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運命の巡り合わせは、ラブホテル

私、21歳。季節は、夏。
恋愛体質。メンヘラ。
彼氏に振られて、髪を切った。

この年、男の人との付き合い方が少し楽観的になった。
男友だちが欲しかった。
恋愛相談を気軽にして、ご飯だけ食べて、さっと送ってくれるだけの、友だち。



7月末、土曜日。大好きなパン屋巡り。
これは女友達。
散々食べたのに、飲みに行く話に。
コロナ禍でめったに会えなかったし、積もる話もいろいろあった。
3ヶ月ぶりくらいにあれこれと話した。
その時、突然

"ねえ、誰か呼ぼうよ"

"私さ、1人めっちゃ面白くて呼びたい人いるんだよね、呼んでいい?"

「それって男?」

"うん。あ、別に嫌だったら大丈夫だよ。"

私はもともと、男女の友情は成立しないと思っていた。
偏見と無知のおかげで、何かにつけて男を呼びたがる女が嫌いだった。
でもまあ、特に拒否する理由もなく。
彼氏いないし。てかいなくなったし。

「いいよ」



俺、21歳。季節は、夏。
都内アクセスそこそこの場所に、上京して一人暮らし。
趣味ハードスケジュール、特技フッ軽。
彼女いない歴、2年そこら。
好きな女の子に振られたばかり。
大学の単位を取り終わって、もう授業がほぼないから地元に戻ると決めていた。
引っ越しは明日なのに荷造り終わってない。
友だちに手伝いに来てもらったのに、話してばっかりだったな。


電話

"ねえ、今日空いてる?"
"今友だちと飲んでるんだけど、来れない?"

まあこっちにいるのも最後だし、たまたま予定ないし
どうせ振られたばっかりだし
終わってないけど行くか

『いいよ、明日引っ越しだから終電で帰るけど』


土曜日夜の渋谷。
待ち合わせて向かった、チェーンの居酒屋。
『あどうも、こんばんは。』
『え年上?』
"いや、同い年だよ"
「あ、どうも、、」
この時の私は、とてもぎこちなくて、本当に冷たかったと思う。

『俺、コークハイで。何飲む?』
その男が聞いてきた。
「あ、コークハイで、、私、1番好き。コークハイ」
『え、俺も』
「え、ほんと?私、ハイボールばっかり飲むんだよね。」
『そうなんだ。ハイボールが1番飲みやすいよね。お酒の種類で1番飲むかも。』


友だちが少ない私は、ハイボールが飲める人にあまり出会ったことがなかった。
話してみると、彼との共通点が多くて驚いた。

他にも
古着屋が苦手では入れないこと、甘党なこと、絶叫が苦手なこと。
型にはまらないこと、衝動的に行動しちゃうこと。
初めて会ったはずなのに、苦手なこともさらけ出して話していた。

「女性のどんな服装が好きなの?」
『うーん、Tシャツにスカートにスニーカーとか?』

まさしく、その日の私の服装だった。
後日真意を聞いたところ、初めからこういう系統がよかったらしく、例えるならそういう服装という意味で言ったらしい。

気付けば、共通の友人を差し置いて2人で話していた。
"ねえー、もしかして私置いていかれてる?"
友人がそう言ったくらいだ。

あっという間に終電まで残り10分になった。
帰らなければと一瞬思ったが、帰りたくなかった。
どうせ1日限りなのだから、終わらせたくないと思った。
「これ3人まとめて終電逃しそうだね」
彼が口を開いた。
『俺も多分間に合わないわ』
"動ける気がしない"
集合が遅かったこともあり、結局終電を逃した。

そのあと、どこかへ移動しようという話になった。
カラオケに電話しても、この日は土曜日の夜。
どこも満室、入れても3時間で終わり。
そこで行き着いたのは、3人で入れるラブホテル。
現金がないことを思い出し、そう言うと
『いいよ、俺出すから』
ほとんど全額を出してくれた。

部屋に入るなり、話がまた始まる。
酔っ払いなので、何度も同じ話をする。
仕事の話、将来の人生計画の話、恋愛の話。
もう何を話したかも、覚えていない。
ちょっとして、飲みゲーが始まった。
3人でこじんまりしながら飲みゲー、なんか変な感じ。


