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モナリザの微笑み 〜 予言するひとたち


何年前だろう

二番目の夫と渋谷で暮らしていた頃だから
かなりの時が経つ

その日は ひとりで 新宿の通りを歩いていた
少し年配の中年の男に声をかけられて
喫茶店に入った

ナンパとか 誰かに声をかけられても
聞こえないふりをして いつもなら相手にしないのに
何故か その時は
その男の不思議な圧に囚われてしまっていた


多分、身の上話をしたんだと思う

男は言った

「その旦那とは 必ず離婚するよ」

なんで そんなことが分かるの?
たった数分前に出逢っただけの 名前さえ知らない男なのに、、、

「分かるもんは 分かるんだよ 必ず別れる」


その後、
程なくして 実際 その時の夫と離婚した


渋谷から 埼玉へ引っ越し
三人目のパートナーと暮らし始め その生活も10年以上は続き
きっと、このまま この人と死ぬまで一緒に暮らすんだろうな

漠然とそう思っていた

「怒った顔も可愛いから 怒っても許す
でも 笑ってる顔がいちばん好きだから やっぱり 笑っていて欲しい」


無条件に愛されていた

隣の部屋にいるだけなのに
うざいくらいに 側に寄ってきて

おまえのことはほっとけない
と言う

ある時は勢いあまって 突進してきて あたしの足の指の爪が突き刺さり
身悶えていた(笑)


付き合い始めたばかりのカップルなら いざ知らず
もう飽き飽きするくらい
日々をともに過ごしているのに
愛妻家というのは こういう人の事を言うんだろうか

それなりに女遊びをしてきた人で
雑誌のFine?とかいうのにも 載ったことがあって
ヤッった女は軽く三桁以上 
そんなことも言っていた覚えがある

それが すっかり落ち着いてしまって
他の女の影を感じた事もない


ある時
同じ店で働いていた 美奈ちゃんという女友達が


「純ちゃん、手相を見てあげる」
と言うので
言われるままに 手のひらを差し出すと

「 あと、一回 別れるよ」

と、言う


だって、もう20年近く その人と暮らしているのに

俄かに信じ難かった

が、
美奈ちゃんの占いは 当たった


その頃、働いていた店にきた客の話もしておく


不思議な客だった


「お前さん、我が儘だろ?
女は我が儘なぐらいが魅力的だからな。そのままでいいよ」



初めて会って5分も経たないのにそんな事を
突然言い出す




「俺は笑って死にたいんだ」




戸惑うあたしに続けて
客は言う



「洪水で濁流に飲まれながら
死んでゆく少女がいた。
少女は笑っていた。
まだ10歳だった。
彼女は死ぬ間際に笑っていた。
自分が死ぬと分かりながらも
彼女はモナリザのように微笑んでいた。
死ぬ時に笑えるって、どんな気持ちなんだろう。
お前さんは好きなように生きたらいい。
今のままで」



まるで
全てを見透かしたかのように
そんな事を言われた


*****


時々、
自分というものが よく分からなくなる


死ぬとき
あたしは 笑って死ねるんだろうか


大バカ野郎って
苦笑いなら していそうな気もする、、、、



***





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