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私を会社に連れて行って

本日、会社に辿り着き1階のフロアーでエレベーターを待っていた時である。わさわさと太い人も細い人も、男も女も、髪の毛長い人も短い人も、汗臭い人もこざっぱりした人もみんな待っていたわけである。

来た、エレベーター
開いた、エレベーター

「……」

そして、わさわさと待っていたみんな黙る。その後、太って髪の長い女の人がつぶやいた。

「满满的」

つまりはぎゅうぎゅうだったわけ。やれやれ。そのエレベーターは行ってしまった。そして、わさわさ代表でもないのだが、とりあえず私がエレベーターのボタンを押した。そして、やらかした。

おー、のー!

光栄ある映えある(?)わさわさ代表としてボタンを押したのにあろうことか下を押してしまった。上だろ、上。
その時、とっさに頭に言葉が浮かんだ!

私を会社へ連れてって

チーン

冷静なるわさわさ副代表により私の後に押された上のボタンに反応したエレベーターが到着し、望み通り私を会社へ連れて行ってくれることになった。ちなみに私が間違って押したボタンにより誘導されたエレベーターが地下に皆を誘おうとして到着し、陰謀にはめられた中国人たち、わさわさの同志が半分くらいあっちに乗っちゃった。自分が犯人であることがバレないように体を縮こめていた。日本人なのに、使えねえなこの日本人(私)。

それからしばし上昇しながら思ふ。

私を会社へ連れてって

これで、ピンと来る人、多分同年代です。やれやれ。普段なら、ぷ、ウケると思ってこういう小ネタを喜ぶのだが、今日は違った。

また、くだらないことに脳みそを使ってしまった……。

お金にならない妄想をする体質であり、普段はそのお金にはならないが害はない妄想を楽しむ自分なのだが、今日は喜べなかった。理由がある。現在自分は脳みそ温存計画発案中なのだ。曰く、人間の脳みそというのは何でもかんでも覚えていると記憶でパンクするので毎晩の睡眠の際に不要な記憶を削除しているらしい。あなたにも削除の小人がいる。

キコキコキコ
あなたの記憶の図書館を今日もカートを転がし小人がゆく。

「今日はどれにする?」
「これかな?」
「それにしてもこの人、記憶が膨大ね」
「というか、脳を酷使しすぎだよね」
「しかも、睡眠がきちんと取れない系だしね」
(熟睡ができない不眠系人間)

そしてこの削除の小人さんの取捨選択が最近おかしいのである。

「あ、忘れた……」

もともと人の名前を覚えるのが苦手なのだが、それがだんだんひどくなってきた。そして、最近、とっても大切な人の名前を努力しているのだが、何度も何度も忘れる。何度もである。

それは、旦那の名前か?違う。息子の名前か?ありえない。忘れるなんて地球が滅亡してもありえない。それでは誰か?

これはここだけの話だ。社長……

チーン……

転職しました。新しい会社の社長の名前、何度も忘れる。

削除の小人さん、どうして私は大切な人の名前を何度も忘れちゃうのかしら?

「いや、わたしたちに言われても」

まさかのたらい回し。役所ですか?君たちっ!

そこからしばし、自分の会社のデスクから空を眺め、むしろ空を通り越し宇宙を眺めるつもりで呆けた。そこで思ったことはこうである。

私、頭いいのが売りなのに。

私が自分という商品を売るときに、幼少の頃より大事にしてきたのは頭の良さである。実際にどのぐらいいいのかというテストは最近受けなくてもいい身分ですので、持ち前の口のうまさで実際よりも何割かマシで宣伝してきました。

持ってけ、ドロボー!

私が自分の売りを頭がいいことに決めたのは遥か昔だ。幼少の頃、女の子の髪を毎日洗うのがめんどくせと思ったあっぱれな母が、姉と私の髪を短髪にしようとした。

「いやだー」

姉が理髪店で泣きました。

「しょうがないな」

その結果、姉、長髪温存、妹→男子に見える化成功。

なぬー!

