かけはし岸子

随想録

かけはし岸子

随想録

最近の記事

50にして森に住む かもしれない

 去年、失業したわたしはなんやかんやで いま職業訓練校に通っている。 仕事を辞めてから、突如 「小屋を建ててみたい!」という衝動に駆られた。  大工仕事に憧れていた。 女子だし50歳だしやったことないし....なんて言ってる暇はない。やりたいことはすぐやらねば! やって出来なかったら、そのときに考えることにする。 そして、小屋があるのは森の中でなければ。 小さくていい。いや、小さい方がいい。 わたしひとり用。 鳥の声で目を覚ます。 早起きして草を摘んで朝ごはんにする。

    • CAD超初心者がみつけたこと

       突然の思いつきで、CADを習うことにした。 たぶん苦手だろうな、と思っていたが 案外たのしくて 変な感じ。いい意味で裏切られた。 習い始めて3日しかたってないが、しあわせの法則を見つけてしまった。CADで。 CADにはレイヤーってのがある。 あ、そもそもCADって製図用のソフトなんですよ。 そうだよね? で、レイヤーなのですが、 製図の部品を透明シートに書き取り 重ねて全体になるという仕組みのこと。 で、ほんとうには何枚かにバラして描かなくちゃならないところを間違え

      • 夜くる とり

         ベランダでバサバサと羽音がする。 台所で皿を洗っていたわたしは手をとめた。 窓に 明かりを消した暗いリビングが映っている。 眠たい顔の女がひとり。 自分なのに、どこかよそよそしくみえた。  夜に鳥が来るのはめずらしい。 昼間には小さな鳥が来ることがあった。 あれは確かヒヨドリ。 いつも窓を開けようとしただけで、飛び立ってしまう。  夜くる鳥とはどんなものだろう。 姿が見たい。 流れる水を止め、静かにタオルで、手を拭く。 近づいたら逃げてしまうだろうか。 部屋の中から姿

        • 【百小説】006

          このさよならは わたしだけのお守りになる。 きっといつかはなる。 少し目は腫れてるけどコンビニで アイスコーヒーを買うんだ。1番大きいの。 がぶがぶとビールみたいに飲んじゃうんだからね。 苦いなぁまだちょっとだけ。

        50にして森に住む かもしれない

          真夜中の百歳

           あんまり自分の歳について考えたことがない。 「何歳になったの?」って聞かれて 「たぶん、43か42か、あれ45だったかも。そのくらい」と答えてカンシンされたことがある。 これは、大人になっての現実逃避ってことでもなく、ごく幼い頃からの馴染みの考え方だから仕方ない。数字に弱すぎる、ということはあるかもしれない。年齢でいろいろ分かれてることの方に違和感がある。 ひとの歳にも関心がない。 歳の割にはこうだ、という感覚がない。  男だから女だから、という感覚も薄い。 だから自分

          【百小説】005

           春。朝から庭をみている。 ぱらぱらと天気雨が降っている、と思ったらゴウと風が吹きつけて桜が舞う 窓は花びら模様  黒猫がツツジの花びらを齧りにきた赤いのだけ食べてる 夕空が庭を隠してそろそろ鴉の番がくる頃 2024/01/05 かけはし岸子 ちいさくてひろい百文字をあなたに....

          【百小説】005

          【百小説】004

          一番星に願う6文字熟語 衣食住皆安心 衣食住皆安心 衣食住皆安心 夜オバケがでそうになったら唱える 昼迄待機希望 昼迄待機希望 昼迄待機希望 とりあえずいいことあってもなくても あなたの名前を唱える 百年目に会えるように 2024/01/04 かけはし岸子 ぴったり百文字ジワジワくる【百小説】 あなたの暮らしの句読点。【百小説】 あなたのかわりにするため息【百小説】

          【百小説】004

          【百小説】003

          (じつは、神様からお役目をもらってね)といい出す母に内緒にしていたことがある。そもそも私は、神様からお役目をもらって、といい出す傲慢な母を嗜めるというお役目を神様からもらって、あなたの腹に入ったのだ。 ぴったり100文字。2024/01/04 かけはし岸子

          【百小説】002

           夢と現を散歩中の、百歳の祖母は毎朝、バナナを半分食べる。 その様子を伺いにくる男の子がいる。 「ほら、あんたも」 「いつもにこにこしてるねぇ」と話しかけている。 私には見えないけど半ズボン履いてる気がする。 2024/01/03 かけはし岸子

          【百小説】002

          【百小説】001

           電車に乗ってから、 マスクをしていないことに気づいた。 焦る。 ハンカチ ハンカチ。 鞄に手を突っ込んで探すが、中身は漆黒の闇。 遥か底のほうに黄色くて丸い🟡のが動いている。 あ、ひよこだ。 そんな夢をみた。 2024/01/03 かけはし岸子

          こみんか こわい

          静かすぎる。 シーンって 空気に書いてあるみたい。 サイレンも猫の鳴き声も。 風の音さえきこえない。 古民家にひとり暮らし。 築70年だというが、正確にはわからないそう。 襖の暗がりから何かが見てるような.... 天井の木目も奇妙なシミに見える ひたひたと ぬるぬると 暗がりが、夜の暗さがこちらを覗いている。 こどもの頃の怖い記憶や妄想が、 あたかもリアルにそこにあるようだ。 ひとり暮らしは初めてではない。 でも、いつも人の気配くらいはあった。 なんと貴重な経験

          こみんか こわい

          もちこわい

           お正月に餅を食べると、血を吐いて死ぬ。 一家離散する。 って、おじいちゃんから言われて育ちました。 こわっ。  元旦にはおせちとお赤飯。 芋やこんにゃくの入った醤油の汁。肉なし。 みんなもお正月にはこんな食事をしてると思ってました。 たべるな、と言われると余計に食べたくなる始末。 だけど、死にたくない。  結婚して苗字が変わって、最初のお正月に生まれて初めて「雑煮」というものを作ってみました。 神聖な餅がどろっどろになってしまいました。 だってさ、食べたことないん

          めんよう

          それは古びた中華料理店でした。 昼休みはとうに過ぎています。 お客さんがひいた後でしょうか。 洗い物をしている音が止み、 奥のほうから少し腰の曲がったおばあさんが出てきました。 ——ふたりですけど、大丈夫ですか。 ああ、どうぞ。 おばあさんは4人掛けのテーブルを指差して 決まったら...と呟いてまた奥へ戻って行きました。  二十数年前、わたしは神保町の小さな広告制作会社に勤めていました。終電で帰るような毎日でしたが、仕事は楽しくやりがいがありました。 そして、今日はお昼

          わかめめがね

           クリスマスの朝、久しぶりに大川くんの「わかめめがね」の夢をみた。  12月上旬から体調が悪く夜中に咳が出て2時と4時に目が覚める。暗くて寒い部屋でひとり咳混むとき、世界には孤独しかないな、と思う。 結局、こんなときはひとりで誰も味方なんかいない。枕もとに置いた水を飲む。 どこにもだれにも繋がってない自分のために、冷たい水を飲ませてあげる。ふーっ、と息をはいてまた咳こんで、落ちついてきたら横になる。    わたしは小さい頃、食べることが辛くてしかたがなかった。何かを口にすると

          わかめめがね