の意味で衝撃をもって迎えられたのに、今度はヤングがつくとはいえジャンプ作品。
 しかも最初に発表された主演俳優4人はみな若く、そのうえ全員がいわゆる2.5作品出身者。遅れて発表があった残りの俳優陣も若手が多いのに加え、声優界やアイドル界など普段のフィールドは様々。
 加えて制作陣にも主戦場がいわゆる日比谷界隈でない方々が複数いる。なので、言ってみれば「いつもの帝劇組」で固められた『王家の紋章』あたりとも違う。

 発表時、期待や歓喜の声とともに戸惑いの声が上がっていたのも理解できなくはない。正直言って自分もその一人だった。


 前置きが長くなったが。ここから先は前半後半で内容が分かれる。

 前半は主に未見者向けの、独断と偏見に満ち溢れた『キングダム』のすすめ。ネタバレは基本的になし。
 なんだかんだで遅くなった結果、2月の東京公演は終わってしまったが。その後も大阪・博多・札幌と5月半ばまで巡回していくので、見るかどうかの参考になれば幸い。

 後半は「メタ作品としての舞台『キングダム』」と題する放言。ネタバレありで根拠なし。キーワードは作品中に何度か出てくる「国境のない世界へ」。こちらは興味なかったら別に見なくても可。

 一応断っておくと、書いている人間はあえての原作未読に加え、昨今の2.5作品界隈にもアイドル界隈にも声優界隈にも、ついでに言えば宝塚界隈にもまったくもって詳しくない。
 なので認識が甘い部分や違っている部分などが多く見受けられると思うが、その辺はどうぞご寛恕願いたい。



◆公演基本データ◆


舞台『キングダム』

公式サイトはこちら 全キャスト名等は公式で。

 原作:原泰久(集英社週刊ヤングジャンプ連載中)
 脚本:藤沢文翁 演出:山田和也 音楽:KOHTA YAMAMOTO
 美術:松井るみ 衣裳:中原幸子 (以上 敬称略)

 東京公演:2023.2.5~2.27(帝国劇場)
 大阪公演:2023.3.12~3.19(梅田芸術劇場メインホール)
 福岡公演:2023.4.2~4.27(博多座)
 北海道公演:2023.5.6~5.11(札幌文化芸術劇場hitaru)

 公演時間:約3時間(2幕制・25分休憩1回&カテコ含む)
※貸切公演の挨拶等でカテコが延びてもほぼ3時間に収まるので、実際は2時間55分弱。
(※追記:福岡公演は休憩時間が30分なので終演が5分遅い)

 ちなみに、自分も開幕半月前まで勘違いしていたのだが。
「めちゃくちゃミュージカルっぽい面々が揃っていて作りもミュージカルっぽいが、ミュージカルではなくストレートプレイである」※超重要

 歌わんのかーい!と言いたくなる作りだがあくまでもストプレ。ただし、ミュージカルではないのに生オケ使用という贅沢さである。オケピはないが、カテコでオケの皆さんが紹介される。
 


◆あらすじ◆


 端的に言えば「秦の始皇帝の少年期、始皇帝と下僕の少年との物語」。

 紀元前200年代・春秋戦国時代の中国、秦国。孤児の少年・信は同じ身の上の親友・漂と共に下僕として昼夜働きながら、いつか天下の大将軍になる夢に向かい日々剣の特訓に励んでいる。
 ある日、秦の大臣・昌文君が彼らのもとに現れ、漂に王宮で仕官するよう迫る。片方のみが選ばれたことにショックを受ける二人だが、いずれ追いつくことを誓って別れる。

 しばらくのち、信のもとに瀕死の漂が戻ってくる。漂は大王の弟・成蟜の反乱を伝え、信に地図を託して亡くなる。漂の遺言に従い、地図、そして漂がなぜか持っていた立派な剣を手に旅立った信。
 地図が指し示した場所につくと、そこには漂とそっくり同じ顔をした少年・嬴政(政)がいた。驚く間もなく、信と政は刺客に襲われる。実は政は弟に反乱を起こされ王宮を追われた、この国の大王だった。

 政の身代わりとして漂が殺されたことを悟り激しく反発する信だが、紆余曲折の末に政そして途中で出会った河了貂とともに王都・咸陽へ向かうこととなる。
 一方、王宮では成蟜の後ろ盾である左丞相・竭氏のもとに、三代前の昭王時代の大将軍・王騎が現れ、「昌文君を討った」と生首を差し出す。

 政と信、そしてその仲間達は王宮奪還の協力を得るため、高い戦闘力を持つ少数民族・山の民の住む地へ向かうが。バジオウ率いる山の民により、半ば拉致のように政一人だけで彼らの王・楊端和のもとへ向かわされることになる。
 彼らの運命と成蟜の反乱の結末は? そして政が目指す秦の未来とは――――?

