『放課後ウィザード倶楽部』感想戦

(筆者注:購入者の方から「コメントができない」という意見を頂いております。どうもnoteではアカウントとIDが別の概念らしく、アカウント取得段階で記事自体は買えるけれど、IDを取得せねばコメントはできないようです。IDの取得方法もよく分かりませんが、とりあえず私をフォローしようとすれば取得できるらしいです)

 本稿は拙著『放課後ウィザード倶楽部』が打ち切りとなった事例を分析し、後学のためとするテキストである。主な読者対象としては、友人の同業者たち(本業は小説家であるが漫画原作を行っている人、もしくは行う予定のある人)を予定している。

 というのは、本作は小説で原作を描き、それを漫画化するという作業工程を取っていたが、その工程において幾つかの技術的な問題が発生していたからだ。これらの技術的問題はおそらく知っていればある程度まで対処可能なはずである。本稿を読むことで、私が陥ったのと同じ幾つかのミスを回避することができるだろう。

 また、漫画編集者にとっても本稿は有意義かもしれない。小説を原作とする漫画連載に関して、おそらく漫画編集者は「何らかの技術的な難しさ」を薄々感じていると思う。だが、そこにどのような問題点が生じるのか、これまで誰も明確に言語化して来なかったと思うのだ。本稿を読めばある程度までそれに備えることができよう。

 小説原作には幾つかの問題がある。だが、現に小説原作で成功している漫画作品は存在するので、決して無理ではないはずだ。本稿が小説家と作画家の間の調整の一助となれば幸いである。本稿の最後には編集者向けの提言をまとめてある。

 このような内容であるから、本稿は技術的な話が多い。創作に関わらない人でも知的好奇心を満たせるように書いたつもりではあるが、ファンブック的なものではないので、そういった期待には答えられない。また、『放課後ウィザード倶楽部』の内容に非常に満足しているという人も読まない方が良い。分析上必要なこととは言え、要らぬことを知ってしまい、満足感が減じる可能性がある。

 以上の前提を踏まえた上で、分析に興味を持たれた方は本稿を購入して先へと進んで欲しい。なお、私一人の分析では客観性を欠く可能性があるため、私の分析を前提として、江藤氏(漫画原作者)との対談を行い、氏の視点を得ることで客観性を補完せんと努めている。

■本稿の構成

一章:総論(作品の打ち切り理由や小説と漫画の差異などについての筆者の分析)

二章:各論(一話ごとの気付きや、コメントなど。総論に出てきた技術的な問題の具体例)

附論:創作について(創作に関する私のスタンスについて。ややエッセイ的な内容)

三章:議論(江藤氏と架神の「総論」に対するディスカッション)

<一章:総論>

【0:前提】

i)作業工程について

 分析を進める前に前提知識として、本作の作業工程を記しておく。

<20話まで>

1、原作の架神恭介が小説を書き溜めておく

2、作画の渡辺先生がネームにする

3、架神、渡辺、担当氏が議論し、ネームを修正する

<21話以降>

1、三者間での打ち合わせにより次の展開を決める

2、架神がプロット→小説を書く

3、三者間でチェックし、必要に応じて修正する

4、作画の渡辺先生がネームにする

5、架神、渡辺、担当氏が議論し、ネームを修正する

 私は『こころオブ・ザ・デッド』の方ではネームを描いているが、本作ではネームは描いていないことにご留意頂きたい(修正過程で部分的に描くことはあったが極一部である)。

ii)打ち切りについて

 なぜ打ち切りになったかというと、概ね単行本1巻の売上であると思われる。本作の場合は2巻の売上の初動(発売後一週間くらい?)も見てもらえたようだが。

 今はジャンプ、マガジン辺りは例外だが、ほとんどの漫画は誌面人気ではなく単行本の売上で存続が決まる。週刊少年ジャンプ(とマガジンもか?)を除くと、雑誌は基本的に利益が出せるものではなく、単行本で利益を出していくものなので、雑誌での人気があっても単行本が売れなければビジネスたり得ない。だが、今の世相からして今後はジャンプやマガジンでもアンケの影響は小さくなっていくと思われる。

 本作の誌面アンケートは話によって乱高下していたが、概ね右肩上がりであり、着実に票数は伸びていた。アンケ順位だけで言えば、打ち切りになるような数字ではない。なので、打ち切りに関してだけ言えば、序盤が採算ラインを突破しなかったことが原因と言えよう。というわけで、以降の分析も序盤の伸び悩みを主な主題とする。

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