ビッグモーター街路樹伐採の刑事事件立件について法律家として思うこと

ビッグモーター社が店舗前の街路樹を伐採し、除草剤を巻いていた。これについて、「道路法」違反により役員等が送検されたというニュースがあった。

道路交通法ではない。道路法である。
おそらく道路法101条違反という内容かと考えられる。

道路法101条は
「みだりに道路(高速自動車国道を除く。以下この条において同じ。)を損壊し、若しくは道路の附属物を移転し、若しくは損壊して道路の効用を害し、又は道路における交通に危険を生じさせたときは、その違反行為をした者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」と定める。

これは、器物損壊罪(刑法261条)が「他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と定めるものとは違い、親告罪(被害者がこいつを罰して欲しいと言った場合だけし処罰するもの)ではない。
どちらも最高刑が懲役3年となっており、罰条としてはあまり変わらない。ただ、器物損壊と道路毀損の影響の差を考慮すると、道路法101条の方が重い処罰が想定されているだろうと考えられる。

さて、道路法101条であるが、これは、「道路の附属物を移転、損壊」して「道路の効用を害し、又は道路における交通に危険を生じさせ」ることを要する。
道路の付属物については道路法2条2項各号が定めているが、道路の街路樹は含まれていない。
また、道路法101条が想定する「道路の効用を害し」とは、道路の使用目的である一般交通に著しい支障を与えることである。

街路樹は、道路の交通安全の確保を確保するものではなく、市街地の一部として道路の景観上の価値を増大させるものであろう。
したがって、条文上もその趣旨からも、街路樹は道路の付属物には当たらないものと考えられる。

今回、ビッグモーター役員らは道路法101条違反で送検されたということである。起訴されるとすれば、器物損壊罪として起訴されるのではないかと予想される。
なお、東京都はすでに街路樹伐採については刑事告訴を行っているようであり、器物損壊罪としての起訴は可能であるし、行政財産が棄損された以上、刑事告訴されてしかるべきであろう。

しかし、法律の想定されていない変化球的な適用は是認されるべきもない。法の適切な運用の観点からも、道路法101条違反による起訴がなされれば、弁護人としては無罪主張を行うべきである。

「悪いことをしたことに制裁を与える」ということと「刑事事件として適切な処罰を適用する」ことにはその精度も手続も天地の差がある。
弁護人はあくまで法制度の適切な運用のために主張するべきことを主張する者である。

現在は送検されたということにとどまり、立件がどのように行われるかは未定であるが、刑事弁護人の活動への根深い偏見にくぎを刺す意味でも、一つのニュースからいうべきことを言っておかねばならぬと考え本稿を記す次第である。

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