 
 原作アニメ実写映画、フルコンプしている友人が開幕前に教えてくれたのは

「発表されたキャラクターから察するに、原作なら1~5巻と紫夏だけ8巻、アニメ1期1~15話、実写映画1作目、の内容になると思う。
 予習したいならどの媒体でもお好きなものを。一番丁寧で見やすいのはアニメだと思うけど、15話見るのが長くて大変なら実写かな」


 自分自身は
「これだけ壮大な原作、しかも漫画で歴史ものとなると。下手に原作を読み込んでいた場合、内容によっては『原作とずいぶん違うなあ…』とがっかりしてしまいかねない。演劇と漫画では得意な表現方法が違うから」
 という、言ってみれば自分勝手な理由で原作を読まずに舞台『キングダム』に挑んだけども。

 それでもあらすじやキャラ等は知りたかったので、教えに従って実写版映画1作目だけアマプラかなにかで事前にざっくり見た。

 結果、友人の予想が大当たりだったのに加えて予習していた分わかりやすかったと感じたので、もし「舞台キングダム興味あるけど内容知らないんだよね…」と思う方がいらしたら、上記の友人の弁を参考にしてみてほしい。もちろん、この記事内でも充分わかるように書くつもりだけども。


◆キャラクター◆


 主要キャラクターと東京公演での各キャストの個人的な印象を一言で。
 日付重視でチケットを取ったためダブルキャストの見た回数にかなり偏りがある、ゆえに解像度の違いはご容赦を。

 基本的にキャラクターの中身の方々ではなく、あくまでもキャラとしての話なのであしからず。並び順はパンフ準拠。


…身分低い下僕の少年、だが夢はでっかく天下の大将軍。ひょんなことから親友・漂を失い、そこから王宮内の諍いに巻き込まれていく。

 三浦信→身体能力が山の民レベル。やんちゃで単純明快、どちらかというと脳みそ筋肉質タイプ(※褒めてる)。表情豊か。とにかく安定感がある。
 高野信→原作はヤンジャンだが週刊少年ジャンプの主人公感が強い爽やかさ。開幕初期は帝劇でこの発声法だと最後まで保つか少し不安になる感じだったが、回を追うごとに変わっていった。

…孤高の少年王。隣国の人質だった父と身分低い母のもとに生まれたため、登極までも登極してからも苦労の連続。信をもしのぐサイズの夢がある。
 …政とうり二つの少年で信の幼馴染み兼親友。死の間際に託したものが信の運命を大きく変える。※政と漂は兼役。

 小関政→演技が細かい。線の細さが孤独な少年王っぽい。開幕初期は少し声が小さいかな?と思っていたが、こちらも回を追うごとに聞き取りやすくなっていった。
 牧島政→声が太く王者の貫禄。2幕後半の檄の飛ばしっぷりは圧巻。初期の頃に2度当たったきりなので東京最終形態(?)は不明。
(追記:大阪福岡での印象→強そう。語調が強いので高圧的に見えるが、実はそうでもないのが随所に見える。)

河了貂…フクロウを模した仮面と衣服を常にまとう少女。偶然信と出会い、とある理由から政に協力して王宮に向かう。ダブルキャストの演技がわりと似ている。

 川島貂→動きが小動物っぽい。活発で表情豊か。カテコの挨拶が河了貂ポーズで、さらに梶壁(※東京のみ)と一緒だと昌文君主従も同じポーズをする。
  華貂→少年少女の間の未分化な印象。演技が細かく安定している。開演前の注意事項の声がキリッとしている。