その時、歴史は動いた!つうか、女の子の髪は本人が望んでないのなら短くきっちゃダメですよ、世間のお母様方。

姉と私の売りがぱっかりと分かれたのはこの時だ。何を隠そう、うちのお姉ちゃんおめめぱっちりでそりゃ綺麗な子供だったのだもの。私はグリコのおまけだった!つうか、グリコはおまけが欲しいから買う人がいるので、グリコだった!

あ、わしゃ、美貌を売りにしたら一生浮かばれない。

そこで、冷静冷徹な子供だった自分は、美貌路線をキッパリと捨て、頭で生きていこうと思ったのだ。長い自叙伝でしたっ!

そこで、また削除の小人に話しかける。

「それなのにアホになったんですかね?困るんですよ、それだと」
「だからうちの部署じゃないって、うちの部署は覚えたものを削除する部署なのっ。あなたそもそも覚えてない」

チーン
また削除の小人にたらい回しにされた。小人のくせに態度でけえな。

そこで、また、仕事中なのにまた空を突き抜けて宇宙まで見通すほどほうけた。あかんやろ。社長の名前は覚えな、あかんやろ。

そこで、21世紀だ。ググってみた。

お?
皆さんも見るか?名前を覚えられなくて困ってる人は結構いるらしいぞ。

顔は映像、名前は文字情報。それを一緒にして覚える。例えば松本さんなら、松の絵を描いてその松の絵と顔を交互に見て覚えるのだそうだ。

おお!

で、絵を描いたのか?いや、違う。ただ、なんとなくわかった。名前だけだと覚えられないから、覚えやすい言葉と一緒にした。イメージの問題なのよ。

これでもう忘れないだろう!
パァああアアアアア!
人生が開けた。やれやれ。

そこで、また愛想のあの字もない削除の小人のところへ行った。

「覚えたよ。イエーイ」
「そうですか」
「間違っても消すなよ」
「じゃ、なんなら消してもいいんですか?」
「ん?」
「これならいいすか?」

別れた男の記憶 パート1、2、3……

「いや、これ、使うんだよ」
「何によ」
「恋愛小説書くのに、自分の経験は重要でしょ」
「はいはい。じゃ、これは?」

人生の危機 パート1、2、3……

「辛かった記憶なんていらないでしょ?」
「いや、使うんだよっ」
「またかよっ」
「でも、困難を乗り越えた経験がだなぁ」
「はいはい」
「部長、これしかないですよ」
「あ、これね」

こいつ部長だったのかと思いつつ、上司と部下で見ているファイルを覗こうとする。

「ちょっ、何それ?」
「そもそも持ち主に断り入れる必要なんてないんですよ。ここら辺ざっといきましょう」
「そだね」
「ちょっ、何?」

そして奪うようにして見た。……それは漫画のタイトルだった。

「え?」
「あんた、一気読みとか一気見しすぎなの」
「は?」
「漫画とかドラマとか頭痛いとか思いながら一気で見るでしょ?全部消します」
「お前らだったんか!」

大人買いして一気読みした本とか漫画とか、久しぶりに開いてみると、まるで初めて読むような感じ。全く覚えてない。

「見ても読んでも頭に残らないのはお前らの仕業だったんかー!」
「生きてくのに必要ないし」
「見過ぎなんだよ」
「つうか速度早すぎ」
「脳、酷使しすぎ」
「あ」
「何、どうした?」
「なんか消した」
「何?」

むくりと起きる。

「それ、仕事の記憶じゃないでしょうねっ!それも、今の仕事のっ」
「よくわかんない」
「どーすんだよっ!どーすんだよぉ」

やっと社長の名前覚えたのに。

「大丈夫だよ。あんた、メモ魔じゃん」
「帰ろ、帰ろ。あー疲れた」

カラカラカラ……
記憶の小人はいってしまった。
(お笑い芸人)
2024.04.24

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