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あの日のアン

四方をなだらかな山で囲まれた桃源郷ような町で育った女の子のお話


親愛なるひろこへ

私達 いつからの友達だったかしら 気がついたらいつも一緒にいたよね。 

画用紙に絵を描いたらきっと 半分が空 半分が山 高くもなければ低くもない 四方を山に囲まれた町。
並んだ家々は皆顔なじみの家ばかり
そんなのんびりした町で育ったわ。
春になると 川の辺りの桜がいっせいに咲き始めそれはうっとりするほどで町中の人が浮かれていたわ。 私達は いつもどんな場所でもおままごとが始まるの マナゴの赤ちゃんをすくって 小石で池づくり泳いでいるマナゴや めだかをいつまでも見ていたっけ。焼けた石の上にメダカをのせて
野良猫を手なずけようとしたり でも猫はちっとも引っかからなかったけどね。
私は 遊びに熱中すると時間を忘れてしまうものだから あなたはいつの間にかいなくなって 家で妹のあいてをしていたわ。私はどこでも眠くなるから川縁でついウトウト するとどこからか賑やかなおしゃべりが聞こえてきたの。川面をじっと見ていたら 川面を光が滑るようにキラキラ転がって川がいっせいにおしゃべりを始めたの 
(眠ってるなんて勿体ない私達とお喋りしましょ)って誘うのよ。
夏は セミ取り桜の木には甘い蜜があるのかしら 熊蝉がせわしなく鳴いていたわ。素手で取ろうとするんだけどおしっこをかけられたりで散々 それを見ていた腕白小僧が 蝉のはねをもいで私達に投げたり 蛙の足にひもを付けて地面に叩きつけたり 私達 乱暴な男の子が来ると 逃げ回ってたよね。でも時々優しくしてくれたわ。転んで泣いてる私をおんぶしてくれたのよ。きっと今は 優しいお父さんね。

秋になると 家の庭には柿の木がどこの家にもあったわね。私達学校から帰ると 必ず柿の木に登って 色々の空想の話をしたわ。深く 暗い山奥に一人暮らしのおばあさんが居て 昼間はニコニコしておいでおいでするんだけれど夜になると誘った子供を食べちゃう話とか 山を超えたところに小さなお城があってお姫様が牢屋に閉じ込められてる話とか 思いつくままお喋りして遊んだわ。あの日の柿の木まだあるのかしら懐かしいわ。冬は雪が積もると格好の遊び場になったわ。普段は黒ぐろとした畑があたり一面雪で真っ白 キラキラ光かがやいて踊り出してしまいそうだったわ。二人は(せえの~)って声を掛け合い後にジャンプ 二人の人型がくっきり (こんどはおしり~)なんてキァーキァー笑いながら雪の中を転げ回ったわね。今でも思い出すの 一番の思い出

一年を通してずっと一緒だったあの頃
赤毛のアンのお話なんて知らなかったあの日

 確かに私達 アンとダイアナだったわ。
そうそう私達の学校に始めてプールが出来て 夏休みは毎日プールで遊んだわ。
小学校最後の夏 プールの中であなたはいつも男の子に追い掛けられてたの 私は必死で追い払っていたわ でもあの時 私は飛び込みに夢中で何遍もジャンプしていたら 頭をプールの底におもいきり打ち付けて プールのそばで横になってたのよ あなたはまた男の子達に追い回されてたわ ぼんやりする頭で眺めていたら 何だかあなたが遠くに行ってしまいそうで 涙が溢れそうになったの これも秘密のことよ
中学生 あなたは賢くて 読書好きで誰からも愛され 人気者になっていったわ。私は 空想の世界にひたりきり 星が好きで 月が好き 宇宙が好き 空ばかり眺めている 変な子になっていたの。困った子でしょ
また 秘密教えてあげる
星空をずぅと眺めていたらね 体がすぅーと浮いて空に持って行かれそうになるの 不思議な体験 私は怖くなってしゃがみ込んで(ダメ もってかないで)って声を出すと 不思議と収まるの。夜空を見上げて 崖下に落ちたときも ふぁっと浮いてストンと着地したの まるでメリーポビンズが空から降りて来たときのようにね。
私は 秘密の宝箱を抱えて 今も怪しいお話を思い描いているけど あなたは今しあわせ?もし悩んでいることがあれば 子供の頃の宝箱を開いてみて
私達毛布を頭から被って屋根の上からあの山から昇る朝日を見て感激したことがあったわね。きっとあの時二人 同じこと考えていたと思うの 私達永遠の友達だと誓い合ったはずよね。
一生にただ一人でも 心の通える友を持てたことが私達に起きた 奇跡よ!
そして世界中のアンとダイアナに送りたいわ。あなたの心の中にある宝箱を大切にして どんな困難な時でも乗り越えることが出来るはずよ。 いつかまた おばあちゃんになっても私達が遊んだあの場所で 再会出来るわ。
ひろこへ
あなたが幸せなら私も幸せ
If you are happy,l,m happy too.



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