楊端和…少数民族・山の民を束ねる王。登場時は仮面で顔を覆って声も変えている。戦闘力がすさまじい。椅子に虎の頭が二つついている。

 梅澤端和→見た目華やかで声が高いため仮面を取った時の落差がすごい。背が高い。若い女王といった雰囲気。
 美弥端和→いい意味で非常にドスが効いている。信や壁を掌上で転がしている感がある。強く逞しい支配者。

…昌文君の副官。本人曰く「良家の出身だが家柄関係なく能力の高さゆえに若くしてこの地位についた」。主君思い。戦場での経験は浅そう。楊端和に一目ぼれっぽい。

 有澤壁→良くも悪くも子どもっぽい部分が残っていて、からかわれると信&貂と同レベルに落ちる(※褒めてる)。軍議の時、楊端和をめっちゃ見ている。
  梶壁→生真面目ゆえの愛嬌がある。いい人そう。とにかく声がいい。正体を明かした楊端和に見惚れてぽやーっとしている。東京公演のみなのが残念。

成蟜…政の異母兄弟。王族の母を持ち、血筋が悪い政が王位を継いだことを苦々しく思っている…のを竭氏に利用されて反乱を起こす。傲慢な子ども。

 鈴木成蟜→「大臣間の権力争いに自意識が肥大した子どもが利用されただけ」感。色々吹き込まれた結果として性格が歪んでそう。こちらも残念ながら東京公演のみ。
 神里成蟜→「元々俺様全開で生きてたのを竭氏に目をつけられた」感。昨日今日はじまった根性の悪さではない(※褒めてる)。「死罪」の言い方が果てしなく憎たらしい(※褒めてる)。

左慈…人斬りを生業として生きる男。恐ろしく剣が立つ。王宮に乗り込んだ信達の前に立ちはだかる。こんなに有能なのになぜ成蟜に加担したのか謎。

 早乙女左慈→無機質。敵が近づくとスイッチが入る戦闘用アンドロイド感があるが、某きっかけで人間味が出る。流れるように美しい殺陣。
 HAYATE左慈→福岡&札幌公演のみご出演なので未見。
(追記:福岡公演のHAYATE左慈→「剣は力」の具現化。早乙女左慈がスピード特化型なら、こちらはパワー特化型。一撃一撃が超重そう。威圧感がすさまじい)

バジオウ…山の民のリーダー、冷静で勇敢な戦士。しなやかでアクロバティックな動き&二刀流で戦う。楊端和の配下だが、信とも壁とも相棒感がある。
 朱凶
…成蟜が差し向けた刺客、信の最初の敵であり漂の仇。かなり狡い性格。
(元木氏二役)

紫夏…政が幼い頃、隣国で出会った心優しい女闇商人。政を秦へ返すため、仲間の亜門&江彰と共に命を懸ける。信条は「恩恵はすべて次の者へ」。

  朴紫夏→したたかで海千山千感が強い。各関所でのおじさん転がしが手馴れすぎている。
 石川紫夏→生真面目感が強い。若さと笑顔でおじさんを転がす。朴紫夏と比較するとあまり裏技は使わない。

昌文君…秦の大臣。誠実で忠実な、政のほぼ唯一の臣下。現在は文官だが若い頃は武官、とにかく強い。見せ場は2幕の「空飛ぶ○○」、めっちゃ飛ぶので詳しくは劇場で。
(小西氏シングル)

王騎…政の曽祖父・昭王に仕えたかつての大将軍。ポイント出演だがやたら思わせぶり。昌文君と因縁がある。一撃の殺傷能力と声がものすごい。武器も甲冑も本人もとにかく大きい。
(山口氏シングル)

昭王…7年前に亡くなった在位55年を誇る偉大なる王。中華統一の夢を抱きながら志半ばで斃れる。仮面をつけている。王騎がただ一人慕う主。声が渋い。
 竭氏
…宮廷のナンバー2、左丞相。右丞相・呂不韋との権力争いの過程で、王弟である成蟜を担ぎ上げ反乱を起こす。物腰は重々しいがわりと小物。声が渋い(リプライズ)。
(壌氏2役)

