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オーシャン・ヴォンの小説、日本語訳が出ます


ベトナム系アメリカ人の詩人/小説家、オーシャン・ヴォン初の小説、
“On Earth We're Briefly Gorgeous” の日本語訳が8月に出ることを、オーシャン自身のインスタグラム投稿(ストーリー)で知りました。日本語のタイトルは『地上で僕たちはつかのま輝く』。出版社は新潮、クレセントブックスの一冊となるようです。


私がこの小説のことを知ったのは昨年の1月、やはりインスタグラム、マット・ボマーのストーリーからでした。読書家の彼は2019年に読んだ本で特によかったものを数冊紹介していて、その中にオーシャンの小説も入っていたのです。おそらくそこにオーシャンのインスタがリンクされていたのでしょう。それを見て、オーシャン・ヴォンという詩人/小説家と、その作品を同時に知ることになったのです。


(ちなみにオーシャンもマット・ボマーもオープンリーゲイで、マット・ボマーは実業家のサイモン・ホールズと結婚、三児の父でもあり、オーシャンもパートナーである療法家の男性と10年以上一緒に暮らしています)


“On Earth We're Briefly Gorgeous” の内容は、ベトナムに生まれ、2歳まで難民として暮らし、その後アメリカで祖母、母という二人の女性によって育てられたオーシャン自身の人生を反映したもので、英語の読めない母親にあてて英語で書かれた手紙という体裁をとっています。その中で、前述したオーシャンのセクシュアリティは、全体を貫いて流れる主旋律ともなっています。

私は、この小説が読みたくて読みたくて、原書では無理と知りつつ、一行ずつでも辞書を引きながら頑張ってみようという殊勝な決意を胸にAmazonに注文して、昨年二月中旬に入手しました。このときに、詩集
“Night Sky with Exit Wounds” を一緒に注文(この詩集でオーシャンは2017年にTSエリオット賞を受賞しています)。見出しに使った画像はその二冊を写したものです。


おそらく8月の出版以降、オーシャンの小説は“LGBTQ”の5文字とともに話題になるでしょう。しかし、“LBGTQ“による作品であるかどうかによらず、オーシャンの詩人/小説家としての資質が日本でも知られ、正当に評価されて、既刊の詩集や新しい作品も日本語で読めるようになることを強く望みます。


【蛇足】一行ずつでも辞書を引きながらとの殊勝な決意は、ほぼ決意倒れに終わったのですが、一か所、大きな発見がありました。オーシャンはこの小説のヒントを、ロラン・バルトの『喪の日記』から得たようなのです。

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『喪の日記』は最愛の母を亡くしたバルトが綴ったかなり陰々滅々とした日録で、私が大切にしている本でもあります。公言はしていませんでしたが、バルトもまた男性同性愛者でした。


オーシャンの母親は2019年11月、51歳という若さで亡くなりました。しかしそれは、息子がアメリカで文学者として認められ、自分たち家族の物語を書いてアメリカのみならず世界中で称賛を得たことを確認した後の死でした。子(オーシャン)のみならず、その母も「つかのまの光」をしっかりと浴びたことに、私は感動します。




オーシャン・ヴォン(Wikipedia)
オーシャンのInstagram




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