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ムツゴロウ先生とわたし

松本、坂本に続いてまたもや訃報です。といっても『ムツゴロウの青春記』等の著作を、青春時代に読んだくらいです。この本は面白く読めました。うろ覚えで紹介すると、敗戦後に学校制度が全面的に切り替わって、畑先生は新制度下で高校に進学、つまり男女共学のハイスクーラーとして青春をすごしました。数学の話が出てきます。数学教師に彼が相談したとき「数学なんて言葉を使うな。君らがやっているのは数のお稽古だ。数学はこげな本を読んで始まるのだ」と、ある本を見せつけられたのです。

これです。『解析概論』という本です。高木貞治という偉い数学者が、おのれの講義録をもとに一冊にした大著です。2010年ごろに岩波から再刊されたとき、ムツゴロウ先生も推薦のことばを寄せていました。"体が震えんばかりの感激" であると。

彼の青春期にはもうひとつ、物理学の本について触れていました。お兄さまが大学で使っている、力学の教科書を見かけて、読み切ってみせると言い切って、本当に十日ほどで読み切ってしまったそうです。原島鮮という方のお書きになった、大学一年生向けの教科書の上下巻でした。

この逸話は、私の心を鼓舞しました。ちなみに高校を卒業して後、あてもなく図書館通いをしていた頃です。『青春記』は文庫で持っていたので、たぶん本屋で買い入れたのだと思います。高校生だった頃のこの思い出話を、私はノートに何度も書き写した覚えがあります。あの頃の私は、本を読んでいて自分の励みになるような文があったら、それを日記に書き写すことがよくありました。

あの日記ノート、捨ててはいないので、どこかに保管してあると思います。ずっとずっと後になって、父がとある理由から鬱症になって後、それと直接には関係しないのですが私が自室を引き払って今の仕事部屋に移って、そのさらに後になって母が私の書棚を片付けたとき、あのノートも移されたのでしょう。

あのノートにあたれば、ムツ先生の『青春記』に刺激されて当時の私が県図書館で大学生向けの物理演習書や数学書をいろいろ借り出しては、枕元に置いていた様が綴られています。

実力不相応の、高すぎる空を、あの時の私は必死に見上げていたのでした。

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