幼少期信・幼少期政…子役2人ペアが3組いる。共に初舞台の一番幼いペアは可愛らしいが、小さいだけに台詞回しがかなり舌足らず。大きい子ペア2組は演技も台詞も安定。



◆ダブルキャストの選び方◆


…は、別にない(断言)。
 だが。いわゆる『いつものグラミュ感』東京でいえば帝劇感が欲しい方は、三浦・華・美弥・朴の安定感ある組み合わせが好みかなと思う。
 逆に『漫画原作感』狭義の2.5作品感が欲しい方は、高野・川島・梅澤・石川の若さと漫画っぽい華やかさがある組み合わせが好みだと思う。
 あくまでも個人的印象なうえ、多分チケット難でキャスト選んでいると買えない可能性大なので、そのあたりは参考程度に。

 なお、政のキャストを抜いたのは自分が牧島政にほとんど当たっていないのでどちらがどうと判断できないから、というだけの理由。ちなみに壁と成蟜は大阪以降シングルで、左慈は東京大阪がシングル。



◆ネタバレなしの見どころ◆



〇The・帝劇の機構全部使いまSHOW。
 あちこちに出現するセリ、回る盆、吊りもの、大量のターザンロープ(レディベス以外で見るの初めて)、変形合体するセット、プロジェクションマッピング、派手な照明、etcetc…この作品で今の帝劇終わるのか?レベルでフル活用される機構。
 ここまで景気よくあれこれ使う演目も最近少なそうなので、それだけでも結構な見もの。地方公演になると劇場が変わるので、その辺少し変更があるかもしれないが。
(※追記:ターザンロープは大阪で消滅、福岡で復活。基本的に大阪福岡とも帝劇より舞台が狭いので、キャラの登場方法等に多少の違いがある)

 ついでに言うと、機構ではないが帝劇の帝王こと山口氏の王騎も見もの。歌わないけれどロングトーンは聞ける。

〇舞台美術・衣裳・音楽。
 舞台美術はミュージカル界でお馴染み、信頼と実績の松井るみ氏。衣裳は開幕直前の『セブンルール』で密着ドキュメントが地上波放送された、同じくお馴染み・中原幸子氏。どちらの作品も緻密で美しい。

 音楽はアニメ版を担当されたKOHTA YAMAMOTO氏で、演劇界隈では馴染みがないのだが。場面ごとに雰囲気が違ってとても素敵。特に山の民関連のあたりとメインテーマ曲が個人的に好き。

〇殺陣、殺陣、殺陣。
 集団戦もあれば一対一もあるが、とにかく最初から最後まで殺陣が溢れている。
 キャラクターによって武器が違ったり、同じ武器でもキャラクターの特性によって雰囲気が違ったり、そういう部分を見るだけでも面白い。自己流を極めたがむしゃらな信の剣技と、師について習ったのだろうスマートな政の剣技。彼ら二人だけを取っても大きく違う。

 特に、左慈の必要最低限な動きから生まれる流れるような剣さばきの殺陣と、昌文君の得物を次々変えていく力強くなりふり構わない一連の殺陣。この二人のまったく違う殺陣の対比が見事。
 パルクール隊(主に山の民)のアクロバティックな殺陣や派手にやられる兵士達、バジオウ&楊端和の二刀流も素晴らしい。
 サウンドエフェクト(SE)が少ないと言われがちだが、その辺は普段見ているジャンルによる気がする。自分は特に気にならなかった。

〇主君と臣下の関係。
 政と昌文君、政と壁、昌文君と壁、成蟜と竭氏、昭王と王騎、楊端和とバジオウ、紫夏と亜門&江彰…物語中に登場する様々な主と臣下(部下・配下)。そのペアごとの関係性や信頼感(有無も含め)が面白い。

〇政をめぐる人間関係。
 物語の人間関係は大王である政を中心に広がっていく。
 孤高の少年王だった政が信と出会い、彼と行動を共にするにつれて広がる人脈と築かれていく信頼、成長していく青少年達。その積み重ねが王宮奪還へと繋がっていく。
 最初は殺伐としていた信と政も、共に行動していくうちに少しずつ互いへの感情を変化させていく。

〇ダブルキャストならではの妙。
 キャラクターのほとんどがダブルキャストなので演じるキャストによって少しずつ雰囲気が変わる。また、キャストの組み合わせによっても変わる。なので何回見ても新鮮に見える。
 誰と誰の組み合わせが好き、というのも(信と政以外も)多分見つかると思う。



