入管法改正案について、G7 議長国として国際人権基準に則った審議を求める研究者声明

*2023年4月8日 声明の英語版フランス語版へのリンクを記事の末尾に追加しました
*2023年4月17日 賛同者一覧附属資料へのリンクを追加しました。396名の研究者に賛同をいただきました。呼びかけ人(29名)とあわせて、合計425名の研究者が声明に署名をしています。
*2023年4月20日 賛同者一覧から漏れていた7名を追加しました。賛同者は403名となり、呼びかけ人とあわせて、合計432名が声明に署名をしています。


今国会では、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の改正案が審議される予定です。この法案は、2021年にも提出され、市民社会の反対などにより廃案となったものとほとんど同じ内容となっています。
 スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管収容施設で亡くなった事件や難民認定の厳格さが示すように、日本における入管収容、難民認定のあり方は、G7諸国と比較すると、人権の保障が担保されない制度、手続きであることは明らかです。
 日本は今年、「自由、民主主義、人権 、法の支配といった基本的価値を共有する」G7諸国によるサミットの議長国を担当する予定です。そこで、議長国として国際人権基準に則った誠実な対応および国会審議を求める研究者声明を以下のように作成し、賛同者を募ることにしました。ぜひ賛同および拡散のご協力をお願いいたします。【賛同者の受付は終了しました】


【呼びかけ人】阿部浩己(明治学院大学教授)、安藤由香里(大阪大学招へい教授)、五十嵐正博(金沢大学・神戸大学名誉教授)、稲葉奈々子(上智大学教授)、上村英明(恵泉女学園大学名誉教授)、近江美保(神奈川大学教授)、岸見太一(福島大学准教授)、北村泰三(中央大学名誉教授)、窪誠(大阪産業大学教授)、斎藤民徒(関西学院大学教授)、佐々木亮(聖心女子大学講師)、佐藤以久子(桜美林大学教授)、佐藤潤一(大阪産業大学教授)、志田陽子(武蔵野美術大学教授)、申惠丰(青山学院大学教授)、鈴木江理子(国士舘大学教授)、髙橋宗瑠(大阪女学院大学教授)、髙谷幸(東京大学准教授)、建石真公子(法政大学教授)、谷口洋幸(青山学院大学教授)、中坂恵美子(中央大学教授)、新倉修(青山学院大学名誉教授・弁護士)、西立野園子(東京外国語大学名誉教授 武蔵野大学客員教授)、付月(茨城大学准教授)、藤田早苗(エセックス大学人権センター・フェロー)、松井芳郎(名古屋大学名誉教授)、宮島喬(お茶の水女子大学名誉教授)、村上正直(大阪大学名誉教授・招へい教授)、四本健二(神戸大学教授) (2023年4月9日)

趣旨にご賛同いただける方は以下の賛同フォームからご記入をお願いします。
→受付終了しました
*この声明は「研究者声明」としていますので、賛同者を「博士課程在籍(過去の経験も含む)以上」に限っています。ご理解をいただければ幸いです。
*賛同者の専門分野・領域は問いません。
*賛同の期日 2023年4月7日〜4月16日21時まで

賛同者一覧(403名/*4月20日更新)


入管法改正案について、G7議長国として国際人権基準に則った審議を求める研究者声明

今国会では、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の改正案が審議される予定である。2021年にスリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管で亡くなった事件が露わにしたように、日本における入管収容制度は構造的な問題を抱えている。また難民についても認定基準が厳しく、認定率がG7諸国に比して非常に低いことが知られている。こうした、日本における入管収容、難民認定のあり方は、G7諸国と比較すると人権の保障が担保されない制度、手続であることは明らかである【→付属資料、次の埋め込み記事を参照】。

 まず、現行の入管収容制度には以下の問題点がある。

 第1に、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)に基づく日本の出入国管理(以下、入管)収容制度では、「全件(原則)収容主義」がとられており、在留期間を超えて在留しているなど同法上の退去強制事由に該当する場合、難民認定申請中であるといった個別事情や逃亡の恐れの有無にかかわりなく、出入国在留管理庁(以下、入管庁)の収容施設に収容できることになっている。とりわけ、退去強制令書が発付されれば、入管法上、送還可能なときまで無期限に収容されうる。

 第2に、独立した機関や裁判所による司法審査を経ることなく入管庁という行政機関の判断のみで人の身体を無期限に拘束できる日本の入管収容の制度は、刑事手続の場合と比べても異例であり、自由権規約や拷問等禁止条約のような人権条約に照らして大きな問題がある。

 これらの点は、国連の自由権規約委員会などから繰り返し改善を勧告されている問題である[1]。つまり、収容は最終手段であって、より人権侵害的でない代替手段を検討すること、また収容の継続の合法性について、独立した機関による審査が確保されなければならない。

 第3に、被収容者が難民にあたる場合、国は難民の移動に対して必要以上の制限を課してはならず他国への入国許可を得るために必要な便宜を与えるとした難民条約31条2項に反する重大な移動制限を課すものになっている。

 日本の入管収容では、「人身の自由」の過剰な制限という人権への配慮がなく、日本で家族生活を築いており日本人配偶者や日本国籍の子どもがいるような人も含め、数か月から何年にもわたって長期間収容することによって様々な人権を侵害している。こうした中、見通しの立たない長期収容で心身を病み、自殺未遂をする人や、実際に命を落とした人も少なくない。ウィシュマ・サンダマリさんの事件が象徴するように、入管収容施設における医療体制の不備もたびたび指摘されている。


 加えて、今国会で審議予定の入管法改正案は、こうした入管収容のあり方を改善するどころか、さらに悪化させるものである。同法案は、2021年に提出され廃案となった法案と内容はほとんど変わらないが、当時の法案審議に際しては、国際機関[2]のほか、国際法・国際人権法ならびに憲法研究者ら124名も、国際人権法との合致を求める声明を公表している[3]。それらも踏まえると、今国会に提出されている入管法改正案には以下の問題点がある。

