自動運転と道路管理コスト

自動運転レベル4(一般的定義によると「限定領域内においてシステムがすべての動的運転タスク及び作業継続が困難な場合への応答を実行する」もの。)下の自動運転による交通事故において、被害者には自動車メーカー、運転席にいる者、車両所有者に対して①運行供用者責任②不法行為責任③製造物責任を追及することが考えられる。ある論考を読んだところ、それぞれ被害救済に十分ではないという。
③は、自動車メーカーの運営に関わるので全力の反論が予想され、欠陥部の特定は被害者側が立証責任を負うことからも、立証の負担が重いだろう。
「被害者救済が迅速かつ確実に行われるか」 、 「損失負担が適切に行われるか」という2点のみを考えるならば、解決策として「任意保険の拡充」 、 「自動車メーカーに運行供用者としての義務を負わせる」 、 「新規強制保険の創設」がありうるところだろう。自動運転下で交通事故が起こったときの救済を拡充させることこそが自動運転の社会受容に対して不可欠という考えも是認する。
事故の損失補償が、十分・迅速に行われることは重要である。


しかし、しかしである。メーカーや道路管理者の負担コストも考慮されなければならないと考える。
自動車は中古車市場で転々流通されたり、カスタムされたりと種々の利用がされている。仮に本稿が言うようにメーカーに運行供用者としての責任を負わせるならば、自動運転車の改造を禁止させるほか、メーカーに定期的な点検の機会が与えられるべきである。点検費用はどこから賄うのか。

福井県永平寺町では駅から永平寺迄の間の道路に電磁誘導線を敷き、その上を自動運転車が走る運用がなされている。しかし、そのように「道路に電磁誘導線を敷設する」運用が全ての道路、特に高速道路での運用基準とされると、道路管理者には電磁誘導線を管理する責任(しかもこれは目視ではわからない)が新たに発生し、道路の管理コストが急増する。管理コストの増加は税負担や道路利用料の増大をもたらす。高速道路には、振動発電機を埋め込んで街灯の電力を供給する試みがなされるなど、道路の機能自体は拡充してはいる。しかし、管理コストへの考慮はなされてしかるべきではないか。

道路、特に高速道路に様々な機能を持たせるという考えは時折出てくる。しかし、管理コストを考慮したアイデアに出会うことの方が稀である。道路は一回作ったら終わりというものではない。白線を書き直し、穴ボコを埋め、周囲の崖に補修してこそ道路として機能する。管理コストは常に発生するのである。それを無視してはいまいか。

また、こんなことも考える。自動運転車導入当初から自動運転車が主流になるまでの間は、人間が
動かす車と自動運転車が道路上に混在することになる。現在、「運転席にいる人間同士のコミュニケーション」によって事故が防げている側面もあるだろう。
運転席から近隣者の運転席は良く見える。手でどうぞ、と示したり、ゴメン先に行く、と手を上げたりすることは一般に行われているものだろう。人間が動かす車と自動運転車が道路上に混在する間、交通事故は急減しないのではないか。むしろ最初は事故が増えるのではないかとさえ思われる。

自動運転の到来で交通事故が無くなる!という声はあるが、その実現はかなり先だろう。ただ、弁護士の中では交通事故分野の専門性がますます先鋭化することは容易に想定される。

様々な技術は世界を便利にするが、専門家が備えなければならない知見は技術進歩に伴って増えていく一方である。

何が言いたいかというと仕事が面倒くさいということである。頑張れAI。

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