◆グッズ◆ 


 詳細は公式サイトで。通販、そして東京・日比谷シャンテでも2023年5月末まで販売している。

 グッズ、一つだけ大きな不満を言わせてもらえば「取り扱いキャラが偏っている」。実写のアクリルスタンド&アクリルカードは信・政・王騎のみ、それ以外のグッズも基本はこの3キャラ&河了貂モチーフがメイン。
 クリアファイルやシークレットチャームは他のキャラもあるものの、なぜかハブにされてひとつもグッズがない成蟜・バジオウ・昌文君。

 一万歩譲って成蟜はダブルの片割れの中身さんがJのつく事務所所属だからかなと思うけども(チャームは関係なくない?と思うが)、バジオウと昌文君…キュー○いつからJ事務所準拠になった…? 
(※この二人は両方とも、中身さんが舞台関係でお馴染み・芸能事務所〇ューブ所属)

 今からでも遅くないので、せめてクリアファイルは主要キャラ全員出してほしい。できればチャームも、贅沢言えばアクスタも。この辺、多くの人がアンケートの束で殴…真摯に訴えたら叶うのだろうか。



 ここまでが舞台版『キングダム』のいわば紹介で、東京公演は全公演終了したが(完走おめでとうございます).
 2023年3月上旬段階でまだ大阪・福岡・札幌の各地方公演があるので、できれば軽率にチケットを取って見に行ってほしい。

 公演地が遠くても、ほら旅行支援とかなんとかスーパーセールとか、色々あると思うので。チケットも当日券やら譲渡やら入手手段は探せばあるんじゃないかなー、と。いや、詳しくは知らないけども。

 もちろん好みはあるので「誰にでも絶対刺さる」とは言わないが。もし「漫画原作」「メインキャストの大半が帝劇作品のいつもの面々ではない」などが迷う原因なら、それはほぼ気にしなくていいんじゃないかなあと個人的には思う。
 ただ「ミュージカルではない」は…それは…うん、たまにはミュージカル以外もいいんじゃないかな…。

 2月13日&15日、劇場に大がかりな撮影が入っていたが。今のところ何も発表がないし、仮に映像化されても舞台装置や殺陣などの迫力は映像では映しきれないと思う、ので。

(追記:札幌公演の前楽と大千穐楽の配信が決定。2023年4月上旬現在、配信チケット発売中なので「福岡と札幌は遠いわあ」って方はぜひ。
でも、個人的にこの舞台は生で見た方が絶対にいいと思う。福岡公演は公演期間長いがゆえにチケット取りやすいし、劇場がとにかく素敵なので、ぜひとも)


 で。この先は「メタ作品としての舞台『キングダム』」
 といっても作品の内容そのものではなく。意図的なのか偶然なのかわからない「過去と現在、そして未来の演劇界を映す鏡としての作品世界」…は、さすがにちょっと大げさに言いすぎだが。

 元テニミュ1stオタが見た、いわゆるグランドミュージカル界隈とそれ以外の界隈との話。今まで以上に独断と偏見、あと個人的感情に満ちているので、あっそういうの別にいいんでーって方は以降回れ右で。

(なお、ここでは東宝ホリ松竹梅芸などの大手興行主制作、かつ大劇場で上演される大作を、ミュージカル・ストレートプレイ・音楽劇ひっくるめて『グランドミュージカル界隈』と定義する。
『日比谷界隈』でもよかったのだが、首都圏以外の方だとわかりにくい可能性があるな、ということで)


◆メタ作品としての舞台『キングダム』◆


 舞台『キングダム』のメタ構造っぽさについては、結構な数の方が口にしていると思う。

 かつての大将軍・王騎と剣を交えた信が「覚えておけ、俺はいずれ天下の大将軍になる男だ!」と名乗り(※台詞うろ覚え)、一方の政は分不相応ともとれる中華統一の夢を語る。
 上でも書いたように、王騎の中身の人は帝劇の、いや日本ミュージカル界の帝王と呼ばれ、唯一無二のスターとして長く第一線で活躍する山口祐一郎氏。
 死に物狂いで戦ってきた若い信や政がいつか追いつき超えてやると高みの見物めいた王騎に挑み、軽くいなされるも先を楽しまれている構図は、そのまま伸び盛りの若い役者達と大スターとの関係のように見える。
 東京公演の会場が山口氏の主戦場・帝劇なのも、そう感じた人が多かった理由ではないだろうか。