そこにいる友人が買ったタバコを、彼女が欲しいと言った。
さっきまでタバコが嫌いってあんなに言っていたのに。
俺とその友人は喫煙者。

『無理しなくていいよ』

「吸うの」

カプセルも潰せてないし、ライターも使えてないし。
しっかり吸わないからタバコにも火ついてないし。
これただふかしてるだけだし。

不覚にも可愛いな、と思った。



さらに酔いが回り、YouTubeを見ることになった。

ドライフラワーを誰かが流した。
私はまだ元彼に未練タラタラだった。
歌を聞いて思い出して、思いっきり泣いた。
今考えれば、全く意味がわからない。
友人は慰めてくれた。彼は元彼はこんなにいい子を振るなんてもったいないと言ってくれた。

友人が勝手に寝た。私たちは2人になった。
こんな人なら、男友達もいいなと思った。
ただ話し続けて、いつの間にか私も寝ていた。

朝起きると、彼はいなかった。
そういえば、今日引っ越しだったのか。


引っ越しなのに、一睡もしていない。
楽しかったからよかったけど。
そういえば連絡先、聞き忘れた。
今度は2人で会いたい。
友人伝いに連絡先をもらい、メッセージのやり取りが始まった。
時々電話もかけてくれて、嬉しかった。
電話した日は、オールして朝まで話した。
次遊ぶ場所も決まったし、日にちも決まった。
これ、もしかして望みあるか?


彼は、行く場所の候補もすぐ出してくれた。
車で迎えに行くからと、2人の中間地点あたりの駅で待ち合わせた。
ドライブ中も、絶えず話題を振ってくれるし
寒くないか、気分悪くないかと聞いてくれた。
ご飯も、レンタカー代もほとんど出してくれた。

「今度は飲みに行きたいね」
『うん、俺もまた一緒に飲みたい』
「今日行く?明日予定があって終電では帰らないとなんだけど」
『あと1時間しかないよ、大丈夫?大丈夫なら行きたい』

こうして私たちは、ハイペースにお酒を体に入れた。もちろん終電も逃した。
2人ともありえないくらい酔っ払っていた。
距離も近かった。
もう元彼のことなんて、忘れていた。

彼が『ねえ、移動しよう』と言った。
私たちはカラオケに向かった。


『ねえ、俺も男だよ?無防備すぎる。ホテル連れて行っちゃうよ?』
「いいよ」

カラオケに入るなり、私の記憶はほとんどない。
もうゼロ距離だった。
私が覚えているのは、この言葉のやりとりだけ。

私が気付いた頃には、ホテルで朝を迎えていた。
というより、始発は動いていたけど帰りたくなくてホテルに向かった。
事も済んでいた。
私は、次の日約束していた友だちに申し訳ないと思いながら、彼にも酔っ払ってこんなことになって申し訳ないと思った。


彼がこちらに寄って、口を開いた。
『ねえ、順番間違えちゃってごめん。でも俺、好きだよ。付き合って。』

嬉しかった。
私のことを好きになってくれるなんて
元彼のことがあんなに好きだったはずなのに、もう彼に夢中だった。
ホテルで告白されていなければ、そういう目的だったと、二度と会わないつもりだったから。

「うん。よろしくね。」


ラブホテルって、なんでもあって
風呂も入れて、2人になれて、大声で歌っても防音だし
場所によってはYouTubeやアマプラが見れたり
Wi-Fiがあったり
サウナがついていたりして
最強だと思う。

初めて会った日のラブホテル
初めて2人で遊んだ日のラブホテル
この条件がなければ、私たちの今はなかった。
ひとつもずれがなかったから、世界で1番好きな人になった。

ソファで涙を流して語り合った日もあった。
ベッドに座って、お笑い見ながら寝っ転がった日もあった。
酔い潰れてお風呂に顔を突っ込んだ日もあった。
カラオケがついてる部屋で歌いまくった日もあったし、ダーツをした日もあった。

遠距離だから、会う時はいつも泊まりで
実家暮らしだからいつもホテルで
部屋に入った瞬間、まず風呂を確認する時も
ソファで2人、タバコに火をつける瞬間も
どの瞬間も、全部大好き。


運命は、決して偶然ではない。
その時その選択をした、私と相手の相互作用がなければ生まれない。
前の彼への未練とか、心の闇とかを消し去ってくれた彼が
私を連れて行ってくれた場所
私たちの恋は、ラブホテル から始まったなと
この選択がなければ、私たちが出会うことはなかったと
ラブホテルのソファで寝ている君を見て、思い出した。

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