『君が君で君だ』〜kaf

今年観た映画の中で『シン・仮面ライダー』を除けば、トップに大好きな作品。(といっても本作は2018年の映画だが…)

主にありがちな、劇場で観たかったけど見逃してしまった映画を遅ればせながら楽しもうシリーズ。
満を持して鑑賞。

最高でした。
“愛し方”って人それぞれ違いがあって全然よくて、一つとして全くの批判を受けない愛情はないと思っている。
だって、なにかを愛するってもの凄く主観的な感情だから。

その愛が最も強くなるのは、外からの評価や批評や批判の影響を全て切り捨てた時だと思う。
自己中になればなるほど愛は、良くも悪くも盲目的になる。

この映画の主役3人はとある女性を愛した男たち。
その愛の徹底っぷりが凄まじい。

まず3人は自分の名前を捨てて、その女性が好きな著名な男性の名前を名乗っている。

尾崎豊。
ブラッド・ピット。
坂本龍馬。

自分が相手にとって理想的な存在でいられるよう、祈りを込めて自分に自分で名前をつけたのだ。

彼らは彼女にとって理想の男性として生まれ変わり、彼女の住むアパートのベランダが覗ける向かい合わせのアパートに住み込み、彼女の生活の安全を守る愛の戦士として2度目の人生を歩み始めた。…はずだった。

が、彼らがやっていることはほとんど覗き行為の域を出ない。盗聴機まで仕掛け、日々の生活を監視していた。
彼女にはDV彼氏がおり、暴行を受ける音が3人の部屋にもスピーカー越しに響く。
そんな緊急事態を前に彼らは、彼らの部屋にある祭壇に一斉に集まって祈りを捧げ始める。
彼女に平和と幸せが訪れるように。

彼ら3人は、彼女の人生に直接的に全く干渉しない。
あくまで傍観の姿勢。
いざ、彼女が危険な場面に出くわしてもただただ祈る。

そんな彼らを客観的に見るYOUと向井理演じる取り立て屋。
普通なら取り立て屋と言えば暴力的で忌み嫌われる立ち位置なのだろうが、今作はやけにこの2人に親近感を持たせる。
主人公3人に対しての目線も意見も、至極真っ当だからだ。
「気色悪い」
2人の主人公達に対する感想はこうだ。

主も客として観ていて、この2人に共感する。
取り立て屋に共感するような映画なのだ。
愛が強くなり過ぎると、もはやヴィランとも取れるようなキャラクター達に共感し始める。
それほどに、主人公3人の愛はどこまでも主観的で独善的なのだ。


個人的にこの映画での好きなシーンは大倉孝二さん演じる坂本龍馬の「少し…切ないです。」のシーン。
ここが1番好き。

独善的でも自己中心的でもいるわけにはいかなくなった時、心の中にほんの少しの社会性が残っていた時、自分を貫き通すことをほんの一瞬諦めてしまった時。
そんな時、きっとこのシーンの大倉さんのような言葉が出てくるのだと思った。


本当に、絶妙なところをついてくる演出。
まさにその時その場でしか出ないであろう声や表情。
すごい。

人生の折々で観たい映画。

この主役3人のようにはなにかを愛することはとてもできないけど、でも、激しく憧れてしまう。

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