 話をいったん変えるが。
 今年はテニミュ20周年のメモリアルイヤーだ。ミュージカルテニスの王子様略してテニミュと言えば漫画アニメ等が原作の舞台、いわゆる2.5作品の先駆け的作品であり、爆発的な人気でジャンルを確立した立役者の一つでもある。
 そこから巣立っていった数百人のキャスト達の進路は多種多様で、人気を博する役者になった者も多く、舞台演劇でも映像演劇でも卒業生の顔を見ない日はほぼないほどだ。この舞台『キングダム』にも複数の卒業生が出演している。

 そして、テニミュが始まった頃には数えるほどだった漫画・アニメ・ゲームを原作とした舞台作品も年々増えて2.5という巨大ジャンルを築きあげ、メガヒット作も少なくない。なのでテニミュ以外の2.5作品出身者も当然ながら多数いる。
 いまや2.5作品は宝塚や劇団四季と並ぶ、グランドミュージカル界隈の卒業生プリンシパル供給元状態だ。――――だが。最初からそうだったわけでは決してない。

 2003年に始まったテニミュ、その出身者が初めてプリンシパルとして帝劇に立ったのは2007年夏、今から約16年前。アンサンブルでの帝劇出演者はその前からいたが、メインキャストの1人として出演したのはその時が初だった。…まあ、ぼっこぼこに叩かれた。ご本人もファンも。

 制作発表を見に行った友人は作品を100回以上見たという見知らぬマニアから「テニミュ上がり特撮上がりが(作品名)に出るなんて」と面と向かって言われたし、自分も観劇時に列で一緒になった見知らぬ人に誰目当てか聞かれ、正直に答えたら「漫画舞台に出てたんでしょ?今(某掲示板)でめちゃくちゃ叩かれてますよね」と鼻で笑われた。あまりの悔しさに何年たっても言うけども。

 その後、徐々に大劇場の大作に2.5作品出身者が出始めたが。当時、リアルもしくはネット越しにその手の嫌な思いをした2.5作品&出身者ファンは少なからずいたのではないかと思う。

 そしてある女性声優ファンの友人からも、彼女の贔屓が初めて大作ミュージカルに出演した十数年前、同じように「アニメ声優が出るなんて」的に叩かれたとの話を聞いた。
 自分は寡聞にしてアイドル界隈のことはよく知らないのだが、多分先駆者達はどの界隈も似たような状況だったのではないだろうか。

 舞台『キングダム』劇中で王弟成蟜は下層階級出身の臣下を理不尽に殺させ、こう叫ぶ。「我慢ならんのだ、こういう輩が」
 努力しようが才能があろうが下層の人間はどこまでいっても下層、そういう人間が目に入るのが許せないと死体を足蹴にした成蟜はのたまう。
 彼は政の母親や右丞相・呂不韋の出自を馬鹿にし、少数民族である山の民を「山猿」と侮蔑する。信達にいたっては身分低い者が自分と同じ空気を吸ったという意味不明な理由で死罪を申し付ける。
 また、成蟜側の武人・魏興も山の民を面と向かって「猿」と呼ぶ。

 この世界で山の民はただ民族が違うという理由だけで差別される。また、出自の違いで人の価値が勝手に決められる。国と国とはいがみ合い争い、無益な血が流れる。――――どこかで見た構図な気がしなくもない。
 

 ただ。自分もグランドミュージカル界隈の浅瀬に足を踏み入れてそこそこ経つので、他者を嘲りめった打ちにするのは論外としても、異ジャンルからの参入に既存観客が警戒気味になる理由は正直わからなくもない。
 各界隈ごとにそれぞれ演者に求められる資質や演技や歌い方や表現方法その他諸々は違う。ある界隈で素晴らしいと評価されているものが必ずしも他の界隈でもそうとは限らないし、違和感が出ることもある。