 第1に、難民認定申請中の送還停止効の例外を導入することは、難民条約33条1項や拷問等禁止条約3条1項などが定め、現行入管法53条1項に規定され、かつ慣習国際法にもなっているノン・ルフールマン原則に違反する可能性がある。

 日本の難民認定では、難民認定申請者本人に対し逮捕状が出ている、反政府団体の指導的立場にあるなど、その者が本国政府から個人的に把握され、狙われているかどうかが重視され、そうでなければ難民とは認められないという独自の個別把握論がとられており、難民条約にいう「迫害の恐れ」の要件のハードルが高く設定されている。また、難民審査が出入国管理から独立した機関によって担われておらず、入管側での国別人権状況の調査や、難民認定申請者からの聴取なども含め、難民に適切な保護を与える見地からの任務遂行が決して十分とはいえない。近年、難民認定者数は増加傾向にあるものの、それでも日本の難民認定率は2021年に1%未満と非常に低い[4]。なおドイツやカナダなど他の G7 諸国では 2~6 割程度に及ぶ。このような状況下では、難民認定申請を複数回行う者が出ることはむしろ自然である。難民認定制度が機能していない現状を見直すことなく、3 回以上の申請者等について送還停止効を外すという改正案は、迫害からの保護が必要な人を本国に送還するリスクがあり、ノン・ルフールマン原則の違反となりうる。

 第2に、退去強制令書が発付されても退去しないことへの罰則の創設に対する懸念である。退去を拒む人には、本国に送還されれば迫害の恐れがある、日本に家族がいるなどのやむを得ない事情がある場合が多い。前者はノン・ルフールマン原則に違反しうる取り扱いであり、後者も、子どもの権利条約3条1項で保障された子どもの最善の利益を優先させる原則や、自由権規約17条および23条に規定された家族の結合権を毀損する重大な人権侵害である。

 第3に、新たな「監理措置」制度に対する懸念である。「監理措置」が導入されても、主任審査官の裁量で認められた場合に限り例外的に適用されるにすぎず、収容が原則であることに変わりはない。このことは、収容は「最後の手段」としてのみ使用する国際人権法に反する。


 日本は自由権規約や拷問等禁止条約、難民条約の締約国として、これらの条約を誠実に遵守する義務がある。自由権規約委員会、拷問禁止委員会などの人権条約機関は、条約によって設置された履行監視機関であり、そのような機関が示した法解釈は有権解釈としての高い権威が認められている。憲法 98 条 2 項もまた、国際法遵守義務を定めている。

 いうまでもなく、自由権規約、難民条約などの条約は入管法を含む法律に優位する。今回の入管法改正案についても、国際人権機関からの懸念を真摯に受け止め、廃案にする可能性も含め、抜本的な再検討を行うことが喫緊の課題である。

 日本は今年、「自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有する」G7諸国によるサミットの議長国を担当する予定である。入管収容や難民保護という国内における課題についても、G7議長国として、これらの基本的価値にもとづき、国際人権基準に則った誠実な対応および国会審議が求められる。

                        2023年4月17日

注記

[1]
自由権規約9条で何人も恣意的に抑留(detention; 拘禁・収容と同義)されない権利が認められていることから、入管収容は最も短い適切な期間内で行われ、かつ収容以外の代替措置が適正に考慮された場合にのみ行われることとされている(2022年11月3日自由権規約第7回日本政府報告審査に対する総括所見UN Doc. CCPR/C/JPN/CO/7, 30 November 2022, para.33. https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CCPR%2FC%2FJPN%2FCO%2F7&Lang=en)、収容は諸事情に照らして「合理性、必要性及び比例性」がなければ正当化できないこと、「同じ目的を達成する上で権利侵害の少ない手段」を考慮しなければならない(自由権規約委員会一般的意見 35)。また、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会は 2020 年 9 月、正当な理由がなく司法審査もなしに長期間にわたって行われた入管収容を自由権規約違反とする意見を出している。
[2]
国連人権理事会の特別手続担当者(移住者の人権に関する特別報告者、恣意的拘禁作業部会、思想・信条の自由に関する特別報告者、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する特別報告者)による2021年3月31日付共同書簡(https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=26325&fbclid=IwAR2TnEqjZnr0vYRU39NG3LmsxgHDvTrViX8BH38QS27xtS_nWF4d2AB5nGQ【原文】、https://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2021/04/e315f47598caf32d41ca36db213c0592.pdf【ヒューマンライツナウ仮訳】)、 国 連 難 民 高 等 弁 務 官 事 務 所(UNHCR)2021年4月9日付見解(https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2021/04/20210409-UNHCR-Comments-on-ICRRA-Bill-Japanese.pdf?fbclid=IwAR1KyujOtmR7ZIXwt6ZYBtiyCzatpatTEl-6YcaIDxIR9UTEWM5L9_bspk4)
[3]
国際法・国際人権法・憲法研究者有志一同「入管法改正案の審議において国際人権機関の勧告を真摯に検討し、国際人権法との合致を確保することを日本政府に求める声明」(2021年5月11日)(https://drive.google.com/file/d/1mSqSS7H1Ttq0y43jTOC5nF_UE6A0GriO/view?fbclid=IwAR1Mxee7LTZIAzddn4wIjrZKZPCiraoFIXrygUPYMq78GkLrmeeiH9o0zsk
[4]
入管庁「令和4年の難民認定者数等について」(https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00035.html)。認定NPO法人難民支援協会「日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から」(https://www.refugee.or.jp/refugee/japan_recog/

英語版 English

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