シクロホスファミドの性線機能への影響

シクロホスファミド(CY)はしばしば抗がん剤として, また免疫抑制剤としてSLEやAAV, ネフローゼ症候群に対して使用されるが,
 女性における無月経, 男性における無精子症の原因となる.

どのような影響があるのだろうか?


女性に対するシクロホスファミドの性線機能への影響

■ 女性におけるCYの無月経リスクは27-60%
□ CY治療後 平均4ヶ月で生じる.

 一過性のこともあるが, 多くは持続性の無月経となる.
□ リスク因子としてはCYの総量(Studyでは12-25g), またCY治療時の年齢が重要. ・ >40歳では無月経リスクが高い.
 
・ CY使用量が12-18gの場合, 無月経のリスクは<30歳では10%, ≥40歳では60%
・ 通常使用量(15g)では, <25歳では5-10%, 25-31歳では30%, ≥32歳で90%と試算
される
・ <10gではリスクは低く, さらに若年女性ではほぼリスクは無視できる.
(Neth J Med. 2004 Nov;62(10):347-52.)

卵巣癌の女性患者を対象とした報告では,

■ 早発卵巣不全を生じるCYの積算量は,

 20-30歳の女性で20.4g,
 30-40歳では9.3g,
 40歳以上では5.2g
(Cancer 1977;39:1403–9.)

ループス腎炎患者では, 


■ 14-20gの使用で
 >32歳女性の50%が卵巣不全を発症する一方,
 <32歳では10%のみ. 
(Pract Neurol 2020;20:148–153.)

SLEに対してLow-dose IVCY(500mg/body)を行われた患者群を評価

■ IVCY群 29例とPSL治療群 33例で無月経リスクを比較したCase-control Study
□ IVCYで無月経はおよそ半数以上で生じる.

 特に40歳以上では高頻度であり, また月経が改善するのも少ない.
 
40歳未満では半数以上で生じるものの, 治療後に改善を認める.
(BMC Womens Health. 2011 Jun 10:11:28.)

Systematic Reviewでは,

■ CYの使用, また積算量双方が不妊のリスク因子となる.

□ 特に10gを超える量では直線的に不妊リスクが上昇.
■ 治療開始時の年齢, SLE診断時の年齢が高いほど, 不妊リスクも上昇
■ IV投与と経口ではリスクに差は認められない(RR 0.70[0.37-1.30])
■ GnRHの使用は不妊リスクの低下効果が期待(RR 0.29[0.11-0.78])
(Autoimmunity Reviews 21 (2022) 103038)

男性に対するシクロホスファミドの性線機能への影響

■ 男性例のSLEは少ないため, 基本的に男性例のCYによる無精子症のリスクはネフローゼ症候群や悪性腫瘍に対して使用された場合の報告が多い.
□ 小児期, 思春期前の治療の報告が多く, 成人でも同様のことが言えるかどうかは不明確.
■ 全体的にはCYの総投与量と期間が関連しており,
300mg/kg以上の投与量がリスクとなる.

□ 100-200mg/kgでは20%で不妊のリスクがあり,
□ >400mg/kgではほぼ100% (JAMA. 1988 Apr 8;259(14):2123-5.)
■ 成人患者では, 総投与量168mg/kg(12wkの間 2mg/kg/日を継続するか, 70kgの患者において合計12gを使用する場合)は安全である可能性が高い.
(Neth J Med. 2004 Nov;62(10):347-52.)

(Neth J Med. 2004 Nov;62(10):347-52.)

Ewing肉腫や軟部組織肉腫に対して,
CYADIC(CY, doxorubicin, dacarbazine)治療
CYVADIC(CYADIC + vincristine)治療を行なった
男性患者58名の無精子症を評価.

■ 治療開始後4ヶ月以内に精子の産生は低下し, 無精子症となった.
■ 治療後に40%の患者が5年間のフォローにて無精子症が改善.

 5年以後は改善は認められなかった.
■ CY投与量では,
 <7.5g/m2では72%が改善した一方

 >7.5g/m2では改善は11%のみであった.
■ このStudyはCY単独ではなく, 多剤併用化学療法である点に注意
(Cancer 1992;70:2703-12)

CYの総投与量と無精子症の改善の確率

(Cancer 1992;70:2703-12)

⚪︎はネフローゼ症候群やBechet病に対してCYを2mg/kg/dで使用され, 少なくとも15ヶ月以上観察された患者群.
◼︎は骨髄移植の前投与としてCY 7800mg/m2を4日間使用した再生不良性貧血
▲はCY(V)ADICにより治療を受けた患者群

CYによる無精子症に対してはテストステロンが有効かもしれない

ネフローゼ症候群でCYによる治療を6-8ヶ月行う予定の15例を対象.
□ 経口CY群(5) vs IVCY群(5) vs IVCY+テストステロン(100mg IM q15日)に割り付け, 精子数, 血清FSH/LHを評価した.
アウトカム: 精子数の経過
 
 CY治療を行なった全例が6ヶ月で無精子症となった.
 
 テストステロン併用群ではCY治療後6ヶ月で精子数は改善したが,
 非併用群では6ヶ月で改善した例は1例のみ.
(Ann Intern Med. 1997;126:292-295.)

糸球体腎炎にてCYで治療が行われる患者群を対象.
□ 男性例11例はCY+テストステロンで治療(250mg IM. 15日毎)
女性例17例はCY+Triptorelin(A), またCYのみで治療(B)
□ IVCYは15-20mg/kg/M, 6-9ヶ月で施行.

 男性例における使用量は6-12g 平均7.7g,
 女性例では5.5-11g 平均8g
□ テストステロンはCY開始1ヶ月前〜CY終了時まで併用
男性のアウトカム
□ CY投与期間中に, 男性全例で精子数や精子運動は大きく低下.
 
治療終了後, 6-12ヶ月で精子数は上昇し, 9/10で正常化した.
(1例はアドヒアランス不良により除外されN=10)

 しかしながらBaselineと比較すると少ない.

まとめ

■ CYは無月経, 無精子症の原因となる.
■ リスク因子はCYの総投与量. 女性では年齢も重要.
■ 女性の場合, 20歳台ではリスクは低く, CYもある程度の量が耐えられる. 一方, 30台を過ぎてくると耐用量も減少し, 無月経のリスクも上昇.
□ GnRHの併用でリスクは低下する.
■ 男性では, 総投与量が重要であるが, その量は女性と比較して少なくても生じる. 
□ 女性では10gを超えてからリスクは上昇してくるが, 男性では7.5g/m2や100-200mg/kgでリスクがある(体重60kg換算で6-12g).
□ <7.5g/m2ならば治療終了後に数ヶ月〜数年かけて改善してくる可能性が高く, またテストステロンを併用することで改善がより早くなる.

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