 そして全部が全部ではないが、複数の界隈の一部にある「公演を重ねていくことで最初は拙かった演者が成長していく姿を見守る」という応援方法、それはグランドミュージカル界隈ではほぼ通用しない。
 プリンシパルだろうがアンサンブルだろうが若かろうがベテランだろうが、板の上に立つ以上は公演初日の段階で観客を満足させる実力をすでに持っているのが前提条件となる。

 さらにこれは演者側ではなく観客側の話だが、別界隈の流儀をそのまま持ち込んでトラブルになる事案がちらほら発生することがある。今回の舞台『キングダム』でも東京初日にうちわ&タオル事件が起きた。
 自分も過去の観劇で、カーテンコールや本編上演中にマフラータオルやボードを掲げただの、派手な頭飾りのコスプレ観劇だの、客席で帽子かぶったままの人々大量発生だの、様々な事案に遭遇したことがある。
 そういうことが続くと「他界隈からの出演者はちょっとねえ…」という評価になってしまいがちで、だからこそ観客側の意識も非常に大事なものになる。


 話がずれてしまったので元に戻すと。
 今回の主役4人は全員2.5作品出身者で、他のメイン出演者も2.5・声優・女性アイドル・男性アイドルと他界隈からの参入者が多い。制作側も含め、様々な界隈で活躍している人々が集まってできた作品だといっても過言ではないと思う。

 物語の中で政が何度も口にする言葉、「国境のない世界」。全国境を排除して一つの大きな国とする、それが秦の大王としての彼の夢だ。成蟜の反乱を鎮めるのはその第一歩に過ぎない、だから手を結びあおう、彼は山の民の王・楊端和にそう語る。
 その言葉はこの舞台『キングダム』そのもの、そしてさらにその先の、未来のグランドミュージカル界隈へと続いていく言葉でもあると勝手に思っている。

 まったく流儀の違う他界隈からグランドミュージカル界隈という、よそと繋がる扉の先はひたすら茨が広がる過酷な場所に足を踏み出した過去の先駆者達は、ひたむきな努力で周囲を黙らせ道を切り開いていった。
 そして後に続く人々がその道を広げ、他界隈出身者達がグランドミュージカル類に出演することはそう珍しくなくなっている。それどころか今年はテニミュ出身者初の帝劇単独主役作品も控えている。
 逆にグランドミュージカルのメイン級で活躍する俳優達が2.5作品に出演することも近年では増え、界隈と界隈、国と国の境はどんどん薄れている。どこ出身という言葉はレッテルではなく、ただの「何県生まれですか」くらいの意味しかなさなくなっていく、すでにそうなりつつある。

 そして。
 政の唯一の家臣・昌文君。かつて昭王の下で王騎とともに戦場をかけた元武人で、2幕終盤に王騎が現れた時は彼から政を守ろうとする(実は、原作や実写映画だと昌文君は王騎に守られていたと後で判明するのだが)。
 その中身の人である小西氏は、上で挙げた約16年前の「テニミュ出身者初の帝劇プリンシパル」であり、その出演時に王騎役の山口氏と義理の父子役で共演している。
 テニミュ初の他校キャストの一人だった彼は、テニミュ20周年の今年、十数年ぶりに帝劇作品に出演した。そしてメインキャストに若手が多いカンパニーを山口氏とともに年長キャストとして支えている、まるで昌文君その人のように。それもまた、偶然が産んだメタ構造の一つなのだろう。
 テニミュ1st時代、ゆうぽうとや(旧)日本青年館に通いまくった懐古オタクとしては非常に感慨深いものがある。


 脱線を繰り返してすっかり長くなってしまったが。
 色々な意味で舞台『キングダム』は帝劇作品のターニングポイントであり、グランドミュージカル界隈の今と未来を映す作品でもある(気がする)。
 なかなかのチケ難ではあるのだが、これからカンパニーは大阪・博多・札幌と約2ヶ月かけて回っていく(2023年3月上旬現在)。きっとどこかではチケットが取れると思うので、興味があったらぜひ見に行ってほしい。
 個人的には博多座がお勧め、公演期間長いし劇場は音がよくて見やすくて綺麗だし空港も新幹線駅も近いし、ご飯美味しいし。

 そんなわけでここまでご清聴(聴?)ありがとうございました。まっとうな感想はきっと別の誰かが書いててくれる…というか見たいので書